放射線照射食品「アメリカの急激な動き」

里見 宏(食品照射ネットワ−ク世話人)


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 アメリカは1昨年の12月3日(1997)、牛肉および肉製品への放射線照射を許可しました。急いで認可した背景には、O157食中毒による肉への不安が広がったことがあります。肉の処理工程に問題があるのにそれには手をつけずに、汚染された肉を放射線で処理するという最も安易な解決方法を選択したのです。覚えている方は少ないと思いますが、クリントン大統領は日本でO157食中毒が起きたとき、輸出する肉の菌検査をすると発表しました。しかし、実施には莫大な金と時間がかかります。こうした問題を放射線照射でいっきに解決できると判断したに違いありません。アメリカのフロリダに民間の放射線照射施設があります。イチゴなどに照射して売出したものの多くの消費者からボイコットされてしまったのです。なぜなら、照射食品にはラドラと呼ばれるマークを付けるため、それがネックとなって思ったように売れないのです。そこで、アメリカ政府は今年の2月にラドラマークの表示をしなくてもよいという法律改正を行う計画を持っています。しかし、この改正には国民から意見を聞くべきだということで意見が集められています。5月で締め切られる予定が多くの意見が出されているため7月まで延期されました。5千件近い意見のほとんどが表示は必要といものです。食べ続けて大丈夫という保証がないからはじまって、選択の権利は消費者にあるまで幅広いものです。日本からも意見を送ってあります。

アメリカ企業の動き

 照射食品は流通業界に大きなメリットがあります。アメリカの食料雑貨の業界団体は「未来の安全テクノロジー」として照射食品を推奨しています。彼らは安全の証明に「宇宙飛行士も照射食品を食べていた」というキャンペーンを行なっています。この話は一般市民に以外と説得力があるのです。しかし、NASA(米国航空宇宙局)は「宇宙飛行士は照射した肉を食べたくないようだ」と報告しています。照射した肉は味が落ち、髪の毛がこげるような特有な臭いがすることから、飛行士たちは照射肉に食が進まないとしています。  アーカンソウ大学のレッドハーンらは健康管理施設などで働く600人の栄養士に食中毒防止にどの様な方法に投資をするかというアンケートをとっています。その結果、彼らは食中毒防止方法として放射線照射や化学薬品による洗浄よりも、HACCPシステムを一番好ましい方法として選んでいます。

アメリカの市民団体の動き

 もちろんアメリカの市民団体も照射食品には強い抵抗を示し反対運動をしています。牛肉への照射に対し、フンにまみれた肉(毛皮にフンがついていて解体時に肉を汚染する)、不潔な処理プラント、非人道的な家畜の扱い。こうしたやり方を改善しないで照射することが問題としてマスコミに意見広告を出し運動を展開しています。また、フロリダにある商業用の照射施設は反対運動で営業開始以来ズ−ッと赤字を続けています。最新の動きはハワイでパパイヤやマンゴーにつく害虫を照射して殺し、アメリカ本土に持ち込むための実験的販売が行われていてます。これに伴って、ハワイに商業用照射施設を作ることになり住民投票や裁判が行われています。日本からも12消費者団体の名前で照射反対の申し入れや、新聞への投書が行われています。

日本でも準備が進む

 放射線照射という異常な殺菌方法を一般の食品にまで拡大するにはそれなりの状況を作りだす必要があります。アメリカではO157食中毒が大きな理由にされました。世界中の照射推進派は食中毒と感染症を予防できるかもしれないという論文を発表しています。医学関係のデ−タベ−スで、この2年間の照射食品関係の論文を探すと49本ありました。そのうち30本が中毒や菌と関係したものです。  日本で心配なのは菌で国民が威かされているからです。マスコミが「輸入鶏肉にバンコマイシン耐性腸球菌発見」と報道しています。「メシチリン耐性黄食ブドウ球菌(MRSA)」に唯一効く抗生物質がバンコマイシンです。二つの菌の間には直接関係ないのですが、もしかしたMRSAが耐性を持つかもしれないよと威かしているのです。だから輸入鶏肉にも照射が必要だよという影が見え隠れしているのです。この問題はバンコマイシンに良く似た構造のアボパルシンを家畜の飼料に添加したから起きた問題です。この球菌が検出されたタイ国は照射施設があり、輸出用の食品に放射線をあてたい国の一つです。腸球菌は熱に弱いので普通に調理すれば高度に汚染された鶏肉でも心配ありません。さて、チ−ズからリステリア菌、低温殺菌牛乳からQ熱、台湾のブタは口蹄疫、鶏に新型インフルエンザ、最後は人喰いバクテリアなど移る病気で毎日といっていいほど脅かされている状況にあります。実はこうした状況が放射線照射の突破口になるのです。  アメリカの支援でマサチューセッツ工科大学、東京大学、スイス連邦工科大学の共同研究のなかで照射食品が取り上げられています。世界が安全だといっているのに日本は照射ジャガイモ以外なぜ許可しないのかというのがテーマです。そして、彼らは日本の消費者は照射食品のことを知らないし、アレルギーを持っているのと日本政府が積極的に動かないのが問題だとしています。日本もいずれは照射を解禁せざるを得なくなろうと推測しています。

照射食品の問題点

もともとこの照射食品は、戦場で戦う兵士の食料を腐らせないために考えられたものです。しかし、放射線の強いエネルギーで、食品成分に変化が起き、動物実験で繁殖能力の低下、死亡率の増加、ガンの増加が疑われることから一九六八年七月、アメリカ政府は照射食品を禁止した経緯があるのです。  日本は「原子炉の多目的利用法の開発」を目的に研究が始められました。米、小麦、ジャガイモ、タマネギ、みかん、ウインナーソーセージ、水産練り製品の七品目が許可品目としての対象です。一九七四年一月に北海道士幌農協から照射ジャガイモが市場へ売出されました。続いて照射たまねぎが許可される予定でしたが、動物実験で死亡率の増加、睾丸と卵巣の重量減少、照射たまねぎを食べたネズミが子どもを産むと生殖器異常や頚肋といわれる奇形(首の骨にも肋骨がついている)が現れることがわかり、一九七八年三月原子力委員会はすでに市場に出ている照射ジャガイモを除いた六品目について「遺伝的安全性」の実験を追加するとして研究延長を決定し、その後許可になった品目はありません。照射ジャガイモの実験データを分析すると、栄養成分の破壊、食品成分の一部が変化し毒性を示す。動物実験で体重の減少、卵巣重量の減少などが、また食べた雄ネズミが子どもつくると2割をこえる胎児に異常がおきことが報告されています。また、照射食品かどうか調べる方法がないなど多くの問題があります。

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