1943年、米陸軍は食品保存に放射線を照射する研究を開始した。しかし、一度許可になった照射ベーコンが禁止されるや(1968年)、照射食品の開発から手を引いていった。しかし、それまでに行われた莫大な照射食品の実験データは軍の機密とされた。
封印されたデータも50年が過ぎ、厚生労働省の医薬品食品衛生研究所の研究者が米軍のデータの調査はじめた。(2002年から3年間)内容は大変重要なものでる。
一部抜粋を紹介するが、全文は下記アドレスで読むことができる。
「重要部分抜粋」
データを読んだ研究者は「ここで扱う元のデータは古いがその後食品中の誘導放射能についての研究はほとんどなく,現在でもいわば最新の研究成果であり,現在までの照射食品の安全性論議などに大きな影響を与えてきた重要な内容である。しかし,軍のベールのなかで研究されたこともあって,詳細なデータは学術報告などとして広く公表されてこなかった。そのため現在でも詳細な文献を入手することは難しく,2005年の食品安全委員会の調査報告書にもこのNatick研究所の放射化の研究に言及がない。さらに千ページにならんとするNatick研究所の報告書をまとめた資料もみあたらないので,煩瑣をいとわずデータや実験手法を記載し,後日のこれらのデータを検証する際の参考となるようにした。 2002年から2004年頃にかけて,照射食品の安全性調査研究に資する目的で調査研究し,今回,高エネルギーX線による放射化を中心に調べたので報告する。」
まとめと結論
現在照射食品に国際的に認められているコバルト60,10MeVまでの電子線,並び5MeVまでのX線を用いても,食品中に含まれる元素によっては,放射能を帯びることが報告されている。
誘導放射化は原理的に起きないとされているコバルト60を50kGy照射した牛肉,ベーコンからバックグラウンドの2.4倍,3倍の誘導放射能を検出した。また,核種は示されてはいないが,牛肉でも4.5kBq,ベーコン2.3kBq,2.7kBqなどの誘導放射能が観測されている。
毒性実験の中に,照射直後の照射食品に問題ありとする研究があるので,半減期の短い放射性物質による体内被曝の確定影響と確率影響を見積もる必要があるが,今後の課題である。例えば,インドにおける照射小麦の安全性を調べる実験で,照射直後の小麦を食べたグループの子供の末梢血中に倍数体細胞が多く検出されたという。各国でこれについて動物実験が繰り返されたが,それら複数の追試の間ですら一致した結果が得られていない21, 22)。原因についても,統計的におかしい,栄養の不足,実験の失敗などに帰着され明確でない。このような現象を誘導放射能の確定影響等の観点から精査した論文を持ち合わせない。
現在照射食品を認めている各国において,照射食品の安全性を論議した1990年頃,本稿で示したようなデータの存在は一般に知られておらず,誘導放射能のリスクについて厳密な議論は避けられてきた経緯がある。従って,外国の例を参考にしても,これら誘導放射能が社会的に容認できるのか否か,直ちに判断することは難しい。
照射食品を安全に流通させるためには,一般に食品添加物が必要である。食品照射は多くのラジカルを食品中に発生させ,食品中のビタミンEなどの抗酸化成分を極端に減少させるので,これらの影響を防止する必要がある。実際に実験動物用の照射餌料には多くの添加剤が使用されていること23)からも,それが必要不可欠であることは明らかだ。
最後に本稿とは目的が異なるので論じなかったが,筆者らは,誘導放射化が照射食品の検知に使用できないかとの観点から10MeVの電子線照射による誘導放射能を予備的に測定した。 Natick研究所の研究よりもっと広い範囲の元素について,放射化が観測されており,50年後の理論と高い測定技術に基づき,この問題はさらに精査が必要だろう。
文献
X線並びにγ線を照射した食品に生じる誘導放射能
(Induced Radioactivity in Irradiated Foods by X Ray or gamma Ray)Bull.Natl.Inst.Health Sci.,125,107-118 (2007)
国立医薬品食品衛生研究所食品部 宮原 誠
http://www.nihs.go.jp/library/eikenhoukoku/2007/107-118.pdf
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