これからの照射食品の問題点 三菱総研の「リスクプロファイル」の危うさ
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健康情報研究センター
里見 宏
厚労省の今後の方針
2006年10月、原子力委員会は「食品への放射線照射について」を厚生省に通知しました。厚労省はそれを受け、07年、照射食品に関する資料を三菱総研に3千万円で委託しました。この報告書は「これまでに公表された科学的知見を収集し、食品へ放射線照射を行うことにより生じると考えられる危害要因について、収集した文献等を精査・分析し、リスクプロファイル原案を作成するとともに、食品への放射線照射について、我が国内におけるニーズを把握するための調査を実施したものである。」というものです。
09年5月、提出された報告書に推進派からも反対派からも間違いが指摘され、厚労省は三菱総研に再提出を命じました。三菱総研は1年をかけ、報告書を訂正し「食品への放射線照射についての科学的知見に関する調査結果について」を10年5月に厚労省に提出しました。
訂正は7ページ52項目にも及ぶ訂正表になりました。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/housya/dl/houkokusho23.pdf
これを受け、10年5月18日、厚労省は薬事・食品衛生審議会食品規格部会を開催しました。この会議で厚労省は、三菱総研の報告書を引用して資料1の今後の方針を示し、照射食品については審議することなく閉会しました。
資料1;厚労省の今後の方針(10年5月18日の審議資料より)
● 厚労省の今後の方針は「科学的知見が不足しているとされる以下の、事項について、関係者に情報の収集を要請する。」
1.各照射食品中のアルキルシクロブタノンの生成量及びその推定暴露量。
2.アルキルシクロブタノンの毒性(特に、遺伝毒性、発がんプロモーション作用)
● 消費者の照射食品に関する情報がないとして、
1.「原子力委員会に対し、国民との相互理解を一層進めるためのさらなる取り組みを要請する。」
上の3項目は厚労省が三菱総研の報告書に記載されていた部分を引用し、今後の方針としたものです。この3項目だけが問題でなく、他にも問題があります(資料2)。今後、原子力委員会などが、厚労省の方針に沿ったデータを出してくれば薬事・食品衛生審議会に諮ることになると思います。慢性毒性、発がん性実験などが必要となります。
もうひとつ、厚労省の方針で、「国民との相互理解を一層進めるためのさらなる取り組みを要請する」というのですが、今回の調査で、多くの消費者は照射によって危険なものができるかもしれないと警戒していることがわかっています。多くの消費者は放射線照射に疑問を持っていますが、原子力委員会は技術独占をよいことに一方的な情報しか公開してきませんでした。こうした歴史が大きな壁となり、不信感につながっています。これから原子力委員会は多くの団体・個人と接触し、賛否は別にして相互理解の努力をしたという実績を積み上げたといってくるでしょう。しかし、これまでの体質がある限り、厚労省がいう相互理解とはまったく質の違ったものであり、消費者は受け入れないでしょう。(資料3)。
資料2;三菱総研報告書より
過酸化物
(1)注目されるようになった経緯
食品に放射線を照射すると、ヒドロキシラジカル等の各種のラジカルが生じ、これが引き金となって様々な化学変化が起こり、種々の過酸化物が生じる。
国内外の多くの研究によれば、過酸化物、特に過酸化脂質は、大量に摂取すると下痢、胸やけ、嘔吐等の症状を引き起こすだけでなく、動脈硬化等との関連も指摘されている。
発がん性上述の変異原性やDNA との化学反応のデータなどから、過酸化脂質と発がんの関係が指摘されている。
(8)不足しているデータ
食品に放射線を照射した時に生じる過酸化物については、食品への放射線照射が導入された初期に多くの研究が行われた。今後も必要に応じて、最新の科学的知見を反映させるべく、最近の新しい分析技術を用いて、照射による過酸化物の生成量と毒性、保存・調理過程での変化等についてデータを充実させるとともに、過酸化物の健康影響についての研究動向を注視しておくことが望ましい。
放射線分解生成物
(1)注目されるようになった経緯
1950 年代からの米軍の研究において、食品への放射線照射によって各種の分解生成物が生じることが報告され、食品安全上の危害要因になるのではないかという懸念が提起された。
不足しているデータ
放射線照射にともなう分解生成物については、揮発性物質を中心に照射食品の安全性研究の初期段階に多くの分析が行われている。例えば、糖とアミノ酸の混合物など、発がん性との関連が指摘される物質についても、放射線による分解生成物は加熱等の調理加工による分解生成物と同等であることが確認されている。今後も必要に応じて、最新の科学的知見を反映させるために、研究動向を注視しておくことが望ましい。
アルキルシクロブタノン
(1)注目されるようになった経緯
1970 年代に放射線照射によって特異的に生成する放射線特異的分解生成物(UniqueRadiolytic Product, URP)として2-アルキルシクロブタノン(以下2-ACB)の存在が確認された1。その後、1990 年代後半にドイツ国立栄養生理学研究所の研究グループがコメットアッセイ(個々の細胞におけるDNA 損傷を検出する試験法)を用いて、本物質が遺伝毒性を有する可能性を示唆した。
(8)不足しているデータ
各照射食品中のアルキルシクロブタノンの生成量及びその推定暴露量については、さらにデータの蓄積が望まれる。また、アルキルシクロブタノンの毒性(特に、遺伝毒性、発がんプロモーション作用)についても、今後の研究の動向を注視し、データを充実させていく必要がある。
解説;三菱総研の勇み足記述である。これは大阪府立大学の古田雅一氏が食品安全委員会より「アルキルシクロブタノン類を指標とした照射食品の安全性解析」というタイトルで3年間の研究費を受け取っていることが背景にあるようです。この研究の内容は「アルキルシクロブタノンに関して、天然および照射食品中の量、照射線量とその生成量の関係を調べる。同時に毒性試験データの再確認とプロモーション活性を含む発がん性の有無等この物質の健康影響に関する科学的知見を収集する。平成21年度配分額15,000千円0(契約締結日(H21.5.1)」というもので、慢性毒性や発がん性を実験するのでなく、これまでにやられた研究の再確認実験です。この報告書の提出を見越して、三菱総研は報告書をまとめたことが問題です。この実験が報告されると厚労省の今後の方針の半分がクリアーされたのだと押し切る可能性があります。消費者は慢性・発がん性実験で安全性を確認することをも求め続ける運動が必要です。
注;古田雅一生物科学科准教授の専門分野(放射線利用一般。食品照射。放射線、超音波による殺滅菌技術の開発。放射線架橋法の医用材料開発への応用。放射線の知識普及 大阪府立大学HPより)
微生物の増殖
(1)注目されるようになった経緯
1960 年にアフラトキシンが発見され(七面鳥X 病事件)、その後インドなどで食中毒が報告される中で、1970 年代から80 年代にかけて、食品の放射線照射処理により、アフラトキシン生産カビにおけるアフラトキシン産生能が増加するという研究結果が報告された。その他、オクラトキシン生産カビにおけるオクラトキシンの増加等も報告されている。
食品照射によるアフラトキシン産生能への影響をみた研究報告はあるものの、実際の照射食品においてアフラトキシンの中毒例は報告されていない。香辛料などからアフラトキシンが検出されることがあるが、照射香辛料から実際に検出されたかは不明である。
(8)不足しているデータ
放射線照射によりアフラトキシン産生菌のアフラトキシン産生能が増加するという懸念は、1980 年代の研究をもとにWHO の報告書(1994)やEC の食品科学委員会の見解(2003) で否定されており、特段の追加データは必要ないと考えられる。
放射線抵抗微生物(ボツリヌス菌など病原性微生物)
(1)注目されるようになった経緯
放射線照射によって微生物の突然変異が引き起こされ、放射線抵抗性微生物が発生するのではという指摘がある。ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)やセレウス菌(Bacillus cereus)は、食中毒の事例が国内外で多数報告されており、その芽胞は放射線抵抗性が高いことが知られている。そのため、照射後残存した芽胞が発芽、増殖及び毒素産生を行い、中毒を引き起こす危険性が示唆されてきた。特にボツリヌス菌に関しては過去に多数の研究がなされている。特に魚介類に照射を行うと、体内にグリコーゲンが生成してボツリヌス菌の毒素産生が増加したり、酸素非透過性の袋に保存した試料では、嫌気性菌であるボツリヌス菌が増殖しやすくなる可能性が指摘されている。
国内外においてボツリヌス菌等による食中毒は今までに多数報告されている。照射食品に関しては、魚介類でボツリヌス菌感染のリスクが高いとされている。魚介類の照射は多くの国で禁止されており、照射食品に由来する中毒事例は今まで報告されていない。
(違法照射シャコやホッキ貝などがあることを調査していない三菱総研の判断ミス)
(8)不足しているデータ
放射線抵抗微生物が放射線照射食品において特異的に増加するという懸念は、上述の通り、WHO の報告書(1994)2 で否定されている。また、ボツリヌス菌などの特異的増殖についても、同報告書において、照射特有の危害を起こさせることはないとされている。したがって、特段の追加データは必要ないと考えられる。
誘導放射能の生成
(1)注目されるようになった経緯
食品中にはもともと自然の放射性元素(ラドン等)が存在する。第二次世界大戦終了後、各国で食品への放射線照射の実用化の研究が進められる中で、食品への放射線照射によってさらに放射能を誘起する(誘導放射能)ことは極力避けるべきとの観点から、各国で照射食品の健全性についての研究が行われた。1960 年代にこれらの研究を踏まえ、JECFI は安全を見越して、電子線発生装置からのエネルギーは最高10MeV、X 線は
5MeV 以下とする勧告を出した。
(8)不足しているデータ
上述の通り、これまでのWHO の報告書(1994)2 やIAEA の報告書(2002)4 での検討により、食品への放射線照射によって生じる誘導放射能は、有意なレベルに達しないとされている。国内の研究でも、ストロンチウムなどの一部の核種についてはガンマ線照射による放射化が測定されるが、食品中に含まれるとしてもその含有量は微量であるため、安全上問題にならないことが確認されている。従って、通常の組成の食品であれば、特段の追加データは必要ないと考えられる。
栄養価等の損失
(1)注目されるようになった経緯
1950 年代から60 年代にかけて米国陸軍で過剰照射された食品を餌として用いて行われた動物実験において、ビタミン不足による不妊等が観察されたことにより、食品照射により、ビタミン等の生理活性物質が分解されることが明らかになった。
(8)不足しているデータ
上述の通り、WHO の報告書(1994、1999)において、10kGy まで、又は10kGy を超える照射について、一般的には照射による特別な栄養学的問題は生じないとされている。
その一方で、例えば、1981 年の報告書では、「個々の照射食品における変化の重要性とその食事中の役割について注意を払うべきである」とされ、1999 年の報告書では、「チアミンは食事からの摂取量の計算を行うべき唯一のビタミンである12」とも述べられている。そこで、放射線照射食品の利用に当たっては、チアミンをはじめとするビタミン等の減少率のデータと食品の想定される利用用途、摂取量等を考慮して、栄養学的な健全性について確認することが望ましい。
食品の加工適性、食味・風味への影響
(1) 注目されるようになった経緯
放射線照射した小麦粉におけるグルテン分解による製麺適性の低下や、卵の粘度の低下、この他にも放射線照射による味、臭い、テクスチャー等の変化の可能性が示唆されてきた。
(8)不足しているデータ
炭水化物、脂質、タンパク質等の食品中の成分に放射線照射が与える影響については、既に多くの研究があるが、多数の成分からなる実際の食品では、放射線照射による影響は、食品中の成分や照射条件等により変わる。放射線照射食品の利用に当たっては、目的とする食品の利用用途等を考慮して、加工適性や食味・風味への影響について検討が行われることが望ましい。
食品包装への影響
(1)注目されるようになった経緯
食品照射の利点として、既に包装済みの食品を放射線照射により殺菌できるという点が挙げられるが、その一方で、包装材への照射による有害物質の生成や、包装材の劣化の可能性が指摘されてきた。
(8)不足しているデータ
放射線照射による包装材への影響については国内外で各種の検討が行われ、海外で食品照射に利用可能な包装材の規定も設けられている。今後、従来食品照射に利用されていなかった包装材を新たに利用する場合は、当該包装材が食品照射に対応していることを確認するためのデータを整備することが望まれる。
資料3;三菱総研の報告書に、照射してできる新しい物質について、「消費者の関心・認識」をまとめています。「食品への放射線照射に関するアンケート によれば、一般消費者の食品への放射線照射に対する認知度は現状では高くない。ただし、同アンケートでは、照射食品について「食品中の成分が変化し、未知の健康影響をもたらす恐れがある」と思うかという設問に対して、69%の回答者が「そう思う」または「どちらかというとそう思う」と回答しており、この問題に対する潜在的な関心は高いと考えられる。」と報告しています。
多くの消費者が照射食品の持つ危険性を敏感に感じ取っています。この部分を変えて来いという要請を原子力委員会に厚労省がしているということです。
三菱総研のリスクプロファイル作成にあたっての問題
「今後も必要に応じて、最新の科学的知見を反映させるために、研究動向を注視しておくことが望ましい。」というような表現で報告書をまとめているのですが、安全に関して足りないデータに「注視しておくことが望ましい」と言う表現は非科学的です。逆に推進派が必死で打ち消してきた微生物の突然変異などがありますが、魚介類には照射が禁止されているなど、現実に違法照射がされている事実を無視した評価がされているのが評価をしているのが問題です。2-アルキルシクロブタノン類について慢性・発ガン毒性に関して、理由も明確にせず(特に、遺伝毒性、発がんプロモーション作用)と書いたことは今後問題になります。
資料4.リスクプロファイル;食品の安全性に関する問題及びその内容を説明したもの。
リスクプロファイルの項目
@ 対象となる危害要因及びそれが含まれる食品の特徴(関連する情勢、生産方法、品目、生産量など)
A 対象となる危害要因が注目されるようになった経緯
B 対象となる危害要因の科学的特性と分析法
C 対象となる危害要因が人の健康へ悪影響を及ぼすであろう問題(代謝、体内での動態、毒性、食品経由の摂取量、その他の暴露)
D 対象となる危害要因の海外及び国内における含有実態(実態調査結果、汚染経路及び汚染条件)
E 対象となる危害要因の既知の食品からの低減方法
F 対象となる危害要因に対する国際的及び各国の取組状況(リスク評価の状況を含む。)
G 対象となる危害要因のリスクに対する消費者の認識
H 可能であれば対象となる危害要因に関するリスク評価機関への想定質問事項
I 現時点で不足しているデータ
リスクプロファイル作成時に不足しているデータの作成
リスク管理者は、リスクプロファイルの作成・検討に当たって、データが不足していると判断される場合には、国内で早急に調査を行うかどうかを検討し、必要な調査を行う。
「農林水産省及び厚生労働省における食品の安全性に関するリスク管理の標準手順書より抜粋」(平成18 年10 月5 日改訂版)
三菱総研報告書の問題点事例
● 照射食品は安全であるというデータを実験委託会社に発注し続けたIFIP(照射食品国際プリジェクト)は1970年、西ドイツ、英国、米国、オランダ、イタリヤ、ハンガリー、南アフリカなど19カ国(その後24カ国)によって組織された私的国際組織である。年間予算は50万ドル。この資金で実験委託会社が実験を行い、その数は50篇をこし、結果をテクニカルレポートIFIP R○○号として会員国に送っている。この実験は学会誌等に公開されることがほとんどなく、この未公開の論文によって照射食品の害作用はないという評価に大きく影響を与えてきた。三菱総研のリスクプロファイルも推進派の論文によって骨子が組み立てられており、また、三菱総研の報告書の中ではこのIFIP の影が消えていく扱いになっており問題の根は深い。また、こうした問題が法廷で議論になった照射ベビーフード裁判に関する資料の収集を申し入れてあったが、判決文を今回収集したもののリスクプロファイルには何の参考にもされていない問題がある。
● 米陸軍が照射ベーコンとハムなどを止めていくことになったデータの収集を求めてあったが、今回集めたとされるものは「米国陸軍による慢性毒性試験の結果」というタイトルであるが、現物は「照射食品安全性検証の歴史」とい推進派の雑誌「食品照射」の1ページをコピーすると言うズサンなものであった。
● 「照射コムギを食べた栄養失調児における倍数細胞の発生に関する研究の経緯」という資料も追加されているが、推進派のまとめた「照射食品の安全性と栄養適性」コープ出版, 1996) 第6 章の頁のコピーであり、問題提起されたデータが打ち消されていくときの非科学的やり方が問題という疑問に何ら応えていない。P.4
● すでに政府によって行われた諸外国での照射食品の動向に関する調査について報告書は引用していないなど、資料の収集の仕方に偏りがあり、こうした資料で報告書を作ることは公平さを欠いている。(平成16年3月、「食品への放射線照射技術の安全性に関する欧米の取組状況調査報告書」)
● 宇宙飛行士が照射食品を食べていたが照射臭などの問題で宇宙食への照射をとりやめていった経過もまったく調べられていない。このためナサが開発したハサップが食品業界に取り入れられている現状を無視したものである。
● アルキルシクロブタノンの毒性(特に、遺伝毒性、発がんプロモーション作用)としたが、特にと括った部分について遺伝毒性と発がんプロモーション作用を特にとした三菱総研の評価は何の根拠も示しておらず、毒性評価を歪曲するものである。
● 推進派から報告書に反対派の申し入れ文書が資料として添付されていることについて指摘されると、そのまま削除するなど報告書の作成あたって一貫性がないことを露呈している。
● 報告書は「魚介類でボツリヌス菌感染のリスクが高いとされている。魚介類の照射は多くの国で禁止されており、照射食品に由来する中毒事例は今まで報告されていない。」として、特段の追加データは必要ないと考えられる。としているが、違法照射シャコやホッキ貝などがあることを調査していない三菱総研の判断ミスである。
● 栄養価等の損失はある。また、照射臭など嗜好を変えるための問題がある。
照射食品問題の経過
日本では食品に放射線を照射することが法律で禁止されています(食品衛生法11条の規格基準、昭和34年12月厚生省告示第370号)。しかし、1972年、例外的にジャガイモの発芽防止のための照射が認められ、2年後、北海道の士幌農協から照射ジャガイモが出荷されました。しかし、消費者団体から安全性について疑問が投げかけられ、販売は思うように延びない状況になっていました。
新しい技術が開発されるとすぐ悪用する企業もでてきます。和光堂のベビーフードに殺菌目的で違法な照射が下請け企業と、照射会社によって行われ、4年間で15種類の粉末野菜70トンが持ち込まれ、2,500から30,000グレイの(25万ラドから300万ラド)という違法な照射がされていました。中神食品の野菜は和光堂をはじめ、雪印乳業、明治乳業、味の素、キューピーなど14社に納入され、大半が何も知らない赤ん坊の離乳食として、一部が焼ソバや中華あじなどに使われ、国民が食べさせられるという前代未聞の事件が起きました。
1978年9月、この事件が発覚、刑事事件として高裁まで争われました。このとき照射推進の研究者は1980年、IAEA(国際原子力機関)・FAO(世界農業食糧機構)・WHO(世界保健機構)合同専門家専門委員会が10,000グレイ(100万ラド)までの放射線照射は問題ないとしており、これを根拠にベビーフードへの照射は問題ないと論陣を張りました。
しかし、判決は照射を依頼した和光堂の下請け企業の中神食品と照射をしたラジエ工業に有罪(中神食品関係者は懲役8ヶ月執行猶予2年、照射したラジエ工業には罰金10万円)を申し渡しました。
この事件の発端に、中神食品にラジエ工業を紹介した照射食品推進派の研究者がいたこともあり、照射食品推進の力をそぐことになりました。しかし、原子力委員会と推進派の研究者はこの事件が風化していくのを待っていたのです。
遅々として進まない照射食品の解禁に、2000年、全日本スパイス協会からスパイス94品目への照射要請が厚労省に出されました。しかし、消費者の反対もあり、らちがあかないと見た原子力委員会は06年10月、「食品への放射線照射について」をまとめ、スパイス及び一般食品への放射線照射を解禁するように厚労省に通知したのです。この通知が照射食品解禁のために原子力委員会が作った食品照射専門部会でそのほとんどが2次資料というズサンなデータにより作られたもので、最終報告書が出来上がった日に間違いを消費者団体から指摘され、専門部会も開かず指摘された間違いを修正し、出来上がったのが「食品への放射線照射について」という通知であった。(平成18年9月26日)
このズサンな通知のため無駄な税金と時間が浪費されたのです。原子力委員会の責任は重いものです。
1980年以降にわかった新しい問題
照射した食品かを調べるための方法(検知法)がないため監視・監督もできない状況が問題になっていました。違法と思われる照射食品を見つけても相手側が認めなければウヤムヤになっていたのです。
放射線照射によって特異的に生成する物質(2-アルキルシクロブタノン類)の存在がクローズアップされてきました。1998 年、ドイツ国立栄養生理学研究所の研究グループがコメットアッセイ(個々の細胞におけるDNA 損傷を検出する試験法)を用いて、この2-アルキルシクロブタノン類が遺伝毒性を示すことを確認しました。
資料5.2-アルキルシクロブタノンを2つの濃度(1.12mg/kg/bw、14.9mg/kg/bw)でラットに与え、腸に到達し吸収されただろうと推定できる16時間後に結腸細胞を採取してコメットアッセイにより、DNA 損傷を観察したのです。その結果、低用量投与群6 頭のうち2匹頭、高用量投与群6匹のすべてで、染色体の切断という大きな異常が照群に比べて起きることがわかったのです。
この遺伝毒性は発がん性とも関係することから、フランスのパスツール大学のラウル等によって「ラットを用いた発がんプロモーション作用に関する試験」が行われました。この実験は発がん物質を与えたラットに、新しく出来た物質を与え、発がん性を増強させるか確認したものです。この短期間で出来る実験を(この実験も6ヶ月で行われた)行った結果、2-アルキルシクロブタノンはガンを3-4倍も増やし、それだけでなく、ガンも巨大になることがわかったのです(グラフ参照;この実験結果は1997年5月11日から16日に開かれた会議で要約が発表されました。また、ドイツ語で発表されていたため、米国の市民団体パブリックシティズン(遺伝子組換食品や狂牛病、照射食品の問題点を指摘し活発に活動している市民団体)が、2001年2月13日のFDA会議で問題を多くの人に理解してもらうため英訳を発表した。ちなみにこのFDA会議は、3月12〜16日にオランダ・ハーグで開催予定のコーデックス栄養委員会会議に臨む事前会議との位置づけで開催されたものを入手した)。
この実験結果出た後の対応が問題です。発がん性実験がどこの国でも打ち切られていることです。問題は慢性毒性実験や発がん性実験を行わないと安全かどうか判断できません。しかし、照射食品を推進する各国の研究は実験を放棄しています。プロモーション作用があるのですからこれでもう発がん物質なのですが、イニシエータの確認を取ることが推進派には都合の悪いのです。
食品に放射線が照射されれば、食品中の脂肪酸から2-アルキルシクロブタノン類ができます。発ガンを促進する物質を子どもから病人、がん患者まであらゆる人が食べざるをえなくなります。生命の維持に欠かせない食物に一部の人の利益のために放射線照射をすべきではありません。また、放射線を照射した食品を食べたいという人はほとんどいません。
図 ラウル等の実験報告の結果
図 発ガン物質であるアゾキシメタンを投与したラットの結腸腫瘍の発生数と2種類の2-アルキルシクロブタノン類を同時に投与したときの結腸腫瘍の発生数(6ヶ月後)。□は動物1匹を表し、腫瘍のサイズは○(〜6mm),▲は 6<S<25mm、●は>25mm以上)(TCBは2−テトラデシルシクロブタノン、TeCBは2−テトラデシニルシクロブタノンの略。注:原著は中間色の○であるが区別が出来ないことがあるので▲に置き換えた。)
文献:「Food-borne radiolytic compounds promote experimental colon carcinogenesis」
F. Raul,Nutr. Cancer.,44,188-191 (2002).
照射食品に反対する主な理由
1.照射食品は人の健康を損なうおそれがある。
2.照射された食品の照射線量・回数を調べる方法(検知法)がない。
3.管理・監視ができない。
4.悪用・乱用の危険が回避できない。
5.照射食品の有用性(殺菌、殺虫、発芽防止など)はすでに代替する方法がある。
6.食品の質を低下させる。
7.原子力業界など一部の利益のために、食品への放射線照射という原子力の商業利用を認めるべきではない。原子力産業、原子力関係者主導による照射食品認可は誤りである。
8.照射食品反対は消費者の理解不足によって起きていることではない。
9.日本の食品業界も照射食品の認可を強く要望していない。
10.照射食品のニーズはほとんどなく、規格基準を変えてまで食品に照射を認める緊急性も必要性もない。
11.世界的動きから将来を見越して判断すること、諸外国の動きは照射食品から撤退の方向である。
12.表示で消費者に選択させるという間違いをしないこと。
13.放射線被曝事故が起きる可能性がある。
14.照射食品については研究が尽くされていない。
15.三菱総研報告書のまとめ方の偏り
理由の説明
1.照射食品は人の健康を損なうおそれがある。
● 照射によりできる2-アルキルシクロブタノン類の発がん増強作用が2002年報告された。これは1980年のIAEA・FAO・WHOの合同専門家委員会が「総平均線量が10kGy(100万ラド)以下で照射された食品には毒性学的な危険性は全く認められない」と結論した以降にわかった新しい知見であり、10KGy(キログレイ)までの照射は安全という報告は科学的根拠がなかったことが明確になった。
● 三菱総研の最初の報告書には「2-ACBはそれ自体は発がん物質としては働かない」と報告したが、この実験は発がん性を確認する実験でないため「発がん性はない」という結論を出せる実験ではない。その後、再度出された訂正報告書はこの部分を全部削除した。
● 三菱総研が再度収集した資料は2−アルキルシクロブタノン類について急性毒性試験に関する研究はない。亜急性毒性試験(28 日間、90 日間)又は慢性毒性試験(12 ヶ月以上)に関する研究もない。安全性の評価は科学的に出来ない。
● 2-アルキルシクロブタノン類はエイムス法で陰性であるが、他の動物やヒト細胞や動物細胞を使った複数の変異原性試験でDNAの切断などの傷害が報告されている。これらの複数の実験をエイムス試験だけで打ち消すのは間違い。エイムス試験で陰性であった化学物質(BHAなど)でも発がん物質が存在することが報告されている。日本バイオアッセイ研究センターの福島昭治氏は総説「新しい発がん試験法の開発と動物から人への外挿」で中期発がん性試験と313種類野の化学物質のエイムス法の陰性・陽性の結果についてまとめている。「多数の非遺伝毒性化学物質に発がん性が証明され、遺伝毒性と発がん性との間に乖離がある化学物質が存在する」と報告している。今回の2-アルキルシクロブタノン類は発がん性が否定できない例になる可能性が高い物質である。逆に2-アルキルシクロブタノン類はエイムス法以外の変異原性試験で複数の陽性報告があることは照射することの危険性を示唆している。2-アルキルシクロブタノン類の毒性は通常の発がん性実験で確認しなければ結論は出せない。厚労省にも発がん実験を行うよう再三申し入れているが、実験をする予定はないとしている。
● 推進派はアメリカ陸軍がラルテック社(Raltech Scientific Services, Inc.)に委託した過去の照射鶏肉を飼料に混入した一連の実験で異常は認められなかったとしているが、この実験でもマウスによる精巣の腫瘍増加、死亡数の増加などが認められている。また、2-アルキルシクロブタノン類の毒性が問題になったことから13年たった使い残した冷凍照射鶏肉から2-アルキルシクロブタノン類を検出し、2-アルキルシクロブタノン類の毒性を否定しているが、これは結果から安全性を証明しようという非科学的な方法で消費者の必要とする安全を保証するものではない。危険性を推定する場合に使えても、逆の安全性の証明には使えない方法である。
●2-アルキルシクロブタノン類にプロモーター活性が確認されたが「発がんイニシエータ」の確認はされていないのに、三菱総研はイニシエータの作用はないとした。プロモーター作用があれば消費者はいろいろなイニシエータ活性を持つ化学物質にさらされており、大きな危険負担を負うことになる。
● 2-アルキルシクロブタノン類の発がん性の有無、量反応関係が解明されていません。
● 2-アルキルシクロブタノン類は「人の健康を損なう恐れ」があるため、食品衛生法11条でなく食品衛生法6条の2項で審議される必要がある。
注2:食品衛生法第6条第2項「有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着し、又はこれらの疑いがあるもの。ただし、人の健康を損なうおそれがない場合として厚生労働大臣が定める場合においては、この限りでない」
注3:食品衛生法11条「厚生労働大臣は、公衆衛生の見地から、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、販売の用に供する食品若しくは添加物の製造、加工、使用、調理若しくは保存の方法につき基準を定め、又は販売の用に供する食品若しくは添加物の成分につき規格を定めることができる」
● 原子力委員会および全日本スパイス協会から要請されているスパイス類について、個々のスパイスの安全性を確認するデータがない。スパイスの安全性を一括で審議することは食品衛生法11条に違反する。11条に「放射線照射を行うことができる対象食品は、原則として個別に評価され認められる」と決められている。
●これまでに審議されてきた多くの照射食品実験データが何回か議論されるうちに、いろいろな解釈で安全になっていくがこうした矛盾を審議することが必要。(例:照射ジャガイモを与えたネズミの実験で卵巣の減少について、顕微鏡で観察したら形態的に違いがなかった。三分の一重量が減少しているので細胞数が減らないと減少の説明がつかないという指摘に、この実験を行った国立衛生試験所の毒性部長は「卵巣というものは周りに脂肪組織がいっぱいついていますので、その脂肪組織との区分けが難しい。一人の人が全てを解剖すれば、そのばらつきは少なくなりますけれども、多数のものを処理するときにはいろいろな人が解剖してその集計をするわけであり、その解剖術者の個人的なばらつきもあります。しかも、5匹でしたので、そのことからもばらつきが出たのではないかということも考えられます。それは何故かといいますと、最終的な15匹の病理組織を検査しても卵巣に非照射のどの対象群と比べても差がございませんでしたので、そういう意味で、今申し上げたようなことで卵巣重量が下がったのではないかと我々は考えました。」毒性の専門家が脂肪組織と卵巣の区別がつかないためだという説明が事実なら、国の行ってきた動物実験の根底が崩れる話である。(照射食品専門部会第4回議事録より)
● ラルテック社や照射食品プロジェクト(IFIP;各国の原発会社などが出資した組織)が24カ国の企業等から毎年集めた50万ドルで行った実験で全てが「異常なし」という報告で、実験そのものに不自然さがある。これまで問題とされた報告書をレビューする必要がある。
● 三菱総研は照射ベビーフード裁判についての情報の収集をしていなかった。この裁判は推進派と反対派が科学的データを基に論争したものである。この刑事裁判は1980年のIAEA,FAO,WHO合同専門家会議の10KGyまでの照射は問題ないとした根拠データが地裁、高裁によって崩された科学裁判でもあった。厚労省には三菱総研にこの裁判記録を収集するように申し入れてあったが何ら収集されていない。再提出報告書に判決文がはいった。しかし、リスクプロファイルの作成にまったく反映していない。
2.照射された食品の照射線量・回数を調べる方法(検知法)がない。
● 熱ルミネッセンス法は食品の洗浄を丁寧に行うことにより、その検査を免れる例が出てきた(貝柱など)。2-アルキルシクロブタノン類の検査で検知する方法も実用化できるとされるが、まだ照射した線量が正確に測定できない。照射も定性的な可能性の域を出ず、相手側が照射していないと言えば覆す決め手がない。
3.管理・監視ができない。
● 完成した検知法がないため、きちんとした管理監督ができない。
● 管理・監視が出来ないために起きた「照射ベビーフード裁判の経過」を三菱総研の調査で行うよう申し入れてあったが、なんら調査されていなかった。この事件は照射食品が管理・監視できない技術であったことを示した事件である。また、この裁判は照射食品の研究にたずさわった厚労省の技官が会社側の証人として、1980年のIAEA,FAO,WHO合同専門家会議の10KGyまでの照射について安全とする鑑定書を提出したが、照射食品の安全性については問題があるとされ、形式犯でなく、中神食品およびラジエ工業は有罪となった重要な裁判である。今回の報告書の資料として、この裁判の判決文が添付されたが、リスクプロファイルの作成に反映されていないことはないのと一緒で問題である。
4.悪用・乱用の危険が回避できない。
● これまでの違法照射事例は、不衛生なものをその製造過程で改善する努力を怠り、照射による殺菌でごまかす不適切な使用が多く、それに対応できる法的・行政的手法がない。照射ベビーフード事件(1978)をはじめ、イギリスでの細菌に汚染されたエビをオランダの照射施設で殺菌して再輸入した事件、日本に違法輸入されたマルハのホッキ貝やカナダから照射されたサケの輸入、マカやシャコなどの事例をみても、放射線照射の悪用・乱用が起きており、今後も違法な照射食品を生む危険性が高い。
● 照射食品は、煮たり焼いたりした食品よりも大きな変化を受けているのに、みかけは生のようにみえることがメリットと原子力委員会はいうが、これは食品製造業者や消費者にとってメリットではなく、偽和食品にほかならない。照射により、いつまでも腐らない食品も、本来の鮮度が失われており、消費者を欺く危険がある。
5.照射食品の有用性(殺菌、殺虫、発芽防止など)はすでに代替する方法がある。
● 食中毒予防に役立つことが有用性のひとつとされるが、スパイスが原因とされる食中毒が報告されていない。
● 照射によるコストは値段の一割になるという実態が食品業界関係者に知らされていない。10%前後のコストアップに業界が二の足を踏むのは言うまでもない。
6.食品の質を低下させる。
● 照射臭の問題は冷凍して照射するなどの方法も開発されたが、冷凍できないものもあり、またコストが消費者や食品業者の負担になる。米国の航空宇宙局(NASA)は宇宙飛行士が照射食品の臭いが食欲を落とすということで、ハサップを開発したことを教訓とすべきである。
7.原子力業界など一部の利益のために、食品への放射線照射という原子力の商業利用を認めるべきではない。原子力産業、原子力関係者主導による照射食品認可は誤りである。
● 原子力委員会が照射食品専門部会を作り、照射食品を審議していく過程には消費者へのメリットという発想がなく、強引に原子力利用を食品にまで広げるという手法である。そのため審議に十分な時間が割けず最終報告が作られた7月13日に消費者より報告書の誤りを指摘され、部会を開かずに9月26日に消費者から指摘された誤りを書き直して報告書を作り上げるというあまりにも杜撰な報告書である。形式的に報告書を作り上げるという姿勢が自分たちの目的を達成するために手段を選ばないというやり方に消費者は原子力委員会を信頼することができない。
8.照射食品反対は消費者の理解不足によって起きていることではない。
● 原子力政策大綱には消費者の「理解」が足りないため照射食品が受け入れられないとしているがこれは事実に反する。消費者の疑問に科学的根拠を持って答えず、問題にされた異常を無理やり他の実験などを援用し説明を試みるという方法に限界がある。2-アルキルシクロブタノン類についてもコメットアッセイや人細胞でDNA障害があるという報告をエイムス法で異常がなかったということだけで打ち消そうとすることに無理がある。アフラトキシンや照射糖液に遺伝子への異常を起こすなど、これまでとりあげられた異常への問題の解決の仕方が科学的な事実で打ち消すのではなく、WHOやFDAの発言で安全とする説明では限界があり、消費者は納得できない。これまで照射食品の評価に関わってきた国際機関の委員は照射食品の推進研究者が多く、公平性にかけている。
9.日本の食品業界も照射食品の認可を強く要望していない。
● 三菱総研の報告書でも食品業界関係者は消費者のニーズや既成の技術より優れているなどとしている。実際には既成の技術より有益というには情報がなく、アメリカの照射ひき肉が1割も割高になるというような情報がない。
10.照射食品のニーズはほとんどなく、規格基準を変えてまで食品に照射を認める緊急性も必要性もない。
● 三菱総研の行ったニーズ調査で、安全が確保された上で「購入したい」または「どちらかというと、購入したい」は18.2%であった。安全が確保されても20%を超えないことは重要な情報である。消費者団体が行った1万人を超す消費者へのアンケートでも照射食品への反対は88.6%であった。また、38都道府県で働く学校給食の栄養士、調理員286人(栄養士126人、調理員142人 その他17人)の調査で食品に照射することについて「@使ってもよい」と回答した者は0人で、逆に「A使うべきではない」と回答した者は82.1%であった。また、食中毒防止には「@放射線照射」は1人(調理員)。「A殺菌・消毒剤、食品添加物などの薬剤使用」は16人(5.6%)。「B加熱やコールドチェーンなどの従来の方法の活用」が183人(64%)。「Cハサップ(照射しない宇宙食を作るために開発された方法)」が154人(54%)であった。三菱総研の調査でも、消費者団体の調査でも照射食品へのニーズはほとんどない。照射食品はニーズがないということである。
11.世界的動きから将来を見越して判断すること、諸外国の動きは照射食品から撤退の方向である。
● 世界の状況についてはすでに食品安全委員会が三菱総研に委託した調査がある。三菱総研はこの調査を収集していない。(平成16年3月、「食品への放射線照射技術の安全性に関する欧米の取組状況調査報告書」)
内容は「食品安全委員会の調査でも照射食品は『欧州では2000年ごろから減少しており(p1-11)』『外食産業など直接消費者の目にふれない用途での利用が中心となっている。−中略―また、大手スーパーや食品企業も放射線照射済みの食品を利用することに懸念があり、現状では照射食品の利用が再び拡大する見通しはたっていない。(p.2―49)』と消費者に受け入れられてない実態を報告している。
米国の概況は「実際に市場に出回っている照射食品の種類はさほど多くない。最も広く市場に出回っているのは、スパイス類で年間約6.3万トンである。次いで、冷凍牛挽肉(ハンバーガー用パテ)が推定約0.7−2.3万トンであり(その流通量は牛肉市場の1%以下であるp2-10)、それ以外の照射食品は現在ほとんど流通していないという状況であった。(p2‐3)」と報告している。
米国食品医薬品庁(FDA)も「消費者は、照射食品に対して一般的には否定的な見解を持っている(p.2-7)」としている。
農務省は「正直に言って、米国内の消費者は照射食品に対して否定的な意識が強い(p.2-10)」と国民に受け入れられていない旨を報告している。
米国の市民団体(Public Citizen)は「食肉処理を行っている過程で、(内臓肉や糞の混入などの)問題が起こっても処理を止める必要がないという条項がある。その場合、最終段階で照射して殺菌すればいいということになっている。これでは、処理中に大腸菌が混入することを許すことになってしまう。(p.2―36)」と食品の安全を守る基本的な工程が崩れていることを指摘、ハンバーグ用のひき肉を照射してきた会社の例で「照射食品を一番推進してきた企業であるSurebeam社が最近倒産した。(p.2―37)」という事例で照射食品が受け入れられていないことを説明している。
また、「照射食品の販売は、スパイスの認可が発端になり、それから他の食品へ広がっていった。(p.2―38)」と照射スパイスが多くの加工食品に使われることで、拡大していくきっかけを作る食品であることを指摘している。
報告書は米国で「照射済スパイスは、消費者が直接手にする小売品には用いられていないことが今回確認できた(p2-3)。」欧州では「外食産業など直接消費者の目にふれない用途での利用が中心となっている(p2-49)」と報告している。
この食品安全委員会の調査は世界の流れが照射推進から大きく逆方向に転換していることを示している。こうした時期に日本の原子力委員会が食品にまで放射線を照射することに固執する異常さを消費者は感じている。
今回の三菱総研の調査はさらなる最近の動向が加わるものと考えていたが、法的情報のみでまったく世界の実情が調査されていないばかりか、この報告書すら収集し引用もしていない。
● 内閣府が日本原子力研究開発機構に委託した「放射線利用の経済規模に関する調査報告書――食品照射海外調査――」(平成19年12月)の27ページにフランスの調査として、「冷凍カエルの脚は照射品の品質が優れていることが定着しており、ラベルを伏してスーパーなどで市販されている。(照射表示の無いカエルの脚の写真34ページ)と記されている。フランス大使館が本国政府に問い合わせたところ「2009年7月8日で、フランス国内法は照射された食品原料及び食品には同様の事が義務付けられています。「放射線による加工」又は「照射実施」という文言を製品の梱包方法又は最終流通地点に応じて製品に記載するか、又は製品に付される書類に記載すべきであるとしています。万一、フランス当局により違反が判明した場合、その業者は行政処分又は刑法上の処罰の対象となり得ます。最後に、当該レポートに記載されている冷凍カエル脚のラベルに記載が無い事については(34頁)、写真を見たところインドネシア産と思われますが、この写真の製品ラベルはフランスの規制を守っていることが見て取れます。間違いなくラベルの下部にフランス語で「放射線による加工」との記載がございます。」など誤った情報が記されている。こうしたズサンな調査は仕分けの対象にするよう申し入れる。
● 原子力委員会が厚生労働省に照射食品の拡大要請したことで、日本への違法照射食品を輸出する国が多くなっている。特に中国からの違反が多い。厚生労働省は中国政府に違法照射を止めるよう申し入れを要請したがなされていない。反対連絡会からは申し入れがなされている。
12.表示で消費者に選択させるという間違いをしないこと
● 表示に関して「照射じゃがいも」では再照射防止のためのスタンプと、消費者対応でJAS法で表示を義務付けている。実際には店頭に出る際シール等が貼られておらず、まったく有名無実と成っている。現在、食品の偽装・不当表示が続発している。こうした現実を踏まえると、表示をすれば選択できるので問題はないという意見は問題の解決にならないと消費者は考えている。こうした批判を受けてのことか、今年3−4月、照射の表示のある照射ジャガイモが市販されていた。照射直後のジャガイモが市場にでており、フリーラジカルなどの問題があり危険度が高いという新しい問題がでてきた。
13.放射線被曝事故が起きる可能性がある。
● 照射施設では数十万〜数百万キュリーの放射線源を取り扱う。稼動時、輸送時の放射能漏れ、作業者などが被曝する事故の可能性があり、士幌町農協の照射センターでもすでに被曝事故が起きている。使用済み放射性物質をはじめ、施設に利用した放射能で汚染された物質など、放射性廃棄物の処理が問題となる。放射性物質の拡散であり、この管理監督が難しい。テロの対象ともなりうる。
14.照射食品については研究が尽くされていない。
● 1976年の合同専門家WHO報告の今後の研究に脂肪の問題が指摘されている。
今後の研究:照射食品(セクション9−3、10−2、10−5)に「今後の課題」としてコメントを付したが、委員会はこれ以外に次の様な分野の研究を行って、食品に対する照射処理の影響について一般的な知識を増やし、将来の評価を容易に行える様にすることを勧告した。
(1)照射生成物をさらに同定し、その毒性を検討する(セクション2)。
(2)照射した食品を動物に与えた時に起こる変化が照射によるものかどうか判断できる様に、個々の動物に対して長年蓄積された動物固有のデータを集め吟味する必要がある(セクション5)。
(3)照射による栄養価の損失と他の食品の処理加工あるいは貯蔵による栄養価の損失との比較、および照射と他の処理とを組み合わせた時の栄養価に及ぼす影響について調べる必要がある(セクション5)。
(4)照射食品と非照射食品の揮発性物質の毒性を比較する必要がある(セクション7ー3ー2)。
(5)パーオキサイドやエポオキサイドの生成、シスートランス異性化などを考慮に入れて、脂質の放射線分解生成物の化学的、栄養学的、毒性学的検討を行う必要がある。
● 1980年のWHO報告の今後の研究が指摘され、その後の報告はない。
1 大規模に照射を行った場合の技術的可能性及び経済性について種々の食品に対して検討する。
2 大線量照射した食品の健全性を検討する。
3 可能ならば、人間の食品に放射線を照射した時の影響について、情報を系統的に収集して整理する。
4 豆類の蛋白質効率及びビタミンB群に及ぼす放射線照射の影響については、一致した見解が得られていないが、豆類は世界各国で重要な食品であるので、これらの事項に対して正しい結論を出す必要がある。
5 葉酸に及ぼす放射線照射の影響についてはほとんど知られていないが、世界のある地域では葉酸の摂取量が少なく葉酸が欠乏する可能性があるので、葉酸を含んでいる代表的な食品についても放射線の影響を検討する必要がある。
6 放射線照射と他の加工処理とを併用した場合に食品の栄養価に及ぼす影響について研究する。厚労省は答弁書で「その後の、同報告書の「今後の研究」に関する研究結果が記載された「テクニカルレポート」については、現在のところ把握していない。」と回答し放置されたままになっている。こうした未解決の問題があるにもかかわらず安全であるとされたことが問題である。
● 1968年4月19の米国食品医薬品庁(FDA)の米陸軍への通知から
1968年、FDAは照射ベーコンと照射果物で飼育したラットで体重の減少、成長の低下、赤血球の減少、死亡率の増加、脳下垂体の発がん頻度の増加が示唆されるとして陸軍に照射ベーコンの禁止と照射ハムへの照射申請を取り下げるよう通知した。
この時点で、米商務省が調べた、放射線照射の計画を持っていた国は76各国に及んでいたがが、10年後の1978年のIAEAの調査では19カ国に減っていた。
放射線による成分変化はそのときから問題になる。その後大きな問題が実験により提起されるが、この問題をどう解釈すれば安全になるかと言う解釈の仕方で安全と言う結論を導こうとする誤った方向に推進派は傾注していくことになる。
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