(オーストラリアの照射施設の外観写真)
「照射キャットフードで神経麻痺で歩けないため後ろ足に車をつけたネコ」
(オーストラリア Tania Cummingsさん提供)
The VIN News Service 2009年6月8日付
http://news.vin.com/VINNews.aspx?articleId=13088
照射フードで猫に神経障害のおそれ
オーストラリアで、照射されたペットフードを食べた猫に神経障害が報告されている。
1998年以降、照射食品を原因とする重篤な神経系疾患の事例は、世界で少なくとも3件報告されている。これまでに、アイルランドとアメリカの実験室で飼育されていた猫でそうした報告があり、ペットで報告されるのは今回が初めて。
オーストラリア政府は5月下旬、食品照射が運動失調や四肢麻痺(特に後肢の麻痺)の原因になっている、という研究報告を受けて、キャット・フードへの照射を即刻止めるよう指示した。フードが猫にどのような毒性を及ぼしているのか、その仕組みは解明されていない。
オーストラリアでは90匹の猫が体調を崩し、30匹が死んだ。対麻痺または四肢麻痺になり、安楽死させたケースが大半だ、とシドニー大学教育病院の神経科医ジョージーナ・チャイルド博士(Dr. Georgina Child)はいう。
チャイルド博士によると、体調を崩した猫はいずれも、カナダのChampion Petfoods社が製造した「Orijen」ブランドの輸入ドライ・フードを食べていた。このフードはオーストラリアに輸入される段階で、ガンマ線(50kGyかそれ以上)照射の対象になっていた。
アメリカ食品医薬品局(FDA)も、ペットフードを含む動物飼料への50kGyまでの照射を認めている。人間の食品への照射線量については、アメリカでは30kGyかそれ以下に限られている。ただし、宇宙飛行士用のパック加工肉は例外で、44kGyまでの照射が認められている。
FDAはアメリカで販売されるすべての照射食品に表示を義務付けている。一方、オーストラリアは照射ペットフードに表示を義務付けていない。
オーストラリアで異常が報告された猫たちは、ドライ・フードを食べて3〜6ヵ月経過した時点で症状が現れ始めたという。3週間程度しか問題のフードを食べていなかった猫もいれば、6ヵ月以上食べ続けていた猫もいた。大半の猫はこのフード以外のものも食べており、年齢は1歳以下から15歳まで幅広い。
Champion Petfoods社によると、初期症状は、足がふらつく、よろめく、ソファやベッドに飛び上がりたがらない、バランス感覚が失われる(テーブルから落ちる)など。
体調を崩した猫のうち約半数に不全対麻痺または四肢不全麻痺が残り、対麻痺または四肢麻痺が残った猫もいた。大半は2〜3ヵ月間、最悪の状態が続いた後に、少し回復が見られた。完全に回復した猫は1/5以下だ、とチャイルド博士は言う。
チャイルド博士によると、組織病理学的検査では、主に脊髄(また脳幹および大脳も)の重度白質変性が見られ、脱髄が起きていたという。
一方、ウィスコンシン大学マディソン校獣医学部のイアン・ダンカン博士(Dr. Ian Duncan)は、実験で照射フードを食べさせた猫に起きた重篤な神経疾患を報告している。飼育していた「SPF((Specific Pathogen Free;特定病原体未感染の)猫」の感染を予防する目的で、25〜50kGyで殺菌された照射フードを食べさせていた(Extensive remyelination of the CNS leads to functional recovery,” PNAS, March 30, 2009, Duncan I.D. et al.), 本稿末に抄訳添付)。
フードを食べさせ始めて約4ヵ月で症状が現れたが、照射されていないフードに切り替えたところ、徐々に回復し、3〜4ヵ月で症状はおさまったという。約30匹の猫に症状が見られ、大半の猫は顕著な回復を見せた、とダンカン博士は報告している。
このアメリカの事例では、照射フードを食べている期間に妊娠した雌猫にだけ神経症状が見られ、同じフードを食べていた雄猫と生まれた子猫には異常は見られなかったという。
だが、アイルランドの事例では、雄猫でも異常が報告されている。
1998年から2001年の4年間、一緒に飼育されていた190匹の短毛種の猫に、後肢の運動失調および固有受容性異常が見られた。これらの猫も「SPF猫」で、36.3〜47.3kGyを照射されたフードを与えられていた。(“Leukoencephalomyelopathy in Specific Pathogen-free Cats,” J.P. Cassidy et al., Vet Pathol 2007; 44:912-916), 本稿末に抄訳添付)。
このグループでは、子猫の段階でSPF群から隔離したコントロール群が存在した。コントロール群の猫は、同じ市販フードの、照射されていないものを与えられていた。コントロール群の猫では神経異常は見られなかったが、照射フードを食べていたグループでは、1/3以上の猫に異常が見られた。
2001年冬より、照射フードとともに補助食として殺菌された缶詰フードを与え、やがて照射フードを止めて、別の殺菌方法によるフードに全面的に切り替えたところ、それ以上の異常は見られなくなったという。
チャイルド博士によると、同じ研究グループがその後、より低い26kGyの線量でも、猫で同様の神経異常を観察しており、近日中に報告が発表される予定だという。
フードへの照射が、どのようにして動物の体内で異常を引き起こすのか、その仕組みはまだ解明されていない。当初、ビタミンA不足が原因ではないかと考えられたが、その後の調査で、体調を崩した猫にビタミンA不足は見られないことが分かった。
微量栄養素の不足が原因になっている可能性を完全に排除はできないが、それよりも、照射によって生じる変化が何らかの毒性を及ぼしている可能性が高い、とチャイルド博士は言う。
フードを製造したChampion Petfoods社は2008年11月に公表した「Q&A」文書で、フードへの照射によってビタミンAが減り、高濃度で含まれる脂肪酸(DHA、EPA)が酸化し、その副産物として生じるフリーラジカルが体内で害を及ぼしている可能性がある、と述べている。
照射中止命令の対象は猫用のフードのみだったが、Champion Petfoods社は犬用フードも市場から回収している。
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