「人の健康を損なうおそれがある」照射食品

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里見 宏

 09年1月27日に厚生労働省食品安全部基準審査課の國枝卓課長と照射食品反対連絡会との話し合いで、「照射食品について薬事・食品衛生審議会の食品規格部会を開きたい」と発言があった。なぜ食品規格部会なのか。照射食品は規格基準で認可される性質のものか。もう一度問題点を整理しておく必要がある。

照射食品は食品衛生法11条の規格基準で禁止されている(昭和34年12月厚生省告示第370号)
食品衛生法11条の「食品の一般の製造、加工及び調理基準」で「食品を製造し、又は加工する場合は、食品に放射線を照射してはならない。」とされている。
また、「食品一般の保存基準」で「食品の保存の目的で、食品に放射線を照射してはならない。」とされている。
例外規定として「食品の製造工程又は加工工程において、「その管理を行う場合」として「異物混入のチェックと食品の厚み確認に0.10グレイ以下の照射」と「野菜の加工基準」として「ジャガイモへの発芽防止として150グレイ以下の照射」とされている。この規格基準で照射じゃがいもが許可になっている。 食品に例外規定で照射が認められるためには「放射線照射を行うことができる対象食品は、原則として個別に評価され認められる」とされている。

注1:食品衛生法11条というのは「厚生労働大臣は、公衆衛生の見地から、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、販売の用に供する食品若しくは添加物の製造、加工、使用、調理若しくは保存の方法につき基準を定め、又は販売の用に供する食品若しくは添加物の成分につき規格を定めることができる」

コメント
照射食品の食品衛生法11条による禁止の理由は「公衆衛生の見地から」ということでしょう。何が起きるかデータもないことから予防的な措置として禁止されたと推測できる。当事の関係者からの話によればよれば「1958年、米国では「食品薬品化粧品法」の改正があり「放射線を照射した食品は不良食品である」という条項が作られ、放射線を照射した食品を製造するためには、照射する側が自ら照射が安全であり、有効である十分な資料を提出しなければならないとされた」ということを日本の食品衛生調査会もそれを受けたものであるという。
今回の問題は食品衛生法11条の規格基準で審議が進められると、例外規定で照射食品がつぎつぎと許可される可能性があることである。照射食品は放射線の照射により2-アルキルシクロブタノン類が生成され、毒性が報告されている。照射によってできる2-アルキルシクロブタノン類が人の健康を損なう恐れがあるので、照射食品は食品衛生法6条2項、および食品衛生法7条で対応するものである。この6条、7条があるのに食品衛生法11条の規格基準でスパイス類の審議を行い、許可していくことは食品衛生法違反になると考えられる。

注2:食品衛生法第6条第2項「有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着し、又はこれらの疑いがあるもの。ただし、人の健康を損なうおそれがない場合として厚生労働大臣が定める場合においては、この限りでない 」
注3:食品衛生法7条「厚生労働大臣は、一般に飲食に供されることがなかつた物であつて人の健康を損なうおそれがない旨の確証がないもの又はこれを含む物が新たに食品として販売され、又は販売されることとなつた場合において、食品衛生上の危害の発生を防止するため必要があると認めるときは、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、それらの物を食品として販売することを禁止することができる 」

危険を示すデータが
照射食品は動物実験では死亡率の増加や生殖器の異常、骨の異常などが報告された。しかし、何が原因で起きるのか不明であった。そのため論争が続いた。1959年、ソ連(現ロシア)の生物研究科学センター生物物理学研究所のA・M・クージンらは放射線を照射すると植物細胞の分裂が抑制されるがその原因となる物質の研究を開始した。そして、1972年、には照射ジャガイモのアルコール抽出物が胎児に異状を起こすと報告した。1975年、インド国立栄養研究所で2-5歳の栄養失調で入院している15人を3群に分け、非照射小麦、750グレイ照射小麦、この照射小麦を12週間放置した小麦、これを体重1キロ当たり20グラムを6週間与え、2週ごとに採血するという人体実験が行われた。血液中の白血球(リンパ球)の46本の染色体が照射小麦摂取で一つの細胞中に2倍の92本になるという異状が1.8%も出ることを報告した。しかし、その後解明のための研究を続けることが難しく解決しないまま今日に至っている。照射によってできる新しい物質が特定され、その毒性が確認されなければ決定的な判断ができないという状況になっていた。
放射線を照射したかどうかの検知法がないことが問題であった。放射線照射により脂肪酸が変化してできる2-アルキルシクロブタノン類は照射に特有な生成物とされ、その有無を確認することで検知法に使えないかという研究がされていた。この2-アルキルシクロブタノン類の毒性については研究されていなかった。1998年にドイツ、カールスルーエ連邦栄養研究センターのDelincee等はラット及び人間の結腸細胞を用いて2−アルキルシクロブタノン類の細胞毒性及び遺伝毒性試験を行った。細胞毒性はトリパンブルー活性試験または tetrazolium salt reduction 法によって細胞の生死を確認することが行われた。結果は死亡する細胞が多く細胞毒性があるとことが報告された。また、遺伝子であるDNAが切断されるかどうかをチェックする方法で実験が行われた。まず、ラット6匹に2−アルキル・シクロブタノン類の一種である2−ドデシルシクロブタノンを1.12 mg/kgまたは14.9 mg/kgを与え腸が細胞の中に検体を吸収した16時間後に細胞を取り出し、遺伝子を調べたところ遺伝子の切断が確認された。また、ラットより人間細胞の方がDNAが切断されやすかったと報告した。
また、ヒト子宮頸がん由来のHeLa細胞及び、ヒト結腸ガン細胞HT29を用いて、2-ACBによる遺伝子障害の増加が認められた。 

  パスツール大学の発ガン促進実験(F.ラウルらの実験)
2-ドデシルシクロブタノン類は遺伝毒性があるという報告から発がん物質である疑いが出てきた。フランスのパスツール大学で36匹のラットを3グループにわけ、1グループはそのままにし、2グループには2種類のシクロブタノン(2-TCBと2-TeCB)を水に0.005%溶かし、飲ませた。途中で3グループのネズミ全部に発ガン物質であるアゾキシメタンを与え、各群6匹計18匹を3ヶ月目に解剖したところ異常はなかった。
残りを6ヵ月後に解剖し、18匹の結腸を調べたところ、発ガン物質だけを与えられたネズミは6匹中4匹に1箇所ずつ6ミリ以下の腫瘍が見つかった。しかし、発ガン物質と2−テトラデシルシクロブタノン(TCB)を与えられた群は6匹中5匹に14個の腫瘍が出来ていた。内1匹は5箇所にガンがあり大きさは25mm以上のガン(大)が2個、6mmから25mmが1個(中)、6mm以下(小)のガン2個であった。2匹はそれぞれ3個のガンがあり、大中小が1個ずつあった。残り2匹は小のガンが1個と2個であった。2-テトラデセニルシクロブタノン(2−TeCB)を投与された6匹は4匹が計13個のガンを持っていた。内1匹は5箇所にガンがあり大きさは25mm以上のガン(大)が2個、6mmから25mmが1個(中)、6mm以下(小)のガン2個であった。1匹は4個のガンができていた(大2個、中2個の)、1匹は3個のガンがあった(中2個、小1個)、残り1匹は小1個であった。3倍以上のしかも大きなガンができたことから、シクロブタノン類には強い発ガン促進作用があるという報告を2002年に報告した。この実験の最大の欠陥は2種類の2-アルキルシクロブタノン類だけを与えたグループを作らなかったことである。このために元々2-アルキルシクロブタノン類に発がん性があるのか、それとも促進作用だけかがわからないことである。ただ、発がん物質がけの群より大きく数も多いガンを作ることから発がん性がある可能性は非常に高い。



 発ガン物質であるアゾキシメタンを投与したラットの結腸腫瘍の発生数と2種類の2-アルキルシクロブタノン類を同時に投与したときの結腸腫瘍の発生数(6ヶ月後)。□は動物1匹を表し、腫瘍のサイズは○(〜6mm),▲は 6<S<25mm、●は>25mm以上)(TCBは2−テトラデシルシクロブタノン、TeCBは2−テトラデシニルシクロブタノンの略)
文献:「Food-borne radiolytic compounds promote experimental colon carcinogenesis」 F. Raul, F. Gosse, H. Delincee, A. Hartwig, E. Marchioni, M. Miesch, D. Werner, D. Burnouf Universite Louis Pasteur de Strasbourg-INSERM
Nutr. Cancer.,44,188-191 (2002).

コメント
この実験より2-アルキルシクロブタノン類は発ガンを促進するか、もしくは発がん性を持つ可能性が高い。この実験から2-アルキルシクロブタノン類は「人の健康を損なう恐れがある」という結論になる。照射食品反対連絡会や他の消費者団体から厚労省に2-アルキルシクロブタノン類の安全性は重要な問題であり、実験を行い徹底的に毒性を解明するよう申し入れがなされている。大河原雅子参議院議員の質問主意書でも「2-アルキルシクロブタノン類の発がん性の有無を確認した実験はあるかなど、シクロブタノン類の発がん実験に関し質問がされている。しかし、厚労省は、その答弁で2-アルキルシクロブタノン類の毒性実験につき「御指摘のような実験報告、実験データ及び論文があるかどうかについては、承知していない。お尋ねの実験及び予算要求については、その必要性を判断できるだけの知見が得られていないことから、現時点においては行っていない。」とし、完全に2-アルキルシクロブタノン類の毒性について審議できるデータがないことが明らかになっている。
重要なことは2-アルキルシクロブタノン類の毒性について、事実を確認するための努力が放棄されていることである。人の健康を損なう恐れが出てきた以上、食品衛生法11条の規格基準で照射食品を禁止しているが、ここまで事実関係がわかってくると、食品衛生法第6条及び第7条で審議しなければ法律違反となるであろう。

原子力委員会の通知「有用性のある食品なら照射を審議しろ」とする通知は拒否できるか? 平成18年10月3日、原子力委員会は「有用性が認められる食品への照射に関する検討・評価」を行うようにと厚労省に通知している。厚労省は「有用性のある食品を認めるためにあるのが食品衛生法ではない。食品衛生行政は飲食に起因する衛生上の危害の発生の防止を目的とするものである」と回答している。これは重要なことで、有用性があるかないかでなく、人の健康を損なう恐れがないことを厚労省は証明する必要がある。「人の健康を損なう恐れがある」ものは許可しないのが食品衛生法である。また、要請されているスパイスは個々スパイスのデータについて検討することになる。しかし、全日本スパイス協会が勝手にスパイスとしている94種類(定義不明)は根拠データがそろっていないことがわかっている。唯一データのあるタマネギは奇形が起きることが報告されている。日本では米、小麦、馬鈴薯、タマネギ、ミカン、水産練り製品、ウインナーソーセージ類の7品目に照射したいと実験が行われている。厚労省は「個別品目に対する照射の可否については、部会の審議結果も踏まえ、今後必要に応じて検討してまいりたい」と回答している。米や小麦という主食にまで放射線照射される可能性がある。

注4:スパイスの定義としては、「食品衛生法等の一部を改正する法律による改正後の食品衛生法第十一条第三項の施行に伴う関係法令の整備について」(平成十七年十一月二十九日付け食安発第一一二九〇〇一号厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知)の別添一において、「食品に風味付けの目的で比較的少量使用される種々の植物由来の芳香性樹皮、根、根茎、蕾、種子、果実、または果皮」であるアサの種子等六十品目とされている。

放射線照射食品は以下のような問題を持っていることが明確になった。
1.人の健康を損なうおそれがある。
2.照射された食品の照射線量・回数を調べる方法(検知法)がない。
3.管理・監視ができず、悪用・乱用も起きる。
4.食中毒予防には役立たない。
5.食品の質を低下させる。
6.原子力業界など一部の利益のために、食品への放射線照射という原子力の商業利用を認めるべきではない。

照射食品反対連絡会 連絡先
大地を守る会(担当・須佐)
東京都港区六本木6-8-15 第2五月ビル2階
電話03-3402-8841 

食品照射ネットワーク(担当・里見)
東京都新宿区下落合1-3-6-136
電話03-5386-1009

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