三菱総合研究所に委託している「食品への放射線照射についての科学的知見等の取りまとめに関する調査業務」等についての申し入れ

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2008年5月26日

厚生労働大臣
   舛添 要一 殿

照射食品反対連絡会
代表世話人 和田 正江(主婦連合会)
 同  飛田 恵理子(東京都地域婦人団体連盟)
 同  富山 洋子(日本消費者連盟)
 同  里見 宏 (食品照射ネットワーク)

  1.三菱総合研究所による「取りまとめ調査」の公平性を吟味すること
厚生労働省は三菱総合研究所(以下三菱総研)に29,925,000円を支払い「食品への放射線照射についての科学的知見等についての取りまとめに関する調査業務」として、オリジナル文献、世界各国の規制および運用調査、統計資料、食品安全行政として検討が必要と思われる情報の収集、また、食品業者・消費者等へのニーズ調査などを委託しています。そして、この調査報告をもとに薬事食品衛生審議会に諮るとしています。(08年4月10日付けの「08年3月13日院内集会での質問に関する厚生労働省回答より」)
しかし、当会はこの三菱総研の調査をもとに照射食品を審議することに大きな危惧を持っています。理由は三菱総研から当会にもヒアリングの依頼があったからです(08年1月5日付)。その内容は「1時間半程度で、照射食品に対する危害要因、精査を必要と考えるデータ、今後収集するデータ、照射を認める条件など」についてでした。すでに当会および照射食品に反対する消費者団体は反対の理由について厚生労働省へ申し入れもしております。また、原子力委員会、食品安全委員会、農林水産省等へも申し入れを行っております。1974年以来、国会議員による質問主意書、違法照射ベビーフード裁判等でその反対の骨子はほぼ明確になっております。こうした情報を収集した上で、三菱総研は自ら質問を組み立てヒアリングを行うべきです。しかし、こうした業務を怠り、一時間半程度という短時間で形式的に行われるヒアリングは消費者対策ではないかという疑念が生じました。当会の参加団体よりヒアリングを受ける必要はないという意見がでて、それでまとまりました。また、その経過の中で、三菱総研の担当者はこの委託調査が審議されるメインの資料でなく補助的な調査であると厚生労働省と食い違いを見せていたこともあり、この調査の性格が不明なこともあり依頼をお断りしました。しかし、再度の依頼(08年3月27日付け)があり、文書にて回答するようにというものでした。2回目の依頼は消費者のニーズ調査の一環とされ、照射食品への賛否とその理由、関係省庁への要望、これまでに厚生労働省等に出した意見への追加という3点に絞られていました。当会はこの質問への回答を準備いたしておりましたが、短期間で問題を整理する余裕がないこと、三菱総研がどの程度の資料を収集しているのかも不明であり、追加の意見を出せといわれても、どの申し入れに追加意見を出せばよいのかもわからず、この三菱総研の調査に対応できないという問題にぶっつかりました。
三菱総研の調査が最初のヒアリング依頼と同じように消費者から形式的に回答を求める調査であると、消費者は判断いたしました。報告書はまだ完成していないようですが、消費者が疑念を持つような調査であり、一企業がまとめた報告で薬事食品衛生審議会が検討し、食品安全委員会への諮問を行うかどうかを決めることは国民への厚生労働省としての責任を放棄していると考えます。厚生労働省として責任のもてる資料を用意し審議されるよう申し入れます。

2.指摘されている問題は追加実験や再調査を行うこと
厚生労働省は食品安全委員会に諮問するか否かの基準として「科学的資料の整備状況と社会的ニーズを踏まえて行うこととしており、その一環で消費者や食品等事業者の意見を聞くことは必要と考えている。(07年5月29日、厚労省回答)」としています。
現在「シクロブタノン類」のように照射による新しい生成物質に強い発がん増強作用があると報告され、この物質は増強作用だけでなく発ガン性があるのではないかと疑われています。しかし、この発がん性の有無に応える実験データがありません。当会はこうした科学的知見がないことから、厚生労働省に実験を行うよう申し入れております。しかし、厚生労働省は「シクロブタノン類の安全性に関しては、現存する科学的な資料を収集することとしており、必要に応じ、原子力委員会にも、その収集に協力をお願いすることも考えている。仮に食品安全委員会に諮問することとなった場合には、追加的な実験の必要性については、収拾された資料の評価にかかわることでもあるので、食品安全委員会の科学的な意見をたまわりながら、要請のあったデータを食品安全委員会に提供していくことになると考える。(07年5月29日厚生労働省回答)」と回答しています。これは「科学的資料の整備状況」ができていないということです。
また、照射食品は軍事目的による研究で始まったという経緯から公表されていなかった資料があります。特に米国陸軍が行った照射ベーコン・ハムと照射モモ缶詰の実験データがあります。これに対しFDAがカリフォルニア大学に依頼して行った動物実験のオリジナルデータを検討する必要があります。米国は情報公開法で資料の入手ができるようになっています。三菱総研は当然入手していると思いますが、審議するに当たってこれらの資料が抜けることのないよう申し入れます。万が一このような重要なデータが欠損していることは厚生労働省がいう「科学的資料の整備状況」ができていないということだと私たちは考えます。
それを承知して食品安全委員会に食品健康影響評価を諮問することは厚生労働省の誤りです。また、現在の食品安全委会は厚生労働省が準備した資料の範囲内で照射食品の健康評価を審議する可能性があります。こうした欠陥資料で審議がされていくことを消費者は認めません。この欠陥を承知しながら照射食品を諮問するかしないかを審議していくことに消費者は断固反対します。諮問する厚生労働省側はまず十分な審議資料を集め、未解明な部分がある場合は必要に応じた実験なり調査なりを行い、必要な審議資料を用意して審議してください。一民間企業の三菱総研に審議の主要資料を集めさせることにまず問題がありますが、厚生労働省が自ら責任を持って照射食品を審議する条件を満たす資料を集め調査を行うよう申し入れます。

3.ニーズ調査の評価基準を明確にし、審議前に公表すること
 三菱総研はニーズ調査をどのような範囲で行っているかわかりませんが、ニーズ調査が日本人の総意を知ることができる代表性のある調査となっていることを厚生労働省はチェックされるよう申し入れます。
私たちは1万人を超す消費者へのアンケートで照射食品への圧倒的な反対(88.6%)を確認しました。また、学校給食の現場で働く栄養士、調理員など関係者にアンケートを行いました。38県の学校給食関係者286人(栄養士126人、調理員142人 その他17人)の調査で「照射食品のことを聞いたことがありますか」の問いに242人(84.6%)が聞いたことがあると回答していました。そして「食品に照射することについてどう思いますか」の問いに「@使ってもよい」と回答した者は0人でした。逆に「A使うべきではない」と回答した者は235人(82.1%)でした。「Bわからない」と回答した者40人(14%)。また、「食中毒防止にはどのような方法がよいと思いますか」の問いに「@放射線照射」は1人(調理員)。「A殺菌・消毒剤、食品添加物などの薬剤使用」は16人(5.6%)。「B加熱やコールドチェーンなどの従来の方法の活用」が183人(64%)。「Cハサップ(照射しない宇宙食を作るために開発された方法)」が154人(54%)でした。
学校給食のように食育に関係する人たちも放射線照射食品に反対しています。
消費者は三菱総研のニーズ調査が誰を対象にしているか現在不明なので断定はできませんが、日本国民の意思を代表する調査になっているか危惧を抱かざるをえません。
また、照射食品へのニーズ調査は食品業者・原子力関係者と消費者で大きく分かれる可能性があります。大きく分かれた場合、それをどう評価するか、その評価基準が明確でないことを問題の一つと考えています。照射食品を推進する原子力委員会がまとめた「食品への放射線照射について」でもこの時期に照射を推進する益が何なのか根拠が明確でありません。細菌で汚染されているスパイスを強調していますが、スパイスでの食中毒も報告されていない現状でスパイスへの照射を急ぐ必要はありません。また、加工食品に使われるスパイスへの加熱処理が劣化するという説明も消費者は納得できません。こうしたスパイス業界・原子力委員会の必要とする理由を消費者はどうしても理解できないでいます。ニーズを厚生労働省および薬事食品衛生審議会が検討するにあたり、明確な評価基準と、スパイスによる中毒の有無など利点を示す明確な根拠データを用意した上で判断するよう申し入れます。

4.世界的動きから将来を見越して判断すること
世界の状況についてはすでに食品安全委員会が三菱総研に委託した調査が行われております。(平成16年3月、「食品への放射線照射技術の安全性に関する欧米の取組状況調査報告書」)
今回、三菱総研は3千万円近い委託料を受け取っていることを考えますと、この食品安全委員会の調査を補完する新しい調査を行っているものと考えます。
すでに、食品安全委員会の調査でも照射食品は「欧州では2000年ごろから減少しており(p1-11)」「外食産業など直接消費者の目にふれない用途での利用が中心となっている。−中略―また、大手スーパーや食品企業も放射線照射済みの食品を利用することに懸念があり、現状では照射食品の利用が再び拡大する見通しはたっていない。(p.2―49)」と消費者に受け入れられてない実態を報告しています。 米国の概況は「実際に市場に出回っている照射食品の種類はさほど多くない。最も広く市場に出回っているのは、スパイス類で年間約6.3万トンである。次いで、冷凍牛挽肉(ハンバーガー用パテ)が推定約0.7−2.3万トンであり(その流通量は牛肉市場の1%以下であるp2-10)、それ以外の照射食品は現在ほとんど流通していないという状況であった。(p2‐3)」と報告しています。
米国食品医薬品庁(FDA)も「消費者は、照射食品に対して一般的には否定的な見解を持っている(p.2-7)」としています。
農務省は「正直に言って、米国内の消費者は照射食品に対して否定的な意識が強い(p.2-10)」と国民に受け入れられていない旨を報告しています。
米国の市民団体(Public Citizen)は「食肉処理を行っている過程で、(内臓肉や糞の混入などの)問題が起こっても処理を止める必要がないという条項がある。その場合、最終段階で照射して殺菌すればいいということになっている。これでは、処理中に大腸菌が混入することを許すことになってしまう。(p.2―36)」と食品の安全を守る基本的な工程が崩れていることを指摘、ハンバーグ用のひき肉を照射してきた会社の例で「照射食品を一番推進してきた企業であるSurebeam社が最近倒産した。(p.2―37)」という事例で照射食品が受け入れられていないことを説明しています。
また、「照射食品の販売は、スパイスの認可が発端になり、それから他の食品へ広がっていった。(p.2―38)」と照射スパイスが多くの加工食品に使われることで、拡大していくきっかけを作る食品であることを指摘しています。
報告書は米国の「照射済スパイスは、消費者が直接手にする小売品には用いられていないことが今回確認できた(p2-3)。」欧州では「外食産業など直接消費者の目にふれない用途での利用が中心となっている(p2-49)」と報告しています。
この食品安全委員会の調査は世界の流れが照射推進から大きく逆方向に転換していることを示しています。こうした時期に日本の原子力委員会が食品にまで放射線を照射することに固執する異常さを消費者は感じております。世の中の流れも当然わきまえて厚生労働省は判断されると思いますが、公平な判断を行ってください。
三菱総研の調査はさらなる最近の動向が加わるものと考えますが、今回の三菱総研の調査は早急に公表されるよう申し入れます。

5.照射食品の検討は個々の食品について行うこと
今回、特に照射を認めるように指名されているスパイス類については個々の品目についてその安全性を審議するに耐えうる科学的データはタマネギ以外ないようです。にもかかわらず香辛料の摂取量が少ないとして一括という原子力委員会の審議方法はまったく非科学的です。なぜなら、香辛料はその成分が食品の中でもとくに際立って偏っていることが特徴です。こうした香辛料の特異性を無視して少量摂取であるからという理由で個々のデータを必要としないという原子力委員会のまとめはまったく科学を無視したものです。動物実験も個々の成分を抽出した上で行えば多くの成分が実験できます。実験が難しいという理由で実験をしないということは科学的事実を追究しようということを放棄したものです。 今回の原子力委員会からの通知はスパイスだけでなく広範な食品に放射線を照射するようにという申し入れになっています。おおくの成分でできるいろいろな食品の成分変化を研究する必要があります。また、食品に付着する多くの細菌が変異を起こし人間に危険を与える可能性があります。この分野の研究も遅れています。こうした遅れは照射食品を推進する一部の研究者に偏っているという問題があると消費者は感じております。厚生労働省は中立な研究を厚生労働省が行うよう申し入れます。

6.照射線量が測定できない以上、食品安全委員会への諮問をしないこと
米国から輸入したソイアクトやドイツ産パプリカへの違法照射事件も照射線量による定量的な検査ができないためうやむやになっています。国の利害でその照射の有無すら確定できない状況です。厚生労働省が照射食品の管理をするといってもその限界が見えており、実質的に管理できません。こうした状況で照射食品を解禁することはより問題を複雑にするだけです。消費者はこうした多くの未解決な問題があることから食品安全委員会に諮問する条件が整っていないと判断します。

7.表示で消費者に選択させるという間違いをしないこと
 表示に関して「照射じゃがいも」では再照射防止のためのスタンプと、消費者対応でJAS法で表示を義務付けていますが、実際には店頭に出る際シール等が貼られておらず、まったく有名無実と成っています。現在、食品の偽装・不当表示が続発しています。こうした現実を踏まえて表示では何ら解決にならないと消費者は考えています。
 照射食品の認可を前提として健康評価を食品安全委員会に諮問することは厚生労働省と消費者との信頼を大きく損なうことになります。一部業界の利益のために判断を誤らないでください。

三菱総研の調査報告で照射食品の諮問を検討することは結論を誤る危険があります。また、その責任はすべて厚生労働省にあることは間違いありません。検討するための資料は厚生労働省自らの責任で集めてください。

「照射食品反対連絡会」連絡先

食品照射ネットワーク(担当・里見)   東京都新宿区下落合1-3-6-136 電話03-5386-1009

大地を守る会(担当・須佐)   東京都港区六本木6-8-15 第2五月ビル2階 電話03-3402-8841

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