放射線照射の問題点メモ

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要約

● 原子力委員会は2006年10月3日、食品、特に94種類の香辛料への放射線照射を検討するようにという報告書をまとめた。厚労省が諮問するか検討中である。この認可はアメリカからの輸入食品、特に牛肉が重要な争点になる危険をはらんでいる。

● 1980年、国際機関は「照射によってできるものは煮たり焼いたりしたものと同じ」とし安全とした。しかし、その後、照射によりできる「シクロブタノン」という成分の遺伝子へ影響を見る実験で、遺伝子を切断する働きがあると報告された。その後、発ガン物質を与えたラットに「シクロブタノン」を与えたところ半年後に発ガンが3倍も増えることが判明した。

● 消費者からは厚労省に正式な慢性毒性実験、発ガン実験などをするよう申し入れられている。

● 海外の状況を食品安全委員会の報告から、欧州は照射食品から後退しつつあり、米国も停滞気味である。

● 厚労省は照射線量をチェックする方法を持っていないため管理・監督ができない状況にある。

● これまでの動物実験報告で異常が報告されているが、それを隠蔽する工作が国際機関で行なわれている。

● 今年の違反事例

07年12月、ラプスジャパン株式会社がドイツのRAPS GmbH & Co. KG社から輸入したパプリカに照射された可能性があると厚生労働省が通知を各検疫所に通知した。
07年6月、キッコーマン(株)は健康食品の原料「ソイアクト」に放射線が照射されていたとして自主回収している。この原料を購入した企業名は公表されていない。

キッコーマンの違法照射について

キッコーマン(株)の「ソイアクト」は、大豆発酵抽出物を主成分とする健康食品の素材とされる。米国Van Drunen Farms(ヴァン ドゥルネン ファームズ社)の子会社であるVDF / Future Ceuticals(VDF / フューチャー シューティカルズ社、本社:イリノイ州モメンス市)から「ソイアクト」の原料が購入されている。このソイアクトにガンマ線が照射されていたとして、自主回収されている。
日本は食品衛生法で食品への放射線照射が禁止されている。(食品衛生法第11条「食品を製造し、又は加工する場合は、食品に放射線を照射してはならない」昭和34年12月厚生省告示第370号)例外規定で異物混入の検査と食品の厚み確認のために0.1グレイ以下の照射と、ジャガイモの発芽防止のために150グレイが認められている。
アメリカでは殺虫のために最高1kGyの照射が食品に認められているとされる。しかし、キッコーマンは照射線量に付き「VDF / FC社からの報告によると、「ソイアクト」の原料の一部に照射された可能性のある線量は、WHO(世界保健機関)などの「合同専門家委員会」が、健康に影響を及ぼさず安全であるとする基準の範囲内であります。」としている。この線量は10kGyである。実際に照射された線量、アメリカでの大豆発酵抽出物へ照射が許されているかは不明である。厚労省は自主回収であるとして、ソイアクトが販売された企業の利益保護のため社名等の公表をしていない。

最近の照射食品の動き

原子力委員会は2006年10月3日、食品、特に94種類の香辛料(ニンニクやハーブ、タマネギ、ニンジンまで含む。表1)への放射線照射を解禁するようにという報告書をまとめ、厚生労働省に通知した。これが認められればカレーからほとんどの加工食品にまで照射されたスパイスが広く使われることになる。また、つぎつぎと食品に照射されるきっかけとなる可能性が高い。特にアメリカからの輸入食品、特に牛肉やくだものへの照射が争点になるであろう。スパイスへの照射の理由は香辛料が微生物に汚染されているからというが、これまで香辛料による食中毒は報告されていない。

表1 放射線照射が要請された94品目

アサノミ、アサフェチダ、アジョワン、アニス、アムチュール、アンゼリカ、アナトー、ウイキョウ、ウコン、
エシャロット、オレガノ、オールスパイス、オレンジピール、ガジュツ、 カショウ、カッシア、カフィアライム、
カモミール、ガランガル、ガルシニア、カルダモン、カレーリーフ、カンゾウ、キャラウェイ、クチナシ、クミン、
クレソン、クローブ、ケシノミ、ケーパー、コショウ、ゴマ、コリアンダー、サフラン、サッサフラス、サボリー、
サルビア、サンショウ、シソ、シナモン、ジュニパーベリー、 ショウガ、スターアニス、スペアミント、セージ、
セロリー、ソーレル、タイム、タデ、タマネギ、タマリンド、タラゴン、チャイブ、チャービル、ディル、トウガラシ、
ナツメグ、ニガヨモギ、ニジェラ、ニラ、ニンジン、ニンニク、ネギ、ハイビスカス、バジル、パセリ、ハッカ、
バニラ、パプリカ、パラダイスグレイン、ヒソップ、フェネグリーク、ピンクペッパー、ペパーミント、
ホースラディッシュ、ホースミント、ホメグラネート、マスタード、マジョラム、ミョウガ、メース、ヨモギ、
ユズ、ラベンダー、リンデン、レモングラス、レモンバーム、レモンピール、ローズ、ローズマリー、
ローズヒップ、ローレル、ロングペッパー、ワサビ


最近の争点のポイント(新しい生成物質の毒性)

遺伝毒性

1980年、国際機関が10kGyまでの照射は安全とした根拠は「照射しても煮たり焼いたりしたときと同じものしか出ない」ということであった。
しかし、1990年に入って照射の有無を調べる方法の開発で、照射によってのみ出きる「2-ドデシルシクロブタノン類」が有力なチェック物質にとされた。
この物質についての毒性データなく、ドイツのカールスルーエ連邦栄養研究センターでラットおよび人の結腸細胞をシクロブタノン液(0.3−1.25mg/ml)に30分処理したところ、細胞の脂肪率が高くなり、遺伝子(DNA)が切断されることが観察された。そこで、ラット6匹(対照3匹)にシクロブタノンを経口投与し(1.12mg/kg、14.9mg/kg)、16時間後にラットの結腸細胞を調べた。結果は低濃度群で2匹、高濃度群で6匹に遺伝子(DNA)の切断が見られた。この実験から細胞に吸収されたシクロブタノンが遺伝子を傷つけることから発がんとの関係が疑われることになった。(1997年)

発ガン促進

そこで、フランスのパスツール大学で1群6匹のラットを3グループ作り、1群をそのままにして、残り、2群に2種類のシクロブタノン(2-TCBと2-TeCB)を水に0.005%溶かしそれぞれ飲ませた。途中(3週、4週)に3群全部に発ガン物質であるアゾキシメタンを与え(15mg/kg)、6ヵ月後に結腸を調べるという探索的実験が行われた。その結果、2種類のシクロブタノンを与えられていないネズミは6匹中4匹に1箇所ずつ6ミリ以下のガンが見つかった。しかし、シクロブタノンを与えられた群は3倍以上のしかも大きなガンができたことから、シクロブタノン類には強い発ガン促進作用があると報告した。(2002年)

これらの実験は慢性毒性実験や発ガン実験と違い短期間に毒性の目安をつけられる。結果は1980年に出された10kGyまでの照射は安全とした根拠を崩す可能性を持っている。シクロブタノンの慢性毒性についてきちんとした実験が必要となっている。こうした問題を原子力委員会は、WHOの見解(2003年)として「・・消費者に健康の危険をもたらすようには見えない。」と引用を記すのみで、安全の根拠とした。これが照射食品の新しい問題点である。

必要な慢性毒性実験、発ガン実験

照射食品反対連絡会より07年10月19日付けで厚労省舛添大臣宛に「2-ドデシルシクロブタノン類の遺伝子への傷害性、発ガン補助性、催奇形性および発がん性実験を照射食品に利害関係のない中立の公的研究機関(原子力研究所、および原子力関係予算、旧科学技術庁より原子力および照射食品の研究費をもらったことのない研究機関および研究者)で、2箇所以上の研究施設で実験を行こと」という申し入れがされている。
2004年、食品安全委員会のまとめた「食品への放射線照射技術の安全性に関する欧米の取組状況調査報告書」でもシクロブタノン類について「従来の安全性評価では考慮されてこなかった新しい項目であることから、細胞レベルの発がん性試験を行うなどの安全性確認を行うことが考えられる。また、放射線耐性微生物をはじめとして照射前後の食品中の微生物相の推移についても議論が続いているが、病原微生物等のリスクについては、近年、分子生物学的手法の進展により、マイクロアレイなどを用いた多数の微生物を検出できる手法の開発が進められている。そこで、このような新しい手法を用いて照射(もしくは再照射)にともなう微生物相の消長などについて基礎的なデータを取得しておくことも考えられる。」としている。

照射食品はどこで生まれたか

照射食品は第二次世界大戦中、米国陸軍が兵士に食べさせる食料の腐敗を防ぐために研究を始めた。戦後になっても陸軍は研究を続け、1963年、米国の米国食品医薬品庁(FDA:日本の厚生労働省にあたる役所)はベーコンへの照射を認めた。しかし、陸軍はベーコンだけでなくハムにも照射したいと申請したところ、FDAはカリフォルニア大学の動物実験で成長率の低下、赤血球の減少、死亡率の増加などが認められたとして、先に許可した照射ベーコンの照射を禁止、ハムへの照射申請を却下した(1968年8月)。この時点で米国商務省が行った調査によると、食品に放射線照射の計画を持っていた国は76カ国におよんでいた。放射線照射で殺菌や殺虫ができ、それが原子力の平和利用だという宣伝が未来の可能性を示していたからである。しかし、その後10年たった178年の国際原子力委員会(IAEA)の調査では幻想が消えて19カ国に減少していた。

日本での研究開始は

1967年、日本原子力委員会は、米・小麦(殺虫)、ジャガイモ・タマネギ(芽止め)、ミカン(カビ防止)、ウインナーソーセージ・水産練り製品(殺菌)の七品目に照射するための研究を開始した。そして、1972年、厚生省は世界に先駆けて商業ベースでの照射ジャガイモ(発芽防止に150グレイ以下)の販売を認め、1974年から北海道の士幌農協で照射されたジャガイモが市場に出荷された。しかし、照射ジャガイモに消費者が反対運動をただちに起こした。理由は動物実験で体重減少や卵巣重量の減少、および死亡率の増加傾向が見られたからである。この運動のため売れない照射ジャガイモは学校給食会を通して全国の学校給食で子どもたちに食べさせられたのである。これを知った父母は反対運動を起こし1977年の4月から照射ジャガイモの扱いを学校給食会は止めることとなった。

照射ベビーフード裁判

照射という技術を違法と知りながらベビーフードの材料に照射するという事件が起きた。1974年から4年間、和光堂のベビーフードに、下請けの中神食品が最高3万グレイという強い放射線をあてていた事件が発覚し、この事件以後、新しい品目は許可にならなかったという経緯がある。
愛知県豊橋市の中神食品工業がベビーフードの原料野菜に放射線を照射していた刑事事件で、中神食品は当時国立予防衛生研究所食品衛生部室長の川端俊治氏の鑑定書で、1980年の国際原子力機関(IAEA)世界食料農業機関(FAO)世界保健機関(WHO)の合同専門家委員会は10kGyまでの照射は安全という報告を安全の根拠とし実質上問題ないとした。
これに対し検察側証人として東京大学医学部物療内科講師の高橋晄正氏は、1980年の会議による結論の導き方が非科学的であることをデータで示し、裁判官は「1977年の委員会で今後検討を要するとしている事項を検討することもなく、1908年に10kGyまであらゆる食品に無条件に照射することを受け入れると決定した点に論理の飛躍が認められる」という部分を引用し、川端氏の鑑定書をしりぞけ、中神食品社長と技術部長に懲役8ヶ月(執行猶予2年)、照射したラジエ工業の2名に罰金10万円の判決を申し渡した。(1984年6月7日豊橋地裁判決、1985年10月25日名古屋高裁判決)

海外での状況(欧州は減少、米国は停滞 コスト1割アップ)

食品安全委員会は2004年3月、「食品への放射線照射技術の安全性に関する欧米の取組状況調査報告書」をまとめている。世界的な利用動向で「2003年時点での食品照射の許可国は53カ国に達し100品目以上の食品類が許可されている。(p1-11)」
しかし、「欧州では2000年ごろから減少しており、近年は米国の伸びが著しい。現在では米国が世界全体の照射食品量の半分を占めている。(p1-11)」とまとめている。
欧州のポジティブリストには「リストには乾燥ハーブ、スパイスおよび野菜由来調味料しか記載されておらず、それ以外は各国が独自に認可してきた品目を経過措置として認めるという状況が続いている。(p.1―21)」としている。 また、欧州での実態調査、その概況で「外食産業など直接消費者の目にふれない用途での利用が中心となっている。これ以外には、カエルの足(モモ肉)、トリ肉など特定の食品一部で照射が行われているが、消費者の関心は概して低い状況にある。また、大手スーパーや食品企業も放射線照射済みの食品を利用することに懸念があり、現状では照射食品の利用が再び拡大する見通しはたっていない。(p.2―49)」と消費者に受け入れられてない実態を報告している。
世界の半分を占めていると報告された米国の概況は「実際に市場に出回っている照射食品の種類はさほど多くない。最も広く市場に出回っているのは、スパイス類で年間約6.3万トンである。次いで、冷凍牛挽肉(ハンバーガー用パテ)が推定約0.7−2.3万トンであり(その流通量は牛肉市場の1%以下であるp2-10)、それ以外の照射食品は現在はほとんど流通していないという状況であった。(p2‐3)」と報告している。
報告には「一般消費者の、照射食品の受け入れ状況は、概してネガティブである。ただし、正確な科学的な情報を消費者に提供すれば、消費者の理解度や許容度は向上するという指摘が、推進サイドの企業などから出されている。(p.2―3)」としているが、消費者の素朴な疑問すら解消できていない。
米国食品医薬品庁(FDA)も「消費者は、照射食品に対して一般的には否定的な見解を持っている(p.2-7)。」また「正確には分からないが、スパイスの15‐20%程度は照射を受けているのではないか。(p.2-7)」と発言している。
農務省は「正直に言って、米国内の消費者は照射食品に対して否定的な意識が強い(p.2-10)」と国民に受け入れられていない旨を報告している。 米国の市民団体(Public Citizen)は「食肉処理を行っている過程で、(内臓肉や糞の混入などの)問題が起こっても処理を止める必要がないという条項がある。その場合、最終段階で照射して殺菌すればいいということになっている。これでは、処理中に大腸菌が混入することを許すことになってしまう。(p.2―36)」と食品の安全を守る基本的な工程が崩れていることを指摘、ハンバーグ用のひき肉を照射してきた会社の例で「照射食品を一番推進してきた企業であるSurebeam社が最近倒産した。(p.2―37)」という事例で照射食品が受け入れられていないことを説明している。
また、「照射食品の販売は、スパイスの認可が発端になり、それから他の食品へ広がっていった。(p.2―38)」と照射スパイスが多くの加工食品に使われることで、拡大していくきっかけを作る食品であることを指摘している。 報告書は米国の「照射済スパイスは、消費者が直接手にする小売品には用いられていないことが今回確認できた(p2-3)。」欧州では「外食産業など直接消費者の目にふれない用途での利用が中心となっている(p2-49)」と報告している。

照射線量を調べる方法がなく違法照射を管理できない

 現在、照射された食品への照射線量を検知する方法はない。にもかかわらず、照射への照射線量が決められている。これは照射した業者が違法な照射をしないという大前提に立っている。しかし、今回のソイアクトのように照射食品を管理・監督する厚生労働省は有効な管理・監督するための手段を持たないことを示している。しかし、違法照射した例は多く、また、その管理・監督ができないため照射食品を認めれば消費者を守ることができない。現在の状況は照射されたかもしれないという定性的な分析ができるかもしれないという状況である。線量を決める定量的な検知法はない。

表2 『放射線照射による食品衛生法違反事例(1996年〜2007年)』
届出年月品名重量違反内容製造国備考
1996年6月朝鮮人参ドリンク1,400kg放射線照射中国ガンマ殺菌
1996年6月朝鮮人参ドリンク1,680kg中国
1996年10月花粉加工食品165.5kg米国
1997年1月粉末清涼飲料百宝324kg中国
1997年8月粉末サメ軟骨100kg台湾
1997年8月健康食品NOPAL300kgメキシコ
1999年12月粉末サメ軟骨5.4kgカナダ電子線照射
2000年9月アガリクスタブレット4.25kgブラジルガンマ殺菌
2000年9月アガリクスエキストラクト5kgブラジル
2001年1月焙煎ガラナ豆3,000kgブラジル
2001年10月蜜蜂の幼虫粉末不明中国
2002年2月マカパウダー不明ペルー
2004年2月ホッキ貝4470kg中国
2004年3月ハーブ抽出物パウダー不明中国
2004年11月粉末田七人参不明中国
2006年10月ポークジャーキーのニンニクとタマネギ不明米国
2007年6月キッコーマン『ソイアクト』不明放射線照射米国
2007年12月パプリカ不明放射線照射ドイツ


照射による質の劣化(商品価値の低下)

今回出された原子力委員会のまとめにも「照射すると食味が低下する」と書いていある。新しい変化が起きるため食感や臭がかわる。ナサ(NASA・アメリカ航空宇宙局)は、宇宙飛行士の食中毒防止のため初期の食事を照射していたが、照射された食品が「髪の毛の焦げたような照射臭」をもち、食欲を落とすとして中止し(例外として七面鳥と一部のステーキに照射)、中毒を防止するための新しいシステムを作り上げた。これがハサップ(HACCP・危害分析重要管理点)と呼ばれる。
照射臭による事件は一九九六年のカナダから輸入されたサケに強い異臭があり、商品にならないと業者が送り返した事件が発覚した。(注:その後カナダの会社がアメリカのフロリダにある照射専門会社に2億円の損害賠償裁判を起こした。)

今回原子力委員会が提出したまとめに「定められた線量を超えて照射すると、食品(肉類や食鳥肉など)によってはにおい(照射臭)が発生したり、脂質の酸化により食味が低下することがある」「食品に放射線を照射すると、米については、供試した品種によっては食味に変化が現れるものがあり、また、小麦については、製めん適正の低下が認められた」(p.27)と記してある。そこで、米、小麦以外の5品目も研究成果報告書で点検した。その結果、照射による変化(照射臭、褐変、腐敗など)は芽止めのような低線量でも起きており、菌やカビのような高線量はより大きな変化が報告されている。この変化は定められた線量以下でも起きており、製品となったときに消費者のニーズに大きく影響すると考えられる。また、二次汚染による腐敗の危険や変色等を防ぐために冷蔵保存がよいとされるが、照射と冷蔵貯蔵という2重の処理は食品製造メーカーに大きな負担になろう。最近は冷凍した上で照射をすることが勧められているが、冷凍、照射、冷蔵という3重の処理となりコストにはねかえるのである。 「照射タマネギの唯一の欠点は、実用的には問題ないとはいえ貯蔵中に内芽が枯死し、褐変することである。内芽の褐変を防止するには3−5度の低温に貯蔵することで、こうすれば少なくとも8ヶ月は変化しない。出庫しても常温で1ヶ月くらいの流通期間ならば内芽には何ら変化なく、商品価値を維持できる。」3−5度の低温に貯蔵すれ放射線を照射しなくても実用にはまったく困らないのである。もうひとつの問題は照射で発芽を抑えると腐敗率が増すことである。照射されたタマネギは菌への抵抗がなくなるのである。表参照

収穫後28日照射試料の発芽率及び腐敗率(室温貯蔵 %)
  収穫後の日数
28 63 83 124 185 242
非照射 発芽率 0 0 6.5 23.0 67.0 86.0
腐敗率 0 0 7.0 8.0 8.5 8.5
3krad 発芽率 0 0 0.5 0.5 0.5 0.5
腐敗率 0 0 5.0 12.0 13.5 24.5
7krad 発芽率 0 0 0 0 0 0
腐敗率 0 0 0.5 12.0 14.0 24.0
15krad 発芽率 0 0 1.0 1.0 1.0 1.0
腐敗率 0 0 4.0 12.0 18.0 26.0
収穫後28日照射試料の発芽率及び腐敗率(5℃貯蔵 %)
  収穫後の日数
28 63 83 124 185 242
非照射 発芽率 0 0 0 0 5.0 23.0
腐敗率 0 0 0 3.0 8.0 8.0
3krad 発芽率 0 0 0 0 1.0 5.0
腐敗率 0 0 0 6.0 11.0 17.0
7krad 発芽率 0 0 0 0 1.0 9.0
腐敗率 0 0 0 6.0 12.0 12.0
15krad 発芽率 0 0 0 0 1.0 15.0
腐敗率 0 0 0 1.0 7.0 16.0
 

国際会議での誤った結論はどうして導かれたか

この裁判は国際機関の持つ問題点を浮き彫りにするものであった。特に、日本で行われ異常が出ていたデータを一部の推進派の研究者が自ら会議に出席し否定するということが行われていた問題がある。
日本の馬鈴薯やタマネギで異常が出た実験結果は1977年に発行されたFAO,IAEA,WHOの合同専門家会議のモノグラフで、馬鈴薯については「長期研究で、卵巣の大きさに統計的に有意な変化が見られたが、組織病理学的な異常所見は見られなかった。さらに、マウスおよびラットを使った広範にわたる生殖研究でも、加熱調理した照射ジャガイモの摂取を原因とする異常は見られず、潜在的な変異原性を示すデータも得られなかった。(WHOモノグラフp.27)」と毒性を否定する形でまとめられた。しかし、厚生省の食品安全調査会の答申(1972年8月)でも60キロラドで卵巣の異常について同じ資料で審議されており、安全とされた線量は「15キロラド」であった。「広範な生殖試験」とされた実験はその後の新しいものではなく、調査会の審議資料に含まれていたものである。このような正式でない解釈を国際会議に出した経過を明確にし、その上で照射食品を審議されたい。この件に関しては1978年4月20日付けで、原子力委員会、科学技術庁、厚生省、農林省に消費者団体から質問状が出されているが無回答のままである。
タマネギに関しても「生殖研究で照射タマネギをマウスに与えると、卵巣および睾丸の重さに統計的に有意な変化が見られたが、組織病理学的な異常所見や生殖への悪影響は見られなかった。従って、これら器官の重量の変化は人間の健康に重大な影響を与えるとは見なされなかった。ただし、今後行われるラットを使った長期研究では、卵巣および睾丸の変化に特に注意する必要がある。マウスの生殖研究でF3世代に肋軟骨の融合が見られたが、コントロール群の数が少なすぎ、また実験に使われた特定のマウスの種でこの現象が自然に発生する率について十分な情報が得られなかったことから、有意と見なされなかった。繰り返し行われた実験では、3世代いずれでも、このような異常は見られなかった。毒性データでは、照射タマネギの摂取による健康への悪影響は示されていない。(WHOモノグラフp.29)」と記載されている。生殖試験という重要な実験で動物数が少ないのにもかかわらず統計的有意差がでたのに、有意と見なさない理由が非科学的である。また、3世代では異常がないとしているが、2世代目で有意差(頸肋)がでている点に何ら触れていないのも恣意的である。この点についても再審議をおこなうよう申し入れてある。
その後、1992年、WHOは「Safety and nutritional adequacy of irradiated food」をまとめる会議を開いている。この報告書(日本語訳「照射食品の安全性と栄養適正」コープ出版1996)で、「3世代で体重増加率の低下、第2世代と第3世代の親の2回目での繁殖で、幼仔の体重が有意に低下した。しかし、観察された放射線照射の影響は小さかった。(Readら、1961)」という記載(p.152)があるが、日本の報告はまったく異常がない扱いとされ、問題にされていない。

問題点

推進派は「表示」をすれば消費者は選べるというが、この表示で売れないことから『殺菌済み』という表示への書き換えが行われようとしている。こうした小手先行政にアメリカでは批判が強くなっている。また、安全性に大きな問題を残していること。検知法がないこと。消費者にメリットがないこと。世界の半分を照射しているとされる米国でも米農務省が学校給食に照射牛肉を斡旋しているが、父母の反対によっていまだ実行されていない。米国はO157以来照射に力を入れ、日本への照射牛肉を輸出することが視野に入っている。こうした一連の動きの中で考えると原子力委員会が2000年12月の全日本スパイス協会の要請を引き継ぐ形で照射食品解禁に活発に動く理由が重要である。また、照射食品は国際機関を巧みに使った強引な推進力が働いており、これに国内の行政機関が翻弄されている。国際間の調整の場として役割の大きい機関であるが、こうした機関と国との関係を明確にさせる必要がある。原子力委員会の食品にまで原子力の拡大をはかろうとするのは放射性物質の拡散をまねく。また、照射により食中毒が予防できるというが実証されていない。原子力産業と輸入業者に利益があるとされるが、消費者にはまったく利益がない照射食品は原子力産業や輸入業者にも大きな損失をいずれもたらすと考えられる。コバルト六〇を作って売る原子力産業、輸入食品のロスを少しでも減らしたい輸入業者、ここに照射のメリットがある。消費者は望まない照射食品を食べさせられるかどうかと言う瀬戸際にいる。O157問題で牛肉への放射線照射を認めているアメリカにとって日本が照射を認めていくことは重大な政治課題になっていると考えられる。



以上

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