照射食品の質について
(食品照射研究運営会議の7品目の研究成果報告書より)

里見 宏

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  原子力委員会報告書に「定められた線量を超えて照射すると、食品(肉類や食鳥肉など)によってはにおい(照射臭)が発生したり、脂質の酸化により食味が低下することがある」「食品に放射線を照射すると、米については、供試した品種によっては食味に変化が現れるものがあり、また、小麦については、製めん適正の低下が認められた」(p26)と記してある。
そこで、米、小麦以外の5品目も研究成果報告書で点検した。
その結果、照射による変化(照射臭、褐変、腐敗など)は芽止めのような低線量でも起きており、菌やカビのような高線量はより大きな変化が報告されている。
この変化は定められた線量以下でも起きており、製品となったときに消費者のニーズに大きく影響すると考えられる。
また、二次汚染による腐敗の危険や変色等を防ぐために冷蔵保存がよいとされるが、照射と冷蔵貯蔵という2重の処理は食品製造メーカーに大きな負担になろう。
最近は冷凍した上で照射をすることが勧められているが、冷凍、照射、冷蔵という3重の処理となりコストにはねかえると考えられる。

コメ(ササシグレ、コシヒカリ、コシジワセ、キンマゼ、農林18号、ハツユキ)
「うまい米を代表する「ささしぐれ」は、照射直後には香り味などで、若干スコアの低下があったが顕著な差はなかった。
3ヶ月貯蔵後では30krad区(300グレイ)の香り以外は有意差が見られなかった。
6ヵ月後では30krad照射区で硬さの劣化が認められた以外は大差なく逆に香り、味では一部照射したものの方が高いスコアを示した。
うまくない米とされる「はつゆき」もほぼ同じ傾向を示し3ヶ月貯蔵後で認められた品質劣化が6ヶ月貯蔵後はほぼ検知されなくなっている。」
「低線量照射でも照射直後には官能評価が低下した」と記されている。(照射量 10krad(100グレイ)、15krad、20krad、25krad、30krad)」

コムギ(カナダ産マニトバ2号と農林61号)
「照射小麦から作ったパンの香りについて図4−5示した。
照射直後では20krad(200グレイ)でも異臭が生成しており、線量と共に香り、総合点とも低下している。
しかし、照射小麦を3ヶ月貯蔵した後では、このオフフレーバーはかなり軽減している」麺について「内麦は照射直後の試料では照射の影響がそれ程大きくないが、3ヶ月貯蔵後では照射による評点の低下が全般的に現れてくる。
一方外麦では照射直後でも3ヵ月後でも照射の影響がかなり認められ、外麦の方が放射線感受性の高いことが示された。
この官能検査による硬さの低下は、めんの物性値の測定結果と完全に一致している。」
「以上の結果、ゆでめんの食味(特にテクスチャー)が照射の影響を受けやすいことがわかった。」

タマネギ(札幌黄、泉州黄)
「発芽防止のためには、休眠期間中なら3krad(30グレイ)、また、休眠覚醒期の初期で内芽の伸長が2−3cm程度以内なら、7−15krad (70−150グレイ)で目的を達することができる。」
「照射タマネギの唯一の欠点は、実用的には問題ないとはいえ貯蔵中に内芽が枯死し、褐変することである。
内芽の褐変を防止するには3−5度の低温に貯蔵することで、こうすれば少なくとも8ヶ月は変化しない。
出庫しても常温で1ヶ月くらいの流通期間ならば内芽には何ら変化なく、商品価値を維持できる。」

収穫後28日照射試料の発芽率及び腐敗率(室温貯蔵 %)
  収穫後の日数
28 63 83 124 185 242
非照射 発芽率 0 0 6.5 23 67 86
腐敗率 0 0 7 8 8.5 8.5
3krad 発芽率 0 0 0.5 0.5 0.5 0.5
腐敗率 0 0 5 12 13.5 24.5
7krad 発芽率 0 0 0 0 0 0
腐敗率 0 0 0.5 12 14 24
15krad 発芽率 0 0 1 1 1 1
腐敗率 0 0 4 12 18 26
収穫後28日照射試料の発芽率及び腐敗率(5℃貯蔵 %)
  収穫後の日数
28 63 83 124 185 242
非照射 発芽率 0 0 0 0 5 23
腐敗率 0 0 0 3 8 8
3krad 発芽率 0 0 0 0 1 5
腐敗率 0 0 0 6 11 17
7krad 発芽率 0 0 0 0 1 9
腐敗率 0 0 0 6 12 12
15krad 発芽率 0 0 0 0 1 15
腐敗率 0 0 0 1 7 16


みかん
「貫通力の高いガンマー線では50krad(500グレイ)以上の照射で果肉に異臭が発生し、食用としての価値が低下する。
そこで、本研究では貫通力の弱い電子線を用いて温州みかんの表面殺菌を行い、食味および成分に変化を与えないで貯蔵性を高める方法について検討した。」
「ミカン果皮の褐変化と電子線エネルギーとの間に相関が見られ(中略)従って、褐変化を抑制するためには電子線のエネルギーが低いほうが望ましく、事実上0.2MeVの場合には非照射試料と変わらない。
しかし、カビ抑制効果についてみると、0.2 MeVよりも0.5 MeVの方が有効である。
0.2 MeVでは電子線の飛程が小さく、果皮表面から約0.4mmの深さまで照射されるにすぎないが、0.5 MeVではほぼ果皮全体に電子線が吸収されていることになり、表面より0.4mm以上深い部分に存在するカビに対しても有効である。
一方0.9 MeVや1.5 MeVで照射した場合には0.5 MeVよりも逆にカビの発生が増加した。
このような高エネルギーでカビの発生が増加した原因は、果皮部の吸収線量が増大したため果皮での組織変化が大きくなり、カビ寄生に対する抵抗力が低下した結果、生き残ったカビや二次的に汚染したカビの生育が起こりやすくなったためと考えられる。
(中略)0.5 MeVが最適であり、高いビーム電流を用いて表面線量200krad照射することが望ましい。
この照射条件下では青カビや緑カビは殺菌され、果皮の褐変化などの品質低下もかなり抑制される。
また、3℃前後の低温貯蔵と組み合わせれば3ヶ月以上の長期貯蔵が可能である」
「ハイイロカビは放射線抵抗性は最も大きくD1050−70krad、150kradでも完全殺菌はやや困難であるように思われる」

馬鈴薯
「照射処理した馬鈴薯から二次加工した製品(ポテトチップス)を製造した。
官能検査の評点は、非照射区のほうがすぐれていたが、7krad(70グレイ)区と15krad(150グレイ)区間には明らかな差異は認められなかった」
「色は未処理区のほうがより高く、揚がり具合、総合でも同様な傾向が見られたが、これは照射区のポテトチップス表面にこげ具合のむらが目立ったためと思われる。
照射された馬鈴薯では還元糖量の分布が不均一で、中心部の濃度は周囲より高いがそれが原因であろう」
「今回ポテトチップス製造に供したイモは照射後約5ヶ月経過しており、常温貯蔵、5℃貯蔵ともに照射区のほうが還元糖量少なかった」
「現在の生産量は1万3−4千トン、最高で1万5千トンぐらい、流通は6−7千トンぐらい。
いいものだけを出し後は廃棄している。品質のいいものはそれくらいしか確保できない(農林水産省大臣官房審議官談話 サンデープロジェクト1991年当時)」

かまぼこ
「500krad以上の線量は色調の変化(褐変)を認め400krad以上の照射には異臭(照射臭)の発生を認めた。
300kradが適正量との結論を得た」
「非照射は8種類の菌が検出された。100kradでも8種類、300kradでは2種類(Corynebacterium、Bacillus)に減少、500kradでは1種類(Bacillus)のみとなった。」
「300kradの線量を照射した後、10℃程度で貯蔵することにより、非照射かまぼこ類と較べ貯蔵期間が2−3倍程度延長される」

ウインナーソーセージ
「0.5Mrad(5000グレイ)で10℃以下に冷蔵することによりきわめて効果的に保存性を高めることが認められた。
照射直後の生菌数は103/g以下に減り、生き残る菌種は限定され、Floraも単純となり、無照射に対しネト発生までの期間を2−3倍延長することができた」
「3日間までは色沢の劣化は認められないが、微かに照射臭が認められた。しかし、7日目ぐらいになると、照射ソーセージは退色を示し、色沢の劣化が認められたが、照射臭は少なくなり、注意しないとわからない程度であった。」
「品質への影響は0.8Mrad(8000グレイ)以上になると肉色がやや淡くない照射臭を感じたが、1.0Mrad(10000グレイ)でも商品価値を落とすほどではなかった。ただし、amaranth(赤色2号)は0.8Mradでやや変色し1.0Mradは桃色になった」
「MicrococcusやSerratia,Brevibakuterium,Pseudomonas,StreptococcusやLactobacillusなど乳酸菌やMA菌、酵母菌などは放射線に対し抵抗性が強い」」

照射サーモン、照射ベビーフード、宇宙食のHACCP開発も照射臭が問題になった。

以上

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