原子力委員会に7月13日申し入れました

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内閣府原子力委員会
委員長 近藤駿介 殿

 

食品の放射線照射の推進に反対する申し入れ


 貴委員会は、昨年12月から食品照射専門部会を設置し、放射線照射食品の推進へ向けた検討を始めています。
すでに8回の部会と数回の意見のききとりを終え、まとめの段階に入っています。しかし、私たち消費者・市民は、電離放射線(以下、放射線)を食料品(農産物・加工食品等すべて口に入るもの)及び家畜飼料に殺菌・殺虫・発芽阻止・熟度調整等のために使うことに反対しています。
 放射線の照射により、食品の成分が変わります。人類はこれまで、放射線を当てた食品を食べた経験がなく、生物を殺傷するなどの放射線のもつ性質から考えると、そもそも、食べものにこのような放射線技術を使うべきではありません。放射線の食品照射には次のように多くの疑問があります。ただちに、食品への放射線照射の推進を中止するよう申し入れます。

 <反対する主な理由>

1.消費者は、現在、食品への放射線照射を推進する必要性も緊急性も認められないと考える。

原子力政策大綱では、認可が進まないのは消費者の「理解不足」によるものと決め付けているが、これは誤りである。

また、今回、原子力委員会食品照射専門部会のまとめとなる「食品への放射線照射について」(素案)は6月28日部会で提出され議論されている。そして、本日(13日)基本的にまとめられ、後はパブリックコメントが求められる予定である。しかし、照射食品反対連絡会は素案の検討を行った結果、食品照射専門部会がその任に堪えうる能力がない部会ある間違いを犯している事実を指摘し、このまとめが放射線照射を推進する一部の人たちによって進められている問題を指摘する。

「食品への放射線照射について」の25ページ「(3)照射タマネギの慢性試験における試験動物の奇形発生 原子力特定研究で実施されたタマネギの亜慢性毒性試験では、その試験の初期において、試験動物のエサに25%(その物質を混ぜた重量パーセント)という大量のタマネギを与えたところ奇形が発生したが、同様な結果が非照射のタマネギでも得られたため、これはタマネギ自体の持つ毒性の影響によると判断された。

その後、タマネギの添加量を幾つか変えた試験を実施し、タマネギそのものの影響がでない2%という量で最終的な試験が実施され、放射線照射したタマネギの慢性試験については問題がないと報告されている。」と報告しているが、「慢性毒性における試験動物の奇形発生」とタイトルをつけながら本文では「亜慢性毒性」とし、25%添加したタマネギで奇形が発生したと記載している。

慢性毒性を行っている動物を妊娠させその胎仔の奇形を調べることは、実験の目的が違うため併用することは考えられず、「放射線照射による玉ねぎの発芽防止に関する研究成果報告書(資料編)」にも報告されていない。「研究成果報告書」には独立した「マウスを用いた世代試験」で300グレイ照射した玉ねぎをエサに4%混ぜ与えた実験と、150グレイ照射した玉ねぎをエサに2%混ぜた実験が報告されている。

この4%添加した実験で骨格の奇形と卵巣と睾丸の重量が減少していることがわかり、2%添加実験が行われた。その結果、頚肋(けいろく:頚椎にも肋骨がつく奇形)が非照射群で19.2%、照射群で41.2%でた。これは統計的有意差があるが、報告書は感度の悪い順位和検定では有意差がなかった安全を主張した経緯がある。

このような重大な問題をチェックする機能が専門部会にないことが、専門部会としての役割を果たしていない。
今回のまとめは具体的データによる問題指摘を具体的なデータをもって検討する手法でなく、他者の引用で否定する手法をとっており、これを安全の根拠として我々は認めることはできない。

(例1:「まとめ」p.26に放射線による生成物質の2-ドデシルシクロブタノンが遺伝子への傷害と強い発ガン補助性があるという報告に対し「WHOの見解では、長期間の動物実験とエームス試験が陰性という結果を含む、現時点での科学的証拠に基づくと、2-ドデシルシクロブタノン類は、消費者の健康に危険をもたらすようには見えない。)というあやふやな引用で安全であるかのようなまとめ方をしている。

例2:p.27の「放射線照射による臭い」として、「食品に放射線を照射すると、臭いがでる場合がある。これは主に肉蛋白構成成分である含硫アミノ酸あるいは脂質に由来するものと考えられている。
しかし、これは商品価値の面では問題であるが、健全性の点から見て問題はないと言われている。」と記載しているが、誰が問題ないといっているか引用すらない。現に、シクロブタノンは照射により脂肪から特異的にできるものであることが最近の報告でわかり、その危険が今指摘されているのに、このような科学的な根拠の無いまま安全とする専門部会の非科学性を消費者は認めない。
似たまとめ方は多くあり、ここに記載した例もそうであるが、字句の一部の訂正ですむものではない。
この問題提起は専門部会の公平性と科学性と部会の専門的能力が問われる問題と消費者は考えている。
今回の専門部会のまとめは容認できるものではないとして強く撤回を求める。


2.照射食品の安全性は確立されていない。



(1)FAO,IAEA,WHOの合同専門家会議の報告は、認められない。
1980年、FAO,IAEA,WHOの合同専門家会議で「10kGyまでの照射は問題なし」とした報告を根拠に照射食品を推進することを消費者は以下の理由により認められない。

日本で行われた「放射線照射による馬鈴薯の発芽防止に関する研究成果報告書」によれば、「照射馬鈴薯によると考えられる所見としてラットの3万ラド及び6万ラドの照射馬鈴薯添加飼料を与えた雌の体重増加の割合が少なく、6万ラドの照射馬鈴薯添加資料を与えた雌の卵巣重量に変化が認められた。
これが照射馬鈴薯摂取によると考えられる所見である。」と、1万グレイ以下の300グレイ(3万ラド),600グレイ(6万ラド)で異常を報告している。

 これ以外にも、この報告書には、6万ラド照射した飼料を与えられた雄の体重増加率も統計的有意差を持って少なくなっていた。
安全の証明どころか危険を疑わすに十分な結果が報告されていた。
 また、「タマネギに関する研究成果報告書」にも、3万ラド照射したタマネギを飼料に4%添加したF3世代までの催奇形性実験で肋軟骨癒合、頸肋があり、卵巣・睾丸の重量が減少していることから、照射量を半分にした1万5千ラドの照射タマネギで添加量を半分の2%に減らした実験が行われた。この結果、頸肋の増加が2世代目から確認されている。しかし、照射タマネギは許可申請が行われなかったことから、審議されずにきている。

 だが、この実験は、国際的には打ち消す必要のある重要な問題であったことから、この日本の実験結果は、1977年に発行されたFAO,IAEA,WHOの合同専門家会議のテクニカル レポート604に次のようにまとめられている、ジャガイモで「ひとつの長期研究で、卵巣の大きさに統計的に有意な変化が見られたが、組織病理学的な異常所見は見られなかった。
さらに、マウスおよびラットを使った広範にわたる生殖研究でも、加熱調理した照射ジャガイモの摂取を原因とする異常は見られず、潜在的な変異原性を示すデータも得られなかった。」(p.27)と、毒性を否定する形でまとめられた。
この実験における卵巣の重量減少は、3分の1に及ぶものであり、組織病理学的に細胞に異常がないということなので細胞数の減少と考えざるを得ない問題である。

 また、タマネギに関しても、「生殖研究で照射タマネギをマウスに与えると、卵巣および睾丸の重さに統計的に有意な変化が見られたが、組織病理学的な異常所見や生殖への悪影響は見られなかった。
従って、これら器官の重量の変化は人間の健康に重大な影響を与えるとは見なされなかった。
ただし、今後行われるラットを使った長期研究では、卵巣および睾丸の変化に特に注意する必要がある。
マウスの生殖研究でF3世代に肋軟骨の融合が見られたが、コントロール群の数が少なすぎ、また実験に使われた特定のマウスの種でこの現象が自然に発生する率について十分な情報が得られなかったことから、有意と見なされなかった。
繰り返し行われた実験では、3世代いずれでも、このような異常は見られなかった。
毒性データでは、照射タマネギの摂取による健康への悪影響は示されていない。」(p.29)と、事実と違う報告がなされていた。

 1980年の専門家会議の10kGyまでの照射を認めるための重大な伏線になっており、この問題は重大である。
この会議に出席した松山晃氏(理化学研究所)や協議会のメンバーの責任は重い。
こうした問題を再確認することなく、専門家会議の意見を安全の根拠として、照射食品を推進することは大きな誤りである。

 また、1977年の報告書には、「今後の課題」として照射のためにできる新しい生成物の毒性を調べるようにとしているが、1980年にはこれを無視する形で安全であるという結論が導かれている。
ここでの科学的な問題指摘を放置したため、現在、照射生成物である2ードデシルシクロブタノンなど新しい問題を抱えることになっている。

 こうした問題に科学的に答えることが国民への責任でもあるが、原子力委員会は独自の実験をすることもなく、他国の評価で都合の良いものを援用するだけである。これでは国民の信頼を得られるものではない。



(2)放射線の照射により食品中に放射線分解生成物ができる。その中には、毒性のあるものがある。
また、未知の毒性をもつ物質が生成される可能性も否定できない。

    最近になって(1998年)、ドイツのカールスルーエ連邦栄養研究センターは、照射により2ードデシルシクロブタノンができることをつきとめ、それをラットに投与したところ、腸内細胞の遺伝子(DNA)を傷つけるという報告を出し、その後、強い発ガン促進作用があることも報告されている。
委員会はこうした事実に企業などの否定的論文を使い事実の否定に躍起になっているが、こうした重要問題は国内の公平な研究機関で追試すべきであるのにそれを放棄していることは重大な背信行為である。
今後、研究が進めば、毒性を示すものがさらに確認される可能性がある。



(3)試験研究の不十分性
    照射食品の研究者に偏りが見られ、中立的な研究者が照射食品の入手がしにくく、研究費が提供されないことから、照射食品の危険性確認に焦点をあてた試験研究はほとんど行われていないのが現状である。



(4)食品の安全性を確認する試験方法は確立していない。
   照射食品の安全性の試験として、照射線量を多く照射したものを給餌する動物実験が行われるが、この方法では安全性を確認することはできない。いわゆる、健全性試験は食物の安全性を証明できる方法ではない。



2.照射により、一定程度の栄養素が破壊される。スパイスは少量であるから栄養的に問題ないとしているが、照射食品には限界がなく、次々許可される恐れがある。こうなると、国民は栄養的に価値の低下したものを食べさせられる危険がある。

3.微生物学的に問題が多い。

(1)照射の線量の多寡により、一定程度の微生物等が死滅するが、突然変異を起こし生き残る菌もある。
さらにまた、放射線に抵抗性のある菌がおり、こうした菌の環境への放出が病気などを起こす恐れがあり、こうした追跡調査がきちんとされていない。

(2)アフラトキシンなどカビ毒を増やす危険が指摘されており、生じた毒素は、照射によって解毒されないため、消費者は危険にさらされる危険が高い。

4.実用的な検知法がない。

 その食品が照射されているかどうか、どのくらいの照射線量か、照射回数を検査する実用的な方法がない。
このことは、違法な照射や表示について行政的管理・監視ができない。

5.悪用・乱用の危険が回避できない。

 不衛生なものをその製造過程で改善する努力を怠り、照射による殺菌でごまかす不適切な使用が増える危険があり、それに対応できる法的・行政的手法がない。
照射ベビーフード事件(1978)をはじめ、イギリスでの細菌に汚染されたエビをオランダの照射施設で殺菌して再輸入した事件、日本に違法輸入されたマルハのホッキ貝やカナダから照射されたサケの輸入などの事例をみても、放射線照射の悪用・乱用を生む危険性が高い。

6.みかけは生のように見え、消費者をあざむく。

 照射食品は、煮たり焼いたりした食品よりも大きな変化を受けているのに、みかけは生のようにみえることがメリットと原子力委員会はいうが、これは食品製造業者や消費者にとってメリットではなく、偽和食品にほかならない。
 照射により、いつまでも腐らない食品も、本来の鮮度が失われており、消費者を欺く危険がある。

7.放射線被曝事故が起きる可能性がある。
 照射施設では数十万〜数百万キュリーの放射線源を取り扱う。稼動時、輸送時の放射能漏れ、作業者などが被曝する事故の可能性があり、士幌町農協の照射センターでもすでに被曝事故が起きている。

8.使用済み放射性物質をはじめ、施設に利用した放射能で汚染された物質など、放射性廃棄物の処理が問題となる。

9.世界で実際に大量に出回っているのかどうか、疑問がある。

 「照射食品を販売している国の販売量はどのくらいあるか。(推定量でない実際の販売量)」という質問主意書に対する答弁書(内閣衆質164第346号 06年6月22日付)では、「お尋ねについては、承知していない」という答弁がなされている。
これまでの原子力委員会の資料では、推定量で照射食品が大量にでまわっていると宣伝されてきた。
資料と今回の質問主意書に対する国会議員への回答には大きな違いがある。
資料と国会答弁書とを使い分ける原子力委員会の態度の不誠実さに消費者は怒りを覚える。

以上のように、食品照射は、人への食料としては安全性に疑問があり、実用的な検知法もなく、検疫時・表示など行政的管理にも困難があることは明らかです。
諸外国の正確な実態も把握できていない状況で世界中に流通しているかのようなムードを作り出し、照射食品を推進する原子力委員会の方針は間違っています。
人々の生命・健康に直結し、そしてまた、環境にも影響を及ぼす食品の取り扱いに、放射線を利用しようという発想それ自体が問われています。
多くの照射食品が照射臭により使い物にならないことも食べ物に使うべきではないことを象徴しています。
私たちは、これ以上、食品照射の実用化のために多額の税金を使うことにも反対します。
ただちに、食品照射の推進を中止するよう、重ねて申し入れます。

   2006年 7月

                 照射食品反対連絡会
                      連絡先 食品照射ネットワーク
                    (東京都新宿区下落合1−3−6−136) 電話03-5386-1009
                        賛同団体 30団体(14日現在その後38) 
              

以上

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