食品安全委員会は農産物など食品への放射線照射による影響評価を行うことを決定しました。アメリカではO157中毒以来、殺菌のために放射線照射を許可してきましたが、アメリカ市民からは流通業者に利益があるだけで、国民にはまったく利益がないとして反対運動が盛んです。業を煮やした政府は学校給食に照射食品を使うことにしました。しかし、各州の教育委員会は照射食品の使用を認めない方向で決定をくだしています。後は、照射ジャガイモを例外的に許可している日本の食品への照射許可を認めさせる圧力をかける作戦です。
最近のアメリカの動き
米国食品医薬品局(FDA)は1983年以来これまでに、牛肉、豚肉、家禽肉、卵、果物、野菜、香辛料、麦、発芽種子などの食品に対する照射を認可しており、現在も「インスタント食品」や貝類などの食品について照射認可を検討している。
一方2003年2月、照射牛挽肉の中にできる副産物である化学物質2-アルキルシクロブタノンが、この挽肉を食べた人で大腸癌(結腸癌)と細胞内DNA損傷のリスクを増加させる可能性がある、という研究結果がヨーロッパで新たに発表された。脂肪を含む食品が照射されると生成される2-アルキルシクロブタノンについては、それまでにも人体への悪影響を示唆する研究が1998年と2001年に発表されてきた。2003年の研究では、ラットで大腸癌の進行を促進させることが明らかになった。また、投与された2-アルキルシクロブタノンのうちごく少量が脂肪から検出されたが、それ以外のほとんどの量が検出できなかったため、体の他の部分への蓄積か、他の物質への変質が示唆されている。この研究報告を受けて、欧州議会は提案されていた照射対象食品の拡大案を否決している。
欧州の慎重な姿勢とは反対に、照射規模拡大を目指す米国農務省(USDA)は2003年5月29日、学校給食への照射牛挽肉の使用を認めた(牛挽肉への照射はすでに1997年に認可されている)。これにより、2004年1月から学校給食への照射牛肉の使用が可能になった。一般からのコメント募集期間に農務省に寄せられた5000以上のコメントの93%が、学校給食への照射肉導入に対する反対意見であったにもかかわらず、USDAは認可を強行し、子供の健康を心配する親の懸念よりも業界を優先する姿勢が浮き彫りになった。しかし、根本的な不安や保護者からの根強い反対などがあるため、2004年6月現在までに、実際に照射挽肉を学校給食用に購入した教育委員会はない。連邦政府の判断を疑問視するように、これまでに、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ワシントンDCなどすでに全米10地域の教育委員会が、学校給食で照射肉の使用を禁止する措置を取っている。また、米国の消費者運動団体パブリック・シティズンが全米56地域の教育委員会を対象に行った電話による聞き取り調査では、34地域の委員会が「照射牛肉を学校給食で使う予定はない」と回答し、4地域が「絶対に使わない」、13地域が「どうするかまだ決めてない」、5地域が無回答。照射牛肉を購入する、と回答した教育委員会はひとつもなかった。
さらにアメリカ上院、下院両議会はそれぞれ2004年6月23日と24日付で小児栄養法を通過させ、このなかで、「照射食品の学校給食への使用は、州および地域学校システムからの要請があってはじめて実現するものであり、米国農務省がこれを義務付けることはできない」、「連邦政府の補助金の対象にはできない」、そして「州および学校当局には、食品照射が食品の安全な取り扱いの代替となるものではないことを含めた、食品照射に関する事実に即した情報が提供されること」、そして、連邦学校給食プログラムに提供される照射食品には表示を義務付けることを定めている。
このように、USDAが照射牛肉の学校給食での使用を強行認可したとはいえ、安全性に関する議論が決着していないため、消費者や保護者の不安や反対が根強く、教育委員会もその安全性を疑問視する姿勢をとっているため、実際に照射牛肉を子供たちに食べさせている学校はひとつもないのが現状である。
そもそも病原性大腸菌O-157やサルモネラ菌、リステリア菌、カンピロバクター菌などの食中毒菌による食品の汚染は、屠場や食品加工現場の不衛生な管理状態が招いているものであり、食品を照射して食中毒菌を殺せばいいというのは、根本的な原因になんら対策を講じず、不適切な食品加工現場の現状を覆い隠すだけの対処療法にすぎない。賞味期限が延びるため、店頭に置かれる時間が長くなり、その間に取り扱いや管理上のミスが起きるリスクが高くなる、という見方もある。照射により「除菌」されていても、その後の取り扱いプロセスのなかで食品が新たに食中毒菌に汚染されるリスクは変わらない。
食品照射にはもともとはガンマ線が使われていたが、丸のままのチキンなど容積の大きいものの中まで照射するために長時間照射すると、食品が変色したり、焦げたような臭いがつくことから、現在では主に電子線とX線が使われるようになっている。この電子線照射機器の大手メーカーが、カリフォルニア州サンディエゴに本社を置くシュアビーム(Surebeam)社だった。しかし、シュアビーム社は2004年1月に倒産している。同社は、米国食品医薬品局(FDA)が牛挽肉への照射認可に続いて、ホットドッグやハム、ソーセージ、パテ、冷凍食品などの「インスタント食品」への照射も認可するものと見込んで方々から投資を募り、各地に新しい施設を建設してきた。しかし、当初2003年2月に予定されていたインスタント食品の照射認可は、7月に延期され、さらに10月に延期され、そして結局現段階でも認可は降りていない。このため、操業が困難になり、内部状況が徐々に露呈し、ここ数ヶ月のあいだに収益予測の甘さや不適切な内部監査、収益の誇張などにより投資家から次々と集団訴訟で訴えられている。
2003年11月、米国の2つの消費者団体が実施した調査で、店頭に並んでいる牛挽肉製品から2-アルキルシクロブタノンが検出された。1997年に認可されて以来、照射牛挽肉は全米5000ヶ所の食品販売店やレストランで販売されている。調査の対象になったのは、シュアビーム社の電子線照射機器で照射された生の牛挽肉(ワシントンDCとニューヨーク・シティの大手スーパーマーケットで購入)、フード・テクノロジー・サービス社のガンマ線照射機器で照射された冷凍牛挽肉パテ(ハリウッドのスーパーマーケットで購入)、シュアビーム社の電子線照射機器で照射された加熱調理された牛挽肉(ミネアポリスのハンバーガー・ショップで購入)で、3種類すべての挽肉から2-アルキルシクロブタノンが検出された。
IEEE Spectrum (2003/8, 2004/1/13), Public Citizen, Organic Consumers Association, New York Times (2003/10/8).
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