米国における放射線照射に関する最近の動向
〜高速増殖炉の再稼動と照射照射〜
 食品照射のために高速増殖炉を再稼動か?

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  米国エネルギー省内に、ワシントン州ハンフォード核貯留施設にある現在休止中の高速増殖炉、FFTF(Fast Flux Test Facility/高速流動試験施設)を再稼動させよう、との動きが出ています。これに対し、米国内の市民団体、パブリック・シティズン(注1)の危機的マス・エネルギー・プロジェクト代表の Wenonah Hauter氏が1999年10月27日、再稼動をしないよう求める証言を米国エネルギー省で行っています。

この施設は1980年に完成し、核燃料試験や物質への照射試験(研究)等を行う目的で1982年から1992年まで稼動していたもので、400メガワットのナトリウム冷却高速増殖炉です。しかし、研究目的のみの稼動では採算が見合わないこと、一般の商業利用価値や見通しがはっきりしないこと、などを理由に1993年から休止しています。建設にあたっては国家予算から約10億ドルが投資されていますが、同様の施設を現在の一般産業核安全基準や環境保護基準等に沿って建設した場合25億ドル以上かかるとみられています。

今回エネルギー省内で持ち上がっている案は、この増殖炉を食品照射や医療用の放射線源となるセシウム137やコバルト60の生産などのために再度稼動しよう、というものです。これに対し、パブリック・シティズンは、特に食品照射の需要の無さについて証言しており、照射食品の購買拒否の消費者意志を示す複数のアンケート調査や、照射の旨の表示を強く求める多数の意見(今年FDAへ約20,000通)などが示すように、自らの健康と食品の安全性に敏感になっている最近の消費者と、そうした現状を考慮せずに照射食品の認可を進めている業界や政府機関との価値観のズレなどを指摘しています。

<以下がパブリック・シティズン側のその他の主な論点>

高速増殖炉は、周辺環境および在住者への影響(健康・安全性)という面で大きな危険性を抱えた施設であり、これまで既に日本の「もんじゅ」事故(1995)の他に、フランス(1987/Superphenix)や米国内(1955/EBR-1、1966/Fermi)でも事故が起きている。英国、ドイツでは高速増殖炉の検討プログラムを既に取り止めている。
1993年に独立機関により行われた調査では、ハンフォードの原子炉の再稼動は採算的に見合わない、との結論が出されている。再稼動にかかる費用は2億8400万ドルであり、更にその後年間1億ドルずつの管理費(再大出力で)が毎年かかる。一方、炉の解体(廃炉)にかかる費用は7,000万ドルである。
また最近では、食品照射を推進する立場の食品業界でも、セシウム137やコバルト60などの放射性アイソトープを放射線源として使用することが必ずしも最良の方法ではない、との認識が出てきている。最近は、業界の多くは食品照射に電子線(electron beam/e-beam)を採用している。電子線の照射は、放射性アイソトープ照射と同様に危険な物質を生じさせはするが、少なくとも放射性物質の輸送と使用という危険は伴わず、従って使用に当たっての原子量委員会等による許可等も不要である。電子線照射では、電子加速装置により高速の電子流ビームを作り出す。このビームが微生物のDNA構造を分裂・混乱させ、増殖機能を止める。しかし同時に、ホルムアルデヒドやベンジンなどの化学物質も生成する。
米国のタイソン・フード(Tyson Food)は2000年春から照射鶏肉の販売を始めることを発表しているが、照射方法としてタイタン社(Titan)電子線照射機器を採用している。現在、照射食品自体が大きな議論の的となっており、放射性アイソトープを使用した場合、過敏になっている消費者の理解がより得られ難くなる、との判断からである。
1999年5月5日付のウォールストリートジャーナル紙によると、タイタン社は米国内の二つの巨大食肉加工処理企業と牛挽肉照射に関する独占契約を結んでいる。同社ではこの他にも多数の企業と同様の契約を結んでおり、実質米国内で加工販売される牛挽肉の約75%を同社が電子線照射処理することになる。
こうした現状からも、エネルギー省が主張しているような食品照射線源としてのセシウム137やコバルト60などの需要がないことは明らかである。食品照射分野での放射性アイソトープ生産の必要性は、高速増殖炉の再稼動の正当な理由には当たらない。
また、原子炉周辺の環境および居住人の健康への影響も心配される。ワシントン州ハンフォード核貯留施設にはセシウム及び水素のタンクが300以上あり、放射性廃棄物がコロンビア川へ向かって染み出している。公益団体による調査では、述べ4,440億ガロンの放射性化学物質(硝酸塩、三重水素、ウラニウム、ストロンチウム90、クロム、四塩化炭素、テクネチウム等)が施設の周辺土壌に染みだしており、億ガロン単位の廃水が直接コロンビア川に排出されてきた。施設一帯の地下水は使用できなくなっている。

<以上がパブリック・シティズンの施設稼働反対の主張の要旨です>

再稼動の必要性はあるのか?

米国エネルギー省では2000年秋までに前述のFFTF施設に関する最終的な「環境影響評価書」をまとめる、との予定を1999年8月に発表しています。今後、研究や開発度合いによる環境影響評価、医療用放射線源アイソトープの生産、NASA宇宙飛行機用燃料としてのプルトニウム238の生産、等について公開自由参加協議の形で様々な方面(政府、部族、州、自治体、等)からの意見などをも取り入れながら評価検討を行っていく、としています。

注1)Public Citizen: 1971年にラルフ・ネーダーによって設立された米国の非営利団体。エネルギー問題、食品照射、食糧問題等についての研究、ロビー活動などを積極的に続ける市民団体。

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