米国の食品医薬品局(FDA)は昨年の暮(1997年12月3日)病原性大腸菌O157などによる食中毒防止を口実に、肉への殺菌処理のために放射線照射を認可しました。認可を申請したのは照射処理会社のアイソメディックス社(ニュージャージー州)です。肉による食中毒を抑え、肉の保存期間を長くすることを目的にしています。コバルト60からでるガンマ線を使って、生鮮(チルド)肉に最大で4.5キログレイ、冷凍肉には7キログレイの放射線を照射することが認められました。許可された肉はウシ、ヒツジ、ブタ、ウマのです。内臓肉や、ミート製品(挽き肉やハンバーガーなど)にも照射が認められました。
アメリカはすでに殺菌や殺虫のために香辛料、野菜、果物、トリ肉に放射線照射が許可されています。しかし、消費者の反対や、食品産業界のしりごみで照射食品は普及していません。唯一例外的に香辛料の一部に照射されています。
アメリカでは1社だけですが、1992年からフードテクノロジー社がフロリダで照射プラント稼働しています。フロリダで採れるオレンジやグレープフルーツ、イチゴなどに照射して国内はもとより日本などへの輸出が考えられていました。しかし、プラントはほとんど動かない状態で、毎年赤字が続き採算がとれていません。今回、肉の照射が認可されれば、食品照射にも弾みがつくだろうと考えて、数年前から政府に肉への認可を積極的に働きかけてきていました。
今回、格好の口実として利用されたのが病原性大腸菌O−157です。日本で1996年に学校給食で大きな事故になりましたが、米国で1982年にオレゴン州とミシガン州でハンバーガーによるO−157の集団中毒が発生したのが最初の報告です。その後もO−157中毒は続発し、1997年7月にはアーカーンソー州の食肉加工会社ハドソン・フーズ社の冷凍ひき肉が原因でO−157の集団食中毒が発生し、1万トン以上のハンバーガーが回収され、5万頭もの肉牛が処分されました。
牛肉による食中毒への不安が高まっている今こそ、食品照射を普及させる絶好のチャンスとばかり、推進側はニューヨークタイムズ、ワシントンポスト、ウォールストリートリートジャーナルなどの全国的なメディアを動員して、照射こそ食中毒問題を解決する「クイック・アンド・イージー(早くて手軽)」な技術であると宣伝し、ついにFDAの認可を勝取ったようです。
放射線照射が食中毒を防止する唯一の解決策と思いますか。そもそもこうした食肉汚染は、1時間に300頭もの牛を屠殺するというハイスピード処理のために起きる汚染が原因があり、大腸の糞便や外の毛にいた菌が肉に付着するような現状を改善することがまず先です。米国の市民団体「フード&ウォーター」のマイケル・コルビー氏は「放射線による殺菌処理を認めることは、非衛生的な食肉処理の現状を容認することにつながる」と批判しています。また、ずさんな管理によって菌が増えてしまった肉(商品価値が下がった肉)をクリーンに見せるために使われるおそれがあります。
病原性大腸菌O-157は適正な取扱いと温度管理を行えば増殖を抑えることができます。62.8度で24秒処理すれば菌は死滅します。ですから、食べる前に加熱すれば食中毒は予防できます。たとえ照射されていても、冷蔵保存をしなければなりませんし、後から菌が付着する二次汚染がなくなるわけではありません。そうだとすると、胸部レントゲンの数百万倍もの放射線を当ててまで食肉を照射するメリットはありません。
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