健康情報研究センター 里見宏 Dr.P.H
10月から国産の新しいレプリコンワクチン(コスタイベ筋注用)が追加され、定期接種が始まっている。しかし、もうコロナは緊急事態の感染症ではなくなっている。日本の接種率も1割台に落ちている。
このレプリコンワクチンはコロナのmRNA遺伝子をヒトの細胞内で増幅させて抗体をつくるという新しいスタイルのワクチンだ。これに不安や問題を指摘する人がいるのも当然だろう。製造する明治製菓ファルマは「プラセボ対照無作為化多施設共同試験」などで効果と安全は確認できているという。
この根拠となるベトナムの「プラセボ対照無作為化多施設共同試験」はワクチンの効果を評価するには向かない方法だ。患者を対象にして治療薬や治療法などの効果を調べる方法で、一般的に「臨床試験」と呼ばれる。例えば、ガン患者を集め、無作為に2群に分け、抗がん剤と偽薬の投与を行い比較し効果や安全を調べる。人為的に薬を投与するので介入試験とも呼ばれる。これは一種の人体実験といえるので「実験疫学」とも呼ばれる。
一方、ワクチンのような予防薬も参加者を募り、2群に分け、ワクチン群と偽薬群(生理食塩水)に接種してワクチンの予防効果や安全を調べる。
ワクチンは患者でなく健康な一般人に協力してもらう。しかも、感染症の広がりを考えて参加者を県市町村など(母集団という)から無作為に抽出した人に連絡し、インフォームドコンセント(説明と同意)を行い、本人の自由意志で同意した人に参加してもらう。
こうした疫学研究は健康者を対象に行う場合を野外試験と呼び、患者を対象に行う場合臨床試験と呼ぶこともある。
ワクチンの場合、協力してくれた人の住む場所の人口密度や家族構成や職業、栄養状態など多くの条件が違っているので、できるだけマッチングするなどして条件を整える。これが大変難しい作業となる。こうしても最後まで制御できない因子は自然に放置することになる。こうしてワクチン群と偽薬群に分け、流行の起きるのを待つことになる。抗がん剤のように害作用があってもガンを抑える効果を優先する研究とは違う。
もう一つ、医師と協力者が接種したワクチンが本物か偽物か知っていると副作用などの判断に偏りが出るので、両者に薬の情報を与えずより正しい結果を求める。万が一の事故防止に全体を管理する責任者を置く「二重盲検法」が使われる。
ワクチンは健康人がかかるかどうかわからない感染に参加してもらうので、参加者に無用な害を起さないようにすることが大前提となる。それこそ参加者から死亡者などが出たら研究そのものが中止になる。こんな大変なことが起きないように参加者の健康状態は特に気を遣うことになる。
その上で、参加者の交絡因子(かく乱因子ともいう)をできるだけ除く工夫をする。
まず、かく乱因子になるものを調べ明確化する作業が必要となる。また、参加者の地域でどのくらいの流行が起きているかを把握する準備もする。これらは大変な作業になる。ところが、これを端折った臨床試験で、ワクチンの効果と安全の根拠としたと言われても科学的でなく説得力がない。
明治製菓ファルマはベトナムで行われた臨床試験で効果と安全が確かめられたとしている。しかし、ベトナムの臨床試験はベトナム成人20,871人を募ったとあるが、どのような方法で集めたか記載がない。この2万人が住んでいる地域の人口の密集度や実際の流行や生活情報など多くのかく乱因子が把握できていない。情報が足りない2万人なのだ。
この情報不足の集団を使ってワクチンの効果を調べるのが間違いである。後で2群を無作為に分けたとか協力者の性別や体重やBMIを記しているが、1万6千人を無作為に抽出しているのだから当たり前で意味がない。最初の条件は公開せず、あとの作業を細かく書いても科学的な根拠にはならない。
この臨床試験の矛盾は、試験期間中(3ヶ月)に死亡した人がワクチン群で5人、偽薬群で16人、合計21人が亡くなっていることだ。死因は接種に関係なく、コロナに感染した死亡がワクチン群に1人、偽薬群に9人いたと記述があり、11人の死亡については情報がない。こうした研究で数カ月の間に21人の参加者が亡くなっている。
研究者たちはワクチン接種群で1人の死亡、偽薬群は9人なので、ワクチンの効果があったとしている。ガン患者のガン治療薬を調べる発想でワクチンを扱っているからこうなる。管理された研究なのに3か月の間に21人も死亡したのが問題になる。死亡する危険を持つ人をチェックできず試験に組み込んだことになる。このベトナム試験は多くの研究者が協力して行われたとされるが、参加者の安全に配慮がまったく足りない研究と言われても仕方ない。
参加者に毎週電話で連絡し、研究日誌の記入を守っていることを確認したという。その時、健康状態などを聞いていたら、体調不良や死亡のような緊急事態を防げただろう。安全に試験を行う準備ができていないから死亡を防げないのだ。
もう一つ、ワクチンの疫学研究は大きい集団になるので莫大な資金とマンパワーが必要になる。この臨床試験の参加者にいくら協力金などを支払ったか記載がない。(ファイザー社はコロナワクチン試験に参加した人に105ドル(1万5千円前後)を支払っている)。ベトナムといえどもそれなりの金額が払われていると考えられる。なぜなら、この研究にはベトナム最大のビングループの子会社であるVinbiocare Biotechnology Joint Stock Companyと米国のワクチンを開発したArcturus Therapeutics Inc.が資金提供を行ったと記載されている。
また、この研究は25人の連名で発表されているが15名はワクチンに関係した企業に所属する社員研究者である。
日本人は企業の資金で、企業の社員研究者が参加して効果と安全を確認したと言われても納得しにくいのだ。日本は多くの薬害を経験した国で、これまでの経過で企業と研究者と役人が癒着して起きた薬害を経験している。国や明治製菓ファルマはこうした事情を知っているはずなので、それこそ臨床試験への疑問について丁寧に説明することだ。ワクチンへの信頼を回復することが最優先される。

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