抗体検査にともなうアンケート調査について

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健康情報研究センター 里見宏 Dr.P.H

東京都の新型コロナウイルス感染者はPCR検査で5,075人である。これは都民13,754,043人の0.037%となる。また感染者の致命率は0.49%(247/5075)である。これまで、PCR検査を要望する者がすべて検査を受けられたわけではない。また、PCR検査の感度が最高70%前後と言われており、30%近くが陰性となっている可能性もある。
また、感染しても症状が軽いもの、症状の出ない不顕性感染者が多いとも言われている。そこで、感染後に体内で増加する抗体を検査することで、感染者の実態を把握する必要がある。抗体検査を行う際、検査協力者に簡単な調査用紙を配布し、その回答を抗体検査と組み合わせて分析すると今後の行政の一助となる。この疫学的調査は再現性があるので、政策に生かせると考える。

目的: 抗体検査を使う疫学調査により、新型コロナの都における感染実態を推定する。また、調査により、感染率の推定、軽症感染、不顕正感染者の推定を行う。感染者の周囲の抗体検査を行うことで、感染のスピード、感染の広がり、感染の集積性を推定する。また、抗体検査結果に対し、判定結果の証明書等のニーズを知る。
調査方法は指定された区市町で、住民基本台帳から「無作為」に抽出された住民の抗体検査と質問への回答を分析する。
この結果を基に、すでに感染が判明している人に協力を仰ぎ、周囲の接触者の抗体検査と質問を行うことで、感染がどのように広がったか追跡する。この抗体検査を予算の許す範囲で繰り返すことでより精度の高い情報を得る。

方法1.東京都23区および都下から各区市町を選ぶ。下記の感染率が高い区と、その区の医師会の抗体検査に協力が得られる区を調査区とする。調査に選ばれた区市町の住民基本台帳から無作為に選んだ人に協力を要請する。
選ばれた区市町の医師会、医師に抗体検査と質問表の配布回収を依頼する。

感染者数が多い順
1.港区0.122%(309人/253940人)
2.新宿区0.116%(400人/3434940人)
3.中野区0.066%(223人/335813人)
4.世田谷区0.049%(457人/921708人)
5.杉並区0.043%(249人/575691人)
6.練馬区0.033%(244人/731360人)
7.大田区0.033%(241人/728437人)
国立市0.008%(6人/74647人)
八王子市0.007%(42人/576907人)
武蔵野市0.012%(17人/146333人)
羽村市0.009%(5人/55130人)
奥多摩町 0%(0/5037)
(人口は平成30年3月1日現在)

調査の手順.
都が抗体検査数(3,000人)を決め、区部と都下に分け、この人数の2倍から3倍の人数を無作為に抽出する。 検査をしないという人が出てくるので、次の人を用意しておくこと。 抗体検査に協力してもらえる人から、最低650人まで検査する。(95%信頼度を確保するために612人以上が必要になる)この612人から陽性者がでたら、この陽性者に協力してもらい、抗体検査を拡大するとより正確な情報が得られる。 この結果を入力し集計すると地域の感染者数が推定できる。 また、感染のスピード、感染の広がり方、学校や病院など集積しやすい場所がわかる。 専門的なテクニックも必要となるので、保健所で疫学調査の手技をもつ職員がいるところは担当として依頼する。いない場合は大学の衛生学や公衆衛生または統計を教えている人に相談するとよい。 地域の状況によって方法は変えてください。
注:抗体検査を要望する人はかなり多くなると考えられる。最初の検査依頼者をするとき人数の確定をすること。

方法2
既に感染がわかっている人に協力してもらい、感染者の密接者と考えられる周囲の人、居住地近隣の人、職場関係者、学校など関係する場所を洗い出し、612人から1000人までの抗体検査を実施する。その結果、抗体調査で新たに発見した感染者の接触者についても抗体検査を広げていく。許す範囲で、そのあと見つかった感染者も、前述の方法で抗体検査を行う。 そのとき、下記のアンケートを行う。この抗体検査とアンケートを行うことで感染率、感染スピード、感染範囲などが分析できる。ただし、感染率は高く出る危険を含む。

メモ: 感染者は地域にただ散らばっていない。ある地域に少しずつ感染を通じて繋がりながら存在するという特徴がある。無作為抽出した場合、感染者数が少ない場合があるので、感染者からさかのぼるという方法を用意した。この方法は感染者を多く見積もる可能性があるので、効率は良いが問題が残る。
また、病院などの一般の外来できたコロナではない患者の調査も考えられるが、これも何らかの病気を持ち、病院に来た患者であり検査者としては偏りを持つ。

追加資料:
採血は医師、看護師、保健師、臨床検査技師など有資格者が行う必要があります。本人が指導書に従って自分で行えば法にふれません。キットの良し悪しがあります。感度と特異度という目安があるので、選ぶときには注意をする必要があります。

「コロナウイルス感染状態を知るための質問用紙」(案)

責任部署を明記

 この抗体検査にともないいくつか質問させていただきます。抗体検査はこれまでに感染し、免疫抗体が出来ているかわかります。しかし、いつ頃感染したかわからない方、感染したときどのような変調があったかなどよくわかっていません。この検査と質問により、感染率の推定、軽症感染、不顕正感染者の推定を行うことができます。また。感染者の周囲の抗体検査を行うことで、感染のスピード、感染の広がり、感染の集積性を推定することができます。今回の調査で免疫抗体ができている少数の方に協力を仰ぎ、周囲の接触者の抗体検査と質問を行うかもしれません。この、調査で感染がどのように広がったか追跡することができます。こうした、結果を今後の予防に強力な対策を組み立てられるよう生かしていきます。

連絡先および質問にお答えください。追って結果をご連絡します。

氏名(            )
年齢(   歳)
性別( 1.女  2.男 )
住所(                             )
電話(               )
メール(               )
一緒に住む方は全員で何人ですか  (   人)
職業 (            )

問1.一月から現在までに、 息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状を経験しましたか。
1.経験した  2.経験していない  3.覚えていない

問2.一月から現在までに、37.5度以上の発熱を何回か経験しましたか。(    回)

問3.発熱した方は新型コロナにかかったと思いましたか。
1.思った  2.思わなかった 3.医師に相談した 4.PCR検査を受けた

問4.その後体調はもどりましたか。
1.もどった  2.長く調子が良くない  3.かわらない

問5.あなたの友達でコロナに感染した人はいますか。
1.いる(  人)    2.いない   3.知らない

問6.近所でコロナに感染した人がいるらしいと噂を聞いたことがありますか。
1.ある    2.ない    3.わからない

問7.あなたの家族も含めて、1メートル以内に近づいて話したりする友達・知人は何人くらいいますか。
(    人)

問8.抗体検査の結果は陽性でも陰性でも証明書を出してほしいですか。
1.ほしい   2.いらない   3.わからない

問9.あなたの周りで抗体検査をして欲しいと思っている人がいますか。
1.いる。(  )人くらい  2.いない  3.わからない

問10.あなたは行政の予防対策にどのくらい協力したと思いますか。
1.よく守った  2.まあまあ守った  3.ときどき守れなかった  4.守れなかった 5.判断できない

問11.再度、自粛要請があったときどうしますか。
1.協力する  2.条件による  3.協力できない  4. わからない

ご意見があればお書きください。(                  )

ありがとうございました。


和歌山県は疫学的初期対応で終息 (疫学手法が有効であった)

2月12日、和歌山県済生会有田病院の医師が新型コロナ感染との情報。
2月13日に患者発生の発表。直ちに以下の決定。
1.外来の中止、2.退院中止、3.接触者外来の設置、4.病院関係者の全員のPCR検査を開始(初期なのでPCR検査でOK、同じフロアーの同僚医師看護師、入院患者、家族、他の階の医師、看護師、患者、出入り業者などの順序で検査。トリアージ順)。
県は病院関係者や中国人観光者の立ち入り先調査開始。
2月15日、別の医師と妻、入院患者の感染判明。院内感染。
2月18日、全員感染症対応病院へ転院
2月20日、大阪府にPCR検査協力依頼。
2月25日、病院関係者474人検査終了。
3月 4日、有田病院安全宣言。(3週間で802人を検査)

●新宿と立川でクリニックを運営する久住英二医師が202人の抗体検査を行い、一般人は4.8%、医療従事者は9.1%の抗体が上がっていた。換算すると都民の62万人が感染していることになる。
●神戸市立医療センター中央市民病院は外来患者1,000人の採血済み血液の抗体検査で、3.3%が抗体を持っていたと発表した。4月初めに市民約4万1千人に感染歴があったことになる。神戸市では272人が感染者数として報告されている。
●慶応義塾大学病院は、新型コロナウイルス以外の患者をPCR検査したところ、約6%が陽性だったと発表した。慶応大学病院によると、4月19日までの1週間に、新型コロナウイルス以外の病気で新たに入院する患者や手術を受ける前の患者にPCR検査を行ったところ、67人中、5.97%にあたる4人が陽性だった。慶応大学病院は、「病院外や市中で感染したと考えられ、地域での感染の状況を反映している可能性がある」として、今後も、病院の費用で、新規入院患者や全身麻酔手術を受ける患者全員のPCR検査を行うと発表している。
●米国での抗体検査(1)
米国、南カリフォルニア大学の研究チームはロサンゼルス郡の住民を無作為に863人選び抗体検査を行った。その結果、住民の約2.8%から5.6%が陽性で、推定すると22万人から44万人がコロナウイルスに感染していることになる。これまで、PCR検査をしてきた医療機関はおよそ8,000人が感染していると推定してきた。実際の感染者は多い。
●米国での抗体検査(2)
米国スタンフォード大学のグループは4月3日と4日にカリフォルニアのサンタクララ郡の住人3,330人(人口178万人)の抗体を測定し、その結果を発表した。感染して抗体の上がった人が2.5%から4.2%いた。人口から推定すると43,000から81,000人ほどが感染されていたことになるという。これは、これまで患者(約950人)と診断された人の50?85倍の感染者がいたことになる。致命率は0.1?0.2%であった。日本も抗体検査をすれば感染者の実体が判る。地域や年齢などから対策もどこに重点を置けばよいか判る。致命率も大幅に下がるだろう。
●米国ニューヨーク州は4月23日、新型コロナウイルスの抗体検査を3千人に実施した。結果は13.9%が陽性だった。感染が深刻なNY市の陽性率は特に高く、21.2%だった。単純計算すると州内では約270万人、市内では約180万人が感染を経験したことになる。これまで確認された感染者の10倍超にあたる可能性がある。
●ニューヨークのクオモ州知事は9日、公共交通機関の職員1,300人あまりを対象に感染歴を調べる抗体検査を実施したところ、陽性は14.2%で19.9%だった一般市民よりも低かったと発表しました。

東京都の感染者数の変化

2020年1月23日から5月18日(111日間)

標準偏差 62.3
1日平均感染者数 43人
東京都の感染率はPCR検査で5,075人、都民13,754,043人の0.037%となる。感染者の致命率は0.49%(247/5075)である。
国全体の感染率 感染者17,176人/124,218,285=0.000138,0.0138%
死亡797人/17,176人=0.0464
致命率4.64%

感染症と免疫
安全のため体内への異物(病原体や有害物質)の侵入を防ぐシステムが免疫の本質。(抗原と抗体)
免疫機能が過剰に働いたり機能の破綻をきたすとアレルギー疾患や自己免疫疾患が起こる。
免疫は自然免疫系と獲得免疫系がある。
「食物」はこの免疫系に許容された物質で、人間が生きていくために必要な物質を含むものである。しかし、この許容の幅は個体差があり敏感な人はアレルギー症状が出る。

免疫の仕組み
●自然抵抗性:貪食細胞(好中球、マクロファージは非特異的に働く=無差別に働く)
●体液性免疫:抗体による特異的な防御反応(主に細菌)IgGの産生。しかし、細胞内で増殖するウイルスには抗体が細胞内に入れないため効果がない。血中で働く。(インフルエンザワクチン)
●細胞性免疫:細胞内に入ったウイルスは主にキラーT細胞(リンパ球)が細胞ごと破壊する免疫防御反応。

抗体の主な働き
●中和作用:毒素を中和します。
●オプソニン効果:抗原と結合することで、食細胞に食べられやすくする。
●溶菌現象:細菌に結合して溶かす。
●凝集作用など
新感染症法の欠陥
1999年、伝染病予防法を廃止し、感染症法になった。厚労省は「これからは集団予防でなく、個人の感染予防と良質な医療があるので予防が出来る」とした。また、流行が起きてから予防するのだはなく、「感染症発生動向調査」と「基本指針と予防計画」と「特定感染症予防指針」の3本柱で事前に予防できるとしました。これを「事前対応型行政」と命名した。

●保健所の弱体化とコロナ流行
1994年に制定された地域保健法で848ヶ所あった保健所は2019年(平成31年)に472ヶ所にまで減少した。住民ニーズに応える市町村保健センターは2,456ヶ所ある。

下記表はクラボウの抗体検査キットの試験結果 国立感染症研究所資料



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