ドコサヘキサエン酸(DHA)・エイコサペンタエン酸(EPA)(下)
アレルギーの子どもたちが増えて社会問題になっています。こうしたアレルギー患者の血液を調べると、いろいろな成分が見つかります。ヒスタミンはよく知られたアレルギー成分です。ジンマシンのところにはヒスタミンがたくさんありますから、抗ヒスタミン剤を塗ります。当然、喘息発作のときも、患者の血液にはヒスタミンが増えます。ところが、患者の血液に微量だがヒスタミンより5千から1万倍も強い成分が見つかりました。しかし、微量すぎて構造などがわからないのです。ただ、臓器を強烈に収縮させることから、SRS−Aと名付けられました。
鎮痛解熱剤のアスピリンを飲むと喘息の発作を起こす人がたまにいます。アスピリン喘息と呼ばれています。しかし、なぜ喘息が起きるのかはわかっていませんでした。それどころかよく飲まれている薬なのに、なぜ痛みや熱に効くのかすらわかっていなかったのです。これがプロスタグランジン(PG)を抑えるからだとわかったのはほんの最近のことなのです。
前回、痛みや熱を起こす成分が肉の不飽和脂肪酸から作られるプロスタグランジン(PG)であることを書きました。アスピリンは脂肪酸からPGを作りだす酵素の働きを止めてしまうのです。ですからアスピリンを飲むとPGはできないので、痛みや熱が出ないのです。ところがたくさんいる人の中には、アスピリンでPGの酵素を止めると、別の酵素(リポキシゲナーゼ)が脂肪酸に働く人がいるのです。この酵素はロイコトリエンと呼ばれる成分を作りだします。このロイコトリエンが喘息を起こすのです。
1983年、スゥエーデンのサミュエルソン教授は喘息患者の血液に見つかるSRS−Aとロイコトリエンが同じものであることを突き止めた人です。このロイコトリエンは陸上に住む動物由来の不飽和脂肪酸(アラキドン酸)です。実際に喘息患者を調べると喘息がない人に比べてロイコトリエンを造る能力が高いこともわかっています。
肉の不飽和脂肪酸でなく、魚介の不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)から造られるロイコトリエンは喘息への作用がほとんどないのです。それなら、食事を魚中心に替えたら喘息はよくなるのではないかと思いませんか。 アメリカのリー博士らは、健康な人に毎日EPAとDHAをそれぞれ3.2gと2.2g与えた結果、ロイコトリエンのできる量が減ったと報告しています。
そこで私は、北海道から沖縄まで、海の近くに住む小学生と山側に住む小学生、約8千名の食事と喘息との関係を調査しました。その結果、思った通りEPAやDHAを多く含むイワシやサンマ、サバなどを毎日食べている人から食べない人まで5段階に分けて比較すると、良く食べている子どもほど喘息が少なくなっていたのです。話がうますぎるよ、空気の良い所や悪い所などの条件の違いによってたまたまそうなっただけだよと思われる方も多いと思いますが、そんな条件の違いを調整しながら調査するのが疫学です。外国の報告でも喘息が少ない報告がでています。最近では、病院でも喘息などのアレルギー患者にこのEPAなどを投与したら効きめがあったという報告がでています。
喘息の発作を起こしている患者に点滴を始めたら症状が軽くなるどころか、どんどん悪くなる例が報告されました。いろいろ調べられた結果、点滴に使われている保存料(安息香酸とかパラベンといわれる仲間)が原因ということがわかりました。その後、食品や薬の着色料でも同じ事故が起きることがわかりました。アスピリンで喘息を起こす人たちはこの保存料や着色料で喘息を起こす危険性が高いことがわかっています。