自然放射線と福島原発事故の放射線は毒性が違う

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健康情報研究センター 里見宏


◆放射線にはどんな毒性があるか
@放射線は種類によって毒性が違う。
A放射線は遺伝子に直接変異を起す。遺伝子に傷がつくとガンや免疫系など人の命をおびやかす。
B精子や卵子の遺伝子に突然変異が起きると遺伝子疾患やガン、さまざまな健康障害を子孫に残す危険が高くなる。
C放射線の毒性でなく、その化学物質のもつ毒性もある。ウランだけ0.2μg/kg体重/日の耐容1日摂取量がある。セシウムなど他の放射性物質は毒性について調べられていない。
D放射線をあびることで細胞の中に新しい化学物質ができる。例えば脂肪酸は発がん性のあるシクロブタノンに変わる。また、発がん性のある活性酸素もできる。

◆自然放射線と福島原発事故の放射線は同じでない
「放射性物質は自然界にもある」「体内には6000ベクレルの放射性物質がある」「セシウムのような人工的な放射性物質も自然界にある放射性物質も影響は同じ」と、国や原発推進派はいろいろな説明をします。
「体内に6000ベクレルもあるなら、食品の基準値500ベクレルを100ベクレルまで厳しくすれば安全じゃないか」と思ってしまいます。
自然界にある放射線の影響を強調されると、福島原発の放射性物質も問題ないと感じてきます。ここに落とし穴があります。
放射線で品種改良をする研究をしてきた鵜飼保雄氏(元東大農学部教授)は「自然突然変異と放射線などによって誘発される人為突然変異とは質的に同じであるとよく書かれているが、それは正確でない。自然突然変異と人為突然変異は遺伝的に異なる。人為突然変異がもっぱら遺伝的に優性から劣性の方向に起こるのに対して、自然突然変異は優性から劣性にだけでなく、劣性から優性へ生じることも多い。これは自然突然変異と人為突然変異は生じるメカニズムが異なるためである。かつて自然突然変異は、人為突然変異と同様に、自然界にある放射線、つまり宇宙線や地表からの放射線によって生じると考えられたことがあったが、現在では自然放射線だけでは自然突然変異の10パーセントしか説明できないことがわかっている。最近では、自然突然変異は細胞内で染色体間を渡り歩くDNAであるトランスポゾンによって主に生じるという説が有力である」としています。

   また、琉球大名誉教授の矢ケ崎克馬氏は「海水中にもウラン238が5ppmある(1トンのうち5グラム)。でも、長年の風化で原子がバラバラに存在、海水を飲んだときもα線が出てくる場所はバラバラに離れているので、分子切断の場所が相互作用しない。一方、人工的な放射性物質は、必ず固まって微粒子になる。直径1マイクロメートルの微粒子の中に1兆個の原子が含まれる。体に入ったら、1つの場所から次々とα線を放出。直接打撃を受けなかった隣の細胞まで変性させる。」と指摘しています。

   この二人の指摘は大変重要です。自然界の放射線と福島の放射線は人への毒性メカニズムが違うのです。もう一つ、矢ケ崎氏は体内に入った放射性物質について「内部被曝では、ヨウ素131で、1000万分の1グラム程度のわずかな量を取り入れても、たった8日間で計算しても、1Sv(マイクロでもミリでもなく、ただのシーベルト)という巨大な放射線量がある。セシウム137が30年間かかって出す放射線量をヨウ素は8日間で出してしまう。
 」と内部被曝は膨大な被曝になると警告しています。

◆6代先まで考える
 内部被曝の議論が混乱する一つの原因は、100mSv以下なら「ガン」にならないという主張です。しかし、放射線影響研究所の広島・長崎の被爆者調査は、35mSvでガンが統計的有意差を持って増えると報告しています。もともと、放射線の害はいろいろあるのですから「ガン」だけで放射線の害をくくるのも誤りです。細胞や遺伝子が受けた傷はどのくらいの害を人間に与えるのか? しかし、内部被曝の実態調査は遅々として進んでいません。
生殖細胞の遺伝子にたまった劣性の突然変異は5−6代先の子孫まで見ないといけないという遺伝学者たちの問題提起を真摯に聞くべきです。福島の放射性物質には、新しい毒性学の概念が必要です。毒性研究を怠り安全神話を作り上げてきた原発推進派ではなく、広く研究者を求めるときです。最後に、放射能の問題に情報コントロールという上から目線を感じます。国と東京電力に事実をすべて公開させる運動が必要です。事実が公表されれば、国民は自分たちで方向を決めていくでしょう。最後に、放射性物質が含まれる食品は食べないということです。

追加資料
● 自然放射線地域住民の疫学と染色体調査
  中国の広州省陽江市で年平均線量が6.37mSv(外部2.1 mSv、内部4.27 mSvと推定した)の住民125,079人を1979年から1998年まで追跡し、12,444人が死亡、うちガンは1,202であった。陽江市の隣の恩平県(077mSv、1.65mSvと推定)と比較ガンは増えていない。ガンになっても治療して生きている方もいるので、生存している人も調べないと調査が偏ってしまうのですが、報告書は「ガンの治療に要する費用が、殆どの農民にとって高額すぎ、結果としてガン罹患が死亡に?がるケースが大部分を占めている(Zou,et al.,2005)」とガンになれば皆死んでしまうからというあまりにも非科学的な報告書しています。
 ここで問題は染色体異常で被ばく地8家族22人と比較地5家族17人を調べ、(胸部エックス以外受けていない人)比較したところ約3倍の染色体異常があったという報告です。(4.44/1000/100年、対照地区は1.37/1000/100年であった)。この染色体と言う遺伝子の塊に傷がついているのです。これは中国だけでなくブラジルでも異常が報告されています。この放射線は自然界にあるが、カリウム40のような放射性物質と違うということです。

●1ミリシーベルト基準は危険(ICRPの我慢線量の決め方)
 安全性が高いとされる職業は平均年死亡率が1万分の1を超えないとされる。一般人については一生涯被曝する線量を考え死亡率が1万分の1を超えないとし、線量限度を1ミリシーベルトとしています。これが我慢線量の出し方です。この我慢量が安全量だと思っている人が多いのです。福島原発事故で出た放射線で1万に1人以内なら死んでもよいとする基準がおかしいのです。

引用文献
鵜飼保雄著「植物が語る放射線の表と裏」 培風館 3200円
矢ケ崎克馬氏インタビーhttp://iwj.co.jp/

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