フッ素による集団予防は犯罪的である
健康情報研究センター代表
里見 宏
古典的公衆衛生からの脱却を
日本では1879年(明治12年)に海港虎列刺病(コレラ)伝染病予防規則が、そして1897年(明治30年)に伝染病予防法ができました。感染のメカニズムすらわからない時代ですから、名医がいくら頑張っても防ぐことができなかったのです。
こうした状況の中で法律が作られたのです。確認しておきますが、法律に病気を治す力はありません。主たる目的は患者の隔離でした。目の前から患者がいなくなることで安心したのです。その安心のために患者の人権侵害に目をつぶったのです。伝染病予防法は病気になった弱者を社会から隔離するという大きな人権侵害のうえに成立していました。重大な人権侵害ですから、一般人が行えば犯罪です。命令した人は当然、恨みをかうことになります。この権力者を守るためにも法律は必要でした。多くの患者が病気ゆえの人権侵害を正当化する法律の前に無念の思いを飲み込まざるを得なかったのです。 それから100年、予防という名のもとに行われてきた方法の非科学性、非人道性、大きな人権侵害が明らかになり、その是正を迫られることになったのです。
感染症法の成立
1997年、厚生労働省はこれまでの人権侵害を反省し「新しい時代の感染症対策について」という自己決定権を中心とする考え方を公表しました。集団による予防を、感染者が良質かつ適切な医療の提供を受け、早期に社会に復帰できるようにするという当たり前な考え方に方針を変えたのです。この考え方を基に、1999年、「感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」が施行されたのです。患者への人権配慮は無論ですが、集団予防に対しても、まず、本人が決定権を持つという当たり前のことになったのです。感染症法の趣旨を受け、学校からインフルエンザの予防接種やBCGやツベルクリンなど多くの集団医療行為がなくなっていったのです。 虫歯も感染症ですが、寿命を縮めるということもありませんから、感染症法で定める感染症にもなっていません(感染症法は感染力や重篤性に基づいて1類から4類の感染症を定めている)。なのに、時代に逆行して集団予防に固執しているのです。
自己決定権
自己決定権というと難しくなりますが、自分で決めていいのです。しかし、そう言われても情報がないのですから不安になるのは当然です。この不安を解消する責任が推進する側にあるのです。 推進する側から「効果がどのくらいあるのか」「害作用はどのくらいわかっているのか」「自分が感染する確立がどのくらいあるのか」「感染して発病する確率はどのくらいあるのか」「どのくらいの時間的余裕があるのか」「その後の新しい情報の提供がすみやかにされるか」「そのとき体制はすぐ反応し対応できるのか」「予防してもかかる確率はどのくらいあるのか」などの正しい情報提供があることが必要条件となります。病気(虫歯)になってもかまわないという選択もあります。こうした条件の下で「自分が得る利益と危険を天秤にかける」のです。 こうした手続きがされたときの決定が尊重されるのです。する側も「十分な説明と同意(インフォームド・コンセント)」が取れたことになります。もちろんこの決定に際し、他からの強制力が働くことがあってはならないのです。強制力というのは直接的なものばかりでなく、学校や役所などの権威を使った巧妙なやり方も当然含まれます。
フッ素による虫歯予防は?
大きく法律が変わったにもかかわらず、古い伝染病予防法の影響から抜けきらないまま続けられているのがフッ素による集団予防なのです。
新潟県のフッ素洗口の手引きに「確実なむし歯予防効果と高い安全性、 さらに簡便性と経済性を備え、 学校等において容易に集団応用できるという優れた公衆衛生特性を有しており、 一般的に公衆衛生的予防法として分類されています。」と集団で子どもを扱うことを正当化していますが、これが問題なのです。予防効果は言われていたほど高くなく、安全性にも重大な問題がでてきているからです。新潟県は学校を使って簡単で安あがりであることを強調していますが、これは県の事情を子どもの利益であるかのように錯覚させるごまかしなのです。本当に必要なら簡単でなくても、お金がかかってもやるのです。簡便で経済的などいう二次的理由でやるような公衆衛生活動は本来集団でやる緊急性も必要性もないのです。
もうひとつ「希望しない人については、 フッ素洗口液を使わないで真水で洗口するなどの配慮をする必要があります。」と手引きは書いています。真水で洗口させるという発想が人間を集団で扱うという古典的な考えから脱皮できていない証です。できない子がいじめられてはいけないので真水でうがいをさせているのだと言いますが、これは自分たちが推進しているフッ素が人権侵害を生む構造を持っている証拠なのです。
歯科医学の遅れ
感染症法は予防と治療のレベルの高さの上に成立しています。多くの感染症が医学の進歩により予防・治療が可能になってきているのに、歯科は何十年もの間フッ素以外に予防法を開発できていないという事実があります。 なぜ遅れたのかというと、厚労省も「わが国における歯科保健活動は、古くから日本歯科医師会などの民間団体によって進められてきた。」というように研究体制ができていないという問題があります。歯科は開業医が多い集団であることが不幸でした。臨床中心であり、公衆衛生という場で働く経験がほとんどなかったからです。 公衆衛生の柱のひとつである疫学部門を歯科も作るべきだという働きかけにも人材がいないという状態だったのです。これは虫歯予防にとっては大変不幸なことでした。自らその有効性と安全性、緊急性と必要性を検討することができなかったからです。推進派は「フッ化物洗口法は、わが国の厚生行政およびWHOによって公認されているものである」という、すでにほころんでいる権威をふりかざすだけなのです。
新しい情報への対応
05年、米国でフッ素の摂取量が若い男子に骨肉腫を増やすという研究が隠匿されていたことが明らかになりました。動物実験で骨肉腫が知られ、その延長線上で人への危険を示すデータが出てきたことは重要です。これを再調査もなく勝手に解釈し、フッ素を推進することは加害的で、犯罪的といってよいでしょう。その責任は追及されることになるでしょう。 また、最近の動きは子どものためというより、フッ素を利用して自治体に介入することで政治的な発言力を増すという狙いが見えます。しかし、これは歯科医師全体の信頼性を損ない、国民にとっても不幸なことです。
さとみ ひろし・一九四七年生まれ。健康情報研究センター代表。公衆衛生学博士。
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