今年から小学一年生と中学一年生で行っていたツベルクリン反応とBCGの再接種がなくなり、かわりに全学年に丸秘のついた「結核問診票(表1)」が配られました。厚労省はこれまでの学校での集団健診は必要ないといったのに、学校はやりたいのです。やめた理由はツベルクリン検査をしても発見される患者が少なくなってしまったことと、小一と中一のBCG再接種は結核でないのに強陽性を作りだし不必要な精密検査や予防投薬を多くしてしまうからです。
厚労省は学校に「定期健診の廃止により、結核の発見契機を一つ減じてしまうことにつながることも危惧されるが、(保健所の)接触者健診の充実等を充実させることで対応するべきであり、一律的な健診を維持すべきではない。(中略)学校関係者について言えば、高蔓延地域から入国3年以内の者への健診体制の検討、教員等への健診受診の徹底、結核罹患を疑わせる症状を有する者に対して医療機関受診を推奨する等の早期発見の仕組みの検討を行う必要がある。ツベルクリン反応検査成績やBCG接種歴に関する記録は保存してほしい」と要望しました。ところが学校はそれ以上に立ち入った問診票を作り、全学年に拡大して調査することにしたのです。
(註:二〇〇〇年、中一の生徒(約一二〇万人)で患者は二一人でした。その内、ツベルクリン反応と検診で見つかった生徒は一三人)
学校での問診票の問題点
この方向転換でツベルクリン検査とBCGの再接種をしてきた文部科学省は大きな予算を使ってきたのですから、これを止めてしまうと予算が削られます。いわゆる利権が無くなることを意味しています(ムダをやめるのはいいのですが、お金を貰っていた側はたいへん不都合なのです)。そこで、結核は大変な病気ですと、量の問題(患者がほとんどいなくなった)を無視して質(人にうつしたり、学校を休まないといけない)を強調して効果があるかどうかわからない質問を行うことにしたわけです。こうした、効果や根拠が明確でないことがやられるときは形式だけは文句をつけられないように準備されます。今回は結核対策委員会という組織です。
(註:教育委員会は結核対策委員会の検討を踏まえ、各学校を指導するとなっています。結核対策委員会というのは保健所長、結核の専門家(2人)、学校医(1人)、医師会の代表(1ー2人)、学校長の代表、養護教諭の代表で構成されます)
学校で配布される質問票の内容は「1 お子さんは、いままでに結核性の病気にかかったことがありますか」「2 お子さんは、いままでに結核に感染したとして予防のお薬を飲んだことがありますか」「3 お子さんが生まれてから、家族や同居人で結核にかかった人がいますか」「4 過去3年以内に通算して半年以上、外国に住んでいたことがありますか」「4ー1それはどこの国ですか」「5 この2週間以上『せき』『たん』が続いていますか。「5ー1 『せき』『たん』で医療機関において、治療や検査を受けていますか」「5ー2 喘息、ぜんそく性気管支炎などといわれていますか」「6 BCGの接種(スタンプ式予防接種)をうけたことがありますか」「6ー1 それはどうしてですか」です。
1、2、3、と5の質問に「はい」と答えた人、質問4で海外に住んでいた人で表1の国にいた人、6でBCGを受けたことのない人は校医の診察を受けた上で結核対策委員会にまわされます。結核対策委員会が必要と判断した生徒でBCGを受けたことのない生徒はツベルクリン反応検査を受けます。BCGを受けた生徒はエックス線撮影となります。でも、本当にうまくいくのでしょうか。質問の1、2、3は既に保健所が把握している人達です。もう予防体制が整っているのです。それを今更学校が改めて知ってどうしようというのでしょうか。過剰健診がまた増えるでしょう。
学校は調査結果を整理集計して対策委員会に提出します。教員(特に養護教諭)はこの生徒の家には結核患者がいるとか、いないとか、危ない国に行っていたのだなどプライバシーに関係した情報を知る立場にあります。プライバシーの保護に十分配慮することと言われても、教育の現場で病気のことを扱うことに無理があります。学校でツベルクリン反応やBCGを止めた意味が無くなるのです。結核の患者がいたことを知られたくない家もたくさんあるでしょう。いまさら、学校が子どものためだと称して行う調査はプライバシーの侵害になる恐れがあります。学校で調査しなければならない緊急性や必要性がないのです。現に、「予防投薬中の子どもが来ない」と医師から言われた養護教諭は「どうしたらよいか?」と悩んでいるのです。学校が責任を持って子どもを病院に行かせたり、薬を飲んだかどうかチェックしろと言われてもできないというのです。学校で健診するとこうしたトラブルが多数てくると考えられます。
(註:過剰な検査への反省。小学1年生で一一七万人中一一四四五人、中1で一二八万人中六九一三三人がツベルクリン反応で強陽性とされた。エックス線撮影にまわされた生徒は、小一で一〇四七六人、中一で七二五六六。中一の結核患者は一三人)
(註:予防投薬ですが、投薬も医者の考え方で飲ます場合が増えたり減ったりします。問題は感染していないのに薬を飲まされた生徒です。アメリカでも予防投薬するイソニコチン酸ヒドラジド(INH)は二五ー八八%の効果があるが、肝臓への毒作用があり、〇・三ー二・三%の肝炎があると報告されています。これは一〇から一四歳で結核菌に感染する確率が〇・〇〇一二%ですから、投薬で肝炎を起こす確率の方がズーっと高くなります。医者が気をつけてくれるから大丈夫といっても、菌がいないのに飲まされる危険があります)
表1 問4の海外で結核の蔓延があり感染のおそれのある国
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アフリカ全域、アフガニスタン、イラク共和国、インド、インドネシア共和国、エクアドル共和国、ガイアナ協同共和国、カザフスタン共和国、カンボジア王国、キルギス共和国、タイ王国、朝鮮民主主義人民共和国、ドミニカ国、ネパール王国、ハイチ共和国、パキスタン、イランイスラム共和国、パプアニューギニア、バングラデシュ人民共和国、フィリピン共和国、ブータン王国、ベトナム社会主義共和国、ペルー共和国、ボリビア共和国、マカオ、ミヤンマー連邦、モロッコ王国、モンゴル国、ラオス人民民主共和国、ラトビア共和国、ルーマニア
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