菌やウイルスなら驚きません。でも、栄養になるはずのタンパク質がうつるのですからビックリします。普通、タンパク質は胃や腸でアミノ酸にまで消化されて吸収されます。ところが狂牛病の牛がもっているタンパク(異常プリオン)は消化されずに腸まで行きます。そして、めったにないことですがそのままの形で腸から吸収されるのです。この吸収された異常プリオンはゆっくり時間をかけながらまわりにある正常なプリオンを自分と同じ異常プリオンに変えていくのです。このプリオンと呼ばれるタンパクは生き物がみんな持っているタンパクです。正常と異常の差は立体構造が違っているのです。説明しにくいのですが、生卵のしろみは透明ですが、ちょっと熱をかけてやると白く不透明になります。熱でタンパク質の立体構造が変わった状態なのです。でも、タンパク質の成分はまったく同じなのです。特にプリオンが多い脳や神経がに異常プリオンが増えてくると症状がでてきます。症状は、まず記憶力や計算能力が落ちてきて、物がゆがんで見えたり、異常行動をとる時期を第1期といいます。第2期は急激に進む重篤な痴呆です。食事もできなくなります。そして、動けなくなり、しゃべらなくなる第3期をむかえます。1年から1年半で亡くなるのです。脳を解剖すると小さく萎縮し、クール斑という模様が見られるのでプリオン病(クロイツフェルト・ヤコブ病 略してCJDという)とわかります。いろいろな病型がありますが、狂牛病からうつったと考えられるものを変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(変異型CJD)といいます。交通事故で脳を手術したときに使うヒト乾燥硬膜やヒト成長ホルモンで起きた場合は医原性CJDと呼んでいます。
今指摘されている問題は、国が危険部位としている脳、脊髄、眼、回腸の4部位以外に末梢神経と骨髄も感染性があることです。末梢神経というのは身体中を走っている神経です。肉を食べれば末梢神経を食べることになるのですから心配になります。いえ、すでに食べてしまっていますからつらいのです。私が特に心配するのは子どもです。子どもは大人と違ってタンパクを吸収しやすいからです。例えば、赤ちゃんはお母さんの初乳に含まれる抗体(タンパク)をそのまま吸収し自分の免疫として使っています。子どもがアレルギーを起こしやすいのもタンパクを吸収するメカニズムと関係があると思われます。ですから、異常プリオンを腸から吸収する可能性は若い人ほど高いと考えられます。狂牛病からうつったとされる変異型CJDの患者が若いのもうなずけます。
もうひとつ心配されているのは潜伏期が長い場合です。潜伏期中の人が病院に行って胃カメラの検査を受けたり、献血したりすると異常プリオンを他の人にうつす機会も多くなるからです。日本でも狂牛病がでている国に半年以上滞在した人は献血できません。血液が異常プリオンを運ぶ可能性があるからです。一番心配なのは狂牛病の内臓や脳が入った肉骨粉を食べさせられた豚や羊など他の家畜に異常プリオンが感染していた場合です。一度種の壁を越えた異常プリオンは人間にうつりやすくなっている可能性が高いからです。こうなると問題は牛だけでなく多くの家畜に広がるのです。
これからは、まず、農林省のウソにウソを重ねた責任を明確にすることです。それから、草食動物には草を食べさせるという当たり前の飼い方に戻すことです。農家も自分たちの責任でエサをチェックしないといけません。今度の事件は自然のサイクルにそった生活にもどれるかが問われているのです。牛肉を食べるか食べないかはあなたの判断です。
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