アメリカの毒物曝露被害の情報から

アメリカの毒物曝露被害の情報管理体制について

編集部

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   AAPCC(米国毒物コントロールセンター協会)は、全米各地にある毒物コントロールセンター等を統括している組織です。各地域の毒物コントロールセンターは、病院内に部門が設置されているものや独立施設など多種ですが、ここに年間を通してさまざまな「毒物」への曝露による被害情報が周辺住民等から寄せられます。これらの情報がAAPCCによりとりまとめられ、年次報告として毎年発表されています。この年次報告を公表することにより、より早い危険の認識、被害回避教育の実施、臨床研究の指針、等を可能にしています。

 AAPCCは1983年に設立され、98年度現在では全米65ヶ所の毒物コントロールセンターからの情報をとりまとめています。まだアメリカの全ての地域(州)に毒物コントロールセンターが設置されているわけではありませんが、98年現在までのところ42州の全地域と4州の一部地域についてAAPCCで把握できていることになっており、これは全米人口の95.3%に当たります。とりまとめられた毒物曝露被害の報告件数は、98年には2,241,082件。設立以来これまでに集積されている被害報告の総数は約2,480万件にのぼっています。

 98年の年次報告書の概要を紹介します。

 98年の毒物曝露被害の報告件数は2,241,082件でした。
 曝露被害報告は一覧表にまとめられ、物質のカテゴリーごとに、年齢グループ別の被害者数、曝露理由、病院等での処置(治療)件数、予後(重症度・死亡等)を表記しています。物質のカテゴリーは、医薬品と非医薬品に大別されています。医薬品は「鎮痛剤」、「麻酔剤」、「抗凝血薬」、「抗鬱剤」、「抗菌剤」、「喘息治療薬」、「電解質/無機物」、「眼・耳・鼻・喉治療薬」、「胃腸薬」、「ビタミン類」などのカテゴリーに、非医薬品は「接着剤」、「洗浄剤(家庭用と工業用とは別カテゴリー)」、「アルコール類」、「殺虫剤」、「電池」、「異物」、「建築材」、「化学物質」、「食中毒」、「植物」、「動物による刺噛」、「放射性同位元素」、「マッチ/花火/爆発物」、「タバコ」、「プール/水槽」、「スポーツ用品」などのカテゴリーに分けられており、それぞれのカテゴリーの下に更により細かい物質名ごとに別けて表記されています。例えば「電解質/無機物」カテゴリーはさらに「カルシウム」、「フッ素」、「鉄」、「マグネシウム」、「カリウム」、「ナトリウム」、「亜鉛」などの項目に別れていますし、「異物」カテゴリーはさらに「灰」、「シャボン玉液」、「炭」、「クリスマス装飾品」、「コイン」、「乾燥剤」、「糞便/尿」、「ガラス」、「香料」、「土壌」、「温度計/体温計」、「おもちゃ」などの項目に別れています。

 また、これらの曝露被害報告は曝露場所や曝露理由、年齢分布等さまざまな視点別でもまとめられ、曝露被害の発生傾向などが報告されています。

<曝露場所・時間帯>
 曝露場所は住居が91.9%(自宅88.7%・他人宅3.2%)と最も多く、ほかに職場(2.7%)、学校(1.4%)、レストラン等の食事場所(0.6%)などとなっています。被害報告の電話は朝8時から夜0時まで、ほぼ均一な頻度でかかってきていましたが、暖かい季節の方が寒い季節よりも若干(2割弱程度)電話件数が多くなっていました。

<年齢分布>
 被害者の年齢と性別分布は、3歳以下の子どもが39.6%、6歳以下の子どもが52.7%。13歳以下の子どもでは男の子の被害件数の方が多い傾向がみられましたが、10歳代および大人ではこの傾向は逆転し、女性の被害件数の方が多くなっていました。また、非意図的な曝露被害の件数は男女ともほぼ均等でしたが、意図的な曝露被害(自殺未遂など含む)は女性の方が多い傾向があり59.4%となっていました。薬の副作用被害も女性の方が多い傾向があり、64.2%でした。致死例は775件でしたが、その内訳は6歳以下の子どもは2.1%と少なく、半数以上が20歳〜49歳の大人でした。

<曝露理由:意図的/非意図的>
 曝露理由のほとんどは非意図的なもの(86.7%)でした。この中には、医療過誤(投与量・投与経路・投与患者間違い等:6.4%=144,328件)、動物や昆虫などによる刺傷や噛傷(3.6%)、使用法の間違い(非医療品:3.2%)、環境曝露(空気・水・土壌汚染による曝露:2.4%)、食中毒(2.2%)などが含まれます。意図的な曝露は10.5%で、この中には自殺意図(7.2%)、薬物(物質)乱用(1.3%)などが含まれます。基本的に非意図的な曝露被害が意図的な曝露被害の件数を上回っていましたが、大人(19歳以上)の致死例では78%が意図的な曝露被害でした。その他に、悪意を持った他人に傷つけられたケースが0.3%。副作用(指示・処方箋通りに用いて副作用等が起きたケース)が、薬で1.4%、食品(アレルギー等)で0.2%などでした。

<曝露経路>
 曝露経路の内訳は、飲み込みが74.3%と最も多く、次いで皮膚経由(8.4%)、吸入(6.6%)、眼経由(6.6%)等でした。致死例では飲み込み(76.0%)に次いで吸入(10.0%)、非経口(腸管外)経由(5.7%)が主な経路でした。

<身体症状/処置/予後>
 曝露後の身体症状・徴候等は30.2%のケースで確認され、このうち79.6%が曝露と関連するものと推定されました。
 曝露被害の93.7%が急性被害でしたが、致死例のうち急性被害は57.0%だけでした。
 曝露後の何らかの処置(治療等)については、ほとんどのケース(75.2%)が病院等の健康関連施設以外の場所(被害者の自宅が最も多い)で処置されていました。病院等で処置を受けたケースは21.4%で、更に、病院等での処置を勧められたがこれを拒否したというケースも2.0%ありました。病院等で処置を受けたケースは年齢分布に偏りが見られ、6歳以下の子どもでは10.6%、6〜12歳の子どもでは13.7%に過ぎませんでしたが、13〜19歳では45.2%、19歳以上の大人では35.3%でした。病院等で処置を受けたケースのうち、57.3%は処置後すぐに帰宅、12.8%が入院して救命救急治療を受け、7.0%が入院して普通治療(救命救急治療以外)を、1.4%が入院して精神科医療を受けました。
 医学的観点からみた曝露被害の予後は、年齢が高いグループでより重症となっています。 
 曝露理由別でみた被害状況では、意図的な曝露ケースで重症ケースが多くなっています。

<曝露物質>
 最も曝露被害の報告件数の多かった物質は、洗浄剤(229,500件:10.2%)で、次いで鎮痛剤(9.6%)、化粧品等パーソナルケア関連商品(9.4%)、植物(5.5%)、異物(4.6%)、咳止や風邪薬(4.5%)、噛傷や刺傷(4.1%)、殺虫剤(殺鼠剤を含む:3.9%)などでした。これを子どもと大人で分けて見ると、6歳以下の子どもで最も曝露被害の報告件数の多かったものは化粧品等パーソナルケア関連商品(157,551件:13.3%)で、次いで洗浄剤(11.0%)、鎮痛剤(7.6%)、植物(7.1%)、異物(6.3%)、咳止や風邪薬(5.5%)。またビタミン類(3.3%)、抗菌剤(3.1%)、胃腸薬(3.0%)、美術クラフトやOA用品(2.5%)、炭化水素化合物(ベンゼン、ディーゼル燃料、ガソリン、ケロシン、ライター燃料など:2.2%)、抗ヒスタミン剤(1.9%)なども挙げられていました。大人では鎮痛剤(72,846件:9.9%)、洗浄剤(9.4%)、噛傷や刺傷(7.1%)、鎮静剤/催眠薬/精神病治療薬(6.8%)、抗鬱剤(5.7%)、食品/食中毒(5.3%)の順になっており、その他にアルコール類(3.9%)、心臓血管薬(3.0%)なども挙げられていました。ただし、これらの数値は、曝露報告件数(曝露頻度)が多いということを現しているに過ぎず(多数の人が手にする機会が多い物質、とも言える)、必ずしも毒性が強いということではない、ということには留意が必要です。
 植物への曝露被害が報告された例で、報告件数が多かった植物は、コショウ(5,374件)、フィロデンドロン属の植物(4,061件)、ヒイラギ(3,441件)、ポインセチア(3,296件)、ヤマゴボウ/ヨウシュヤマゴボウ(2,861件)、ツタウルシ(1,697件)、クラッスラ(1,619件)、ポトス(1,250件)、菊(1,093件)、イチイ(1,046件)、ロドデンドロン/アザレア(1,028件)、ユーカリ(1,027件)、タンポポ(948件)、リンゴの種(844件)、ピラカンサ(830件)などでした。
 曝露した物質は1種類というケースが92.8%とほとんどを占め、2種類以上のケースは1.5%でしたが、致死例のうち44.7%が2種類以上の物質へ曝露したケースでした。

<致死例について>
 775件の致死例については、被害者の年齢、曝露物質、曝露経路、曝露理由、物質の血中濃度等それぞれの概要を公表しています。そして更に、代表的または特異な致死例については、具体的な経緯等の詳細も公表しています。
 過去16年の致死例の比較では、全体の報告数に大きな変化は見られませんでしたが、6歳以下の子どもの致死例は83年の10.5%から98年の2.1%まで徐々に減少してきています。98年の6歳以下の子どもの致死例は16件でしたが、このうち4件は炭化水素化合物(ランプオイル・ライター燃料・モーターオイル)の飲み込み等によるものでした。
 曝露による致死例が報告されている物質のカテゴリーは、多い順に鎮痛剤(264件)、抗鬱剤(152件)、興奮剤/麻薬(118件)、心臓血管薬(118件)、鎮静剤/催眠薬/精神病治療薬(89件)、アルコール類(56件)などでした。
 致死例は非医薬品よりも医薬品でより多く報告されています。致死例が多く報告されている物質は、非医薬品ではエタノール(42件)、メタノール(10件)、シアン化物(10件)、グリコール:エチレン(18件)、一酸化炭素(31件)、有機燐化合物のみの殺虫剤(11件)など。医薬品ではアセトアミノフェン含有鎮痛剤(153件)、アスピリン含有鎮痛剤(35件)、抗鬱薬アミトリプチリン(49件)、同ドキセピン(23件)、SSRI(選択的セロトニン再吸収阻害物質=抗鬱剤:21件)、喘息治療薬アミノフィリン/テオフィリン(16件)、心臓血管薬ベータ遮断薬(21件)、同カルシウム拮抗薬(61件)、同強心剤配糖体(23件)、催眠薬ベンゾジアゼピン(53件)、興奮剤アンフェタミン(31件)、麻薬コカイン(54件)、同ヘロイン(28件)などでした。この中で、一酸化炭素中毒による致死例は、31件中17件が家庭内で起こった非意図的な曝露によるものであることから、監視や警報装置の導入などによってこれらの事故を防止できた可能性が高い、としています。
 病院到着以前に心停止、呼吸停止していたケースは全致死例の32%でした。

<医薬品と非医薬品>
 曝露被害報告のあった物質の58.2%が非医薬品、41.8%が医薬品でした。医薬品に曝露したケースの25.9%が意図的な曝露でしたが、非医薬品では意図的な曝露ケースは3.9%のみでした。同様に、病院などの施設で処置(治療)を受けたケースは医薬品への曝露の34.6%、非医薬品への曝露の16.3%でした。医薬品への曝露では、非医薬品への曝露と比べて、より重症な被害が報告されています。死亡に至ったケースの曝露物質の77.7%が医薬品でした(死亡には至らなかったケースの41.8%が医薬品)。

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