水道水のフッ素化について

〜毎日新聞の報道記事と実際の研究報告の原文との違い〜

編集部

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  2000年10月7日付の英語版毎日新聞に「水道水のフッ素化、安全性が認められる」という見出しの記事(AP通信)がでました。これまでに報告されてきたフッ素化に関連した研究論文を集めて分析検証したイギリス政府の委託研究の結果を報告したものです。記事では「水道水フッ素化に関する200件以上の研究論文を分析したこれまでにない有意義な研究で、危険性を示す根拠は何もみつからなかった」、「今回の研究は完全なもので、これでフッ素化に対する不安も静まるのではないかと専門家も見ている」などと書かれていました。この記事を読むと、水道水中のフッ素の安全性と有効性が確認され、これから水道水フッ素化をどんどん進めていい、というようなニュアンスです。

 ところが、イギリスの医学誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」に掲載されたこの文献研究の報告、そしてさらにこの研究を行った英国ヨーク州立大学内にあるNational Health Service Center for Reviews and Dissemination(英国立健康調査普及サービスセンター)のホームページ上で公開されているこの研究報告の原文を読んでみたところ、AP通信の記事とはずいぶんと違う印象を受けました。

 この研究は、医学・政治・環境・科学関連の論文を収録している25種類の電子データベースの検索、関連ウェブページの検索、論文目録雑誌などの手作業による検索、さらにホームページを作製して研究内容の公開と関連情報の一般公募も行い、水道水フッ素化に関連した研究論文を、出来る限り古い物から最新のものまで、世界中から集め、包括的に検証したものです。集まった論文の総数は3246件で、使用言語も13言語に渡りました。このうち独自の判定基準に照らし合わせて、今回の文献研究の対象として認められる内容である、と判断された論文は254件で、同一研究について複数の報告が出されている場合など論文がだぶっているケースを除くと214件でした。

 この研究の報告原文を見ると、最終的な結論として挙げられていたのは以下の4点でした。

<『水道水フッ素化に関する論文の文献研究』の結論>
・ 水道水フッ素化に関する現存の研究は根拠が乏しい(論文の質が低い)。
・ 概して虫歯の発生数減少が認められるが、減少の割合はこれまでに報告されていたよりも少ない。
・ 水道水中のフッ素濃度とフッ素症との関連性は非常に高い。
・ 水道水中のフッ素とその他の副作用(フッ素症以外の副作用)との関連性は認められなかった。

 まず何よりも皮肉でフッ素化についての研究の未熟な実状を現しているのは、この文献研究の<結論>の冒頭に書かれていた以下の文章です:「これだけ関心を集めているにも関わらず、公共水道水のフッ素化について質の高い研究が実際にはほとんど行われていないという現状は驚きである」。さらに、「今回の研究により、これまで行われてきた水道水フッ素化に関する研究の方法的限界が示されただろう」とも言っています。
 実際、今回の文献研究で検証された論文は214件ありましたが、このなかに根拠レベルA(高品質で偏見がない)の論文はひとつもなく、3/4以上が根拠レベルC(最低レベル)、残りは根拠レベルB(中程度)の論文だった、と報告しています。
 また結論の中で、水道水フッ素化の影響として、「水道水フッ素化によって子どもの虫歯発症率は14.6%減少する」が、一方で「水道水中フッ素濃度1.0ppmでフッ素症の発症率は48%と概算される」としました。
 フッ素症以外の副作用に関しては、骨折や骨の発達における問題、癌、ダウン症、死亡率、老人性痴呆、甲状腺腫、学習障害、先天性奇形などについて研究した論文が検証されました。しかし、副作用は認められない、と肯定的な結論を出している研究もあれば、副作用の危険性がある、と否定的な結論を出している研究もあり、今回の文献研究では「現段階で集まった研究論文からは、正式にひとつの結論を導き出すことはできない」という結論になっています。

 つまり、今回の文献研究で明らかになったのは、水道水フッ素化についてこれまでかなりレベルの低い研究しかされてこなかったこと、虫歯も少しは減るがフッ素症が起きる確立も高いこと、その他の副作用については明確なことはまだ何もわからないこと、ということだけでした。報道記事は、「安全性が証明された!」と水道水フッ素化を推奨するかのような見出しでしたが、実際には、まだまだ研究不足で不明なことだらけだということを再確認したものでした。

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