日本で初の製造物責任法(PL法)訴訟判決

オレンジジュ−スでケガ(慰謝料30万円および弁護士費用10万円)
   付録:アメリカでのPL法(製造物責任法)判例

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  1999年6月30日、日本で初めて製造物責任法(PL法)を適用した判決が出されました。異物混入したジュースによる咽頭部負傷事故で、訴えられたメーカー側の製造物責任を認めた画期的なPL法適用第一号判決です。

日本で初の判決
 1998年2月13日、ファーストフード店で購入したオレンジジュースを飲んだAさんが、飲んだ後に吐血した。勤務先に隣接している診療所で診察を受け、さらに救急車で国立病院へ運ばれた。喉頭ファイバースコープによる診察で粘膜の下に出血が認められた。(しかし胃十二指腸ファイバースコープ等でも異物自体は発見されていない。)
 1998年5月15日、Aさんは、ジュースの製造メーカーを相手取り、製造物責任、債務不履行(売買契約における安全配慮義務違反)、不法行為に基づいて、受傷によって被った精神的苦痛に対する慰謝料30万円および弁護士費用10万円の各損害賠償等の支払いを求めて名古屋地方裁判所に提訴。メーカー側は、Aさんが多量の出血を伴う傷害を負った事実はない、直径約7ミリメートルのストローを通過するような異物は故意でない限り混入することはあり得ない、として全面的に争った。
 判決は、ジュースの製造工程、販売、飲食の経過を詳細に認定した上で、「ジュースに異物が混入する可能性は否定できない」とし、「ジュースが通常有すべき安全性を欠いていたということであるから、ジュースには製造物責任法上の『欠陥』があると認められる」と判断し、メーカー側に慰謝料5万円、弁護士費用5万円合計10万円の支払いを命じた。

 PL法が成立する以前には、こうした訴訟では原告側がその製造物と受けた被害との因果関係、そこに故意や過失があったことを立証できずに敗訴するケースが多かったのですが、PL法が成立したことで今回のような判決が出てくるようになりました。
 PL法は、製造物に欠陥があり、それが身体・生命・財産に損害をひき起こしたことを消費者が証明すれば損害賠償を請求できる、という法律で、1995年7月1日に施行されました。施行直前のニューズレターVol.3、4で一度取り上げており、法律全文やアメリカでの訴訟事例などを紹介しています。

 しかし現在、日本でのPL法に基づいた訴訟はまだ少なく、施行後から1999年6月現在15件です。日本でこれまでに起こされているPL法訴訟は、耳ケア製品で炎症 (H10.1.22提訴/H10.5.7和解)、コンピュータープログラムミスで税金を過払い(H10.6.23提訴)、手術縫合糸が手術後断裂し出血ショック及び呼吸不全により死亡(H10.7.22提訴/H11.2.10請求放棄)、輸入漢方薬で腎不全を罹患(H10.10.8提訴)、こんにゃくゼリーを喉に詰まらせ男児が窒息死(H10.10.30提訴)、点検中にエアバッグが噴出・破裂して左手親指を骨折(H10.11.9提訴)、電気ジャーポットが倒れ女児が大やけど(H10.12.14提訴)、子供靴前歯折損(H11.5.25提訴)などです。(平成11年7月末現在/国民生活センター)

 一方で、以前からPL法訴訟が活発に行われてきたPL法先進国ともいえるアメリカでは、日本では訴訟にまでは発展しないと考えられるような事例まで、実にさまざまなケースでPL法訴訟が起こされています。興味深いのは、消費者自身の取り扱い上の過失などにより事故を招いたと考えられるケースでも、いわば強引に製品の方に問題(欠陥)があったのだ、と主張して訴えているケースが少なからずあることです(もっとも、たいがいは原告敗訴となっていますが)。訴訟例をいくつか紹介します。

<事例@>
 1991年5月、親が目を離したすきに3歳の男児が勝手にバスタブにお湯を入れはじめ、そこに11ヶ月の女児が転落。女児は全身の43%にやけど(二度:水泡が出来る)を負い、数日後にやけどがもとの感染症で死亡。親は、給湯器の温度計メーカーとアパートの管理会社を相手取りミシシッピ州地裁に提訴。原告側の主張は、温度計は湯温の上限を華氏170度(摂氏約77度)として設定されていたが、この設定は家庭での使用では不必要なほど高温であり、家庭内使用を目的としている製品としては重大な危険性を伴う欠陥品である。また、管理会社は給湯器にこうした危険・不備があることを警告・改善する責任があった。しかし、1995年8月に出された判決は、原告敗訴。裁判所の判決理由は、湯温の設定温度は工業安全基準内であり、蛇口から出ている湯温が高いことに伴う危険性は普通の使用者は十分判断・予測できる。さらに、この給湯器温度計には使用者自身がより低い温度に上限を設定できる機能等もある。このため、欠陥があり重大な危険をともなう製品とはいえず、メーカー、管理会社共に過失はない、とした。

<事例A・アメリカ>
1990年2月、父親が目を離したすきに15ヶ月の男児が遊具の木製ブロック(円柱形7/8" wide×1-3/4" long)を喉に詰めて窒息死。遊具の箱には飲み込みの危険性を示す注意書き等はなかったが、「使用適正年齢:1歳6ヶ月〜5歳」と大きく書かれていた。ブロックのサイズや形状は基準値内。1992年2月、両親がこの遊具のメーカーを相手取りペンシルバニア州裁判所に提訴。使用対象年齢の子供には重大な危険性のある製品であり、加えてその危険性を警告する義務も怠った、などとした。1994年7月に出された判決は、原告敗訴。危険性があり欠陥のある製品とはいえない。事故にあった子供は厳密にはメーカー側が使用対象とした年齢に達していない。子供がこうした遊具を口に入れる可能性は十分考えられるため、特に注意書きをしなかったことはメーカーの過失にはあたらない、などどした。

<事例B:アメリカ>
1993年、オートバイに乗っていた男性が自動車に衝突され、左足膝下を切断する大怪我を負った。男性はオートバイのメーカーを相手取りオクラホマ州地方裁判所に提訴。足用保護ガードが付けられていなかったこのオートバイは欠陥製品で、メーカーには過失責任がある、などとした。1999年2月に出された判決は、原告敗訴。裁判所は、こうした構造を持つオートバイにおいてこうした危険性は十分考えられるものであり、予見不可能な危険性を持った欠陥製品とはいえない、従って危険性の警告義務もない、などとした。

<事例C:アメリカ>
1995年4月、5歳女児がライターで遊んでいて火事を起こし、2歳男児が重症の火傷を負った。友人がライターの製造メーカーを相手取りテキサス州地方裁判所に提訴。子供による使用を防止する機能がついておらず危険な欠陥製品だ、などとした。1997年9月に確定した判決は、原告敗訴。ライターは特に予見不能な危険性を伴う製品ではなく、また「子供の手の届かないところに置くこと」との表示が適正にされており、メーカー側に過失はない、とした。

<事例D:アメリカ>
1993年1月、男性が運転中に雪道でタイヤがスリップして道側の木に衝突し、下腕を骨折するなど怪我を負った。男性は体重が約120kgあり、シートベルトをしており法定速度内で走行していたが、衝突時の衝撃でシートベルトが分解し、ハンドルおよびフロントガラスに叩き付けられた。男性は自動車メーカーを相手取ってインディアナ州地方裁判所に提訴。彼の体を十分支えきれなかったシートベルトは欠陥製品であり、また彼の体重では衝突の衝撃でシートベルトが破損する可能性があることを警告しなかった、などとした。
1995年6月に出された判決は、原告敗訴。製品は重大な危険性をはらんでおらず、欠陥製品とはいえない、とした。

<事例E:アメリカ>
1988年2月夜、若者5人が飲酒後に車を乗り回していたところ、このうち1人の元恋人の車を発見、道の中央線を超えて左右に蛇行運転しながらこれを追跡し始めた。途中、同乗の若者の1人が後ろからハンドルをぐいっと引っ張ったところ、運転者がコントロールを失い、車は側溝に落ち、2回転した。この事故で、後部座席にシートベルトをせずに座っていた男性が脊髄を損傷し、四肢麻痺となった。1990年2月、この男性が、車のメーカーを相手取りカンサス州地方裁判所に提訴。車体転倒事故の際に屋根や側壁部が乗客コンパートメント内に大きく食い込んできたのは欠陥設計にあたり、このために彼が受けた怪我に対してメーカー側に全面的責任がある、とした。1996年4月に出された判決で、裁判所はメーカー側に56%の責任を認め、約657万ドルの支払いを命じた。

<事例F:アメリカ>
住居内で3種類の害虫駆除剤を使用していた夫婦が、その使用期間中に同居していた息子夫婦にその後生まれた子供に重複先天性奇形があったのは、製品に欠陥等があったせいでメーカー側の過失だ、として、1998年9月に複数の駆除剤メーカーを相手取りアーカンソー州地方裁判所に提訴。1999年1月に出された判決は、原告敗訴。製品は基準を満たしている、また一部の製品については実際には使用されていなかったことが証明された、などとした。

<事例G:アメリカ>
1994年8月、男性と妻子で3人乗り水上船に乗っていたところ(停泊中)横腹に波を受けて転覆。男性は船から落ちるのを防ごうと、足を置くためのすき間に足を深く入れたが、後ろから彼の腰につかまっていた妻が彼の体をつかんだまま船から落ち、足が足置きにはさまって外れなかったため体を引っ張られた男性は脛骨と腓骨を骨折した。男性は水上船のメーカーを相手取りルイジアナ地方裁判所に提訴。2000年3月に出された判決は、製品欠陥は認めなかったが、メーカー側が警告を怠ったことを認め、損害賠償の支払いを命じた。

<事例H:アメリカ>
13歳と14歳の少年が近所の家数軒から銃数丁などを盗み、それらを売ろうと考え、紙袋に入れて持ち歩いていたところ、誤って紙袋ごと舗装路面に落とし、その衝撃で銃が暴発。銃弾が13歳の少年の足に当り、膝上を切断する大怪我をした。盗まれた当時、銃に弾は装填されていなかったが、弾を入手した少年らが自分たちで弾を装填し、撃鉄をあげた状態で持ち歩いていた。その後、銃には設計上の欠陥があった、などとして、少年の家族が銃の製造メーカーを提訴。陪審員は第一審で銃の設計上の欠陥を認め、少年の怪我に関してメーカー側に60%の責任、少年に40%の責任を認める評決を出し、治療費等として総額40万ドルの支払いを命じた。しかしその後、この陪審員評決には責任と賠償内容に矛盾する点があるなどとする銃メーカー側の主張を州地裁が受け入れ、再審後さらに新たに別の陪審員団を招集。第二陪審団は42万2000ドルの賠償を命じる評決を出した。銃メーカー側は、窃盗や銃の誤った取扱など少年側の過失を考慮に入れないで行われた審理によるこの評決を不服として控訴している。(1992年6月)

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