血液透析患者とフッ素

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【体内の老廃物は腎臓から尿として外に捨てられます。しかし、腎臓が働かなくなると老廃物が外に出せません。こうなると死んでしまいまいます。現在では人工腎臓といって器械を使って老廃物を取り除く方法や腎臓の移植が行われています。でも、人工腎臓というのは実際には大変な作業となりますし本物の腎臓と比べればまだ完璧なものではありません。
 まず、血管から血液を週2ー3回のペースで外に導き出すのですが、毎回、針を刺しても血管が耐えられるよう手術をしなければなりません。この部分をシャントと呼んでいます。動脈血を血液透析器(ダイアライザー)につなぎ血液中の老廃物を交換した後、静脈から体内に戻します。患者は通常週2〜3回通院し、毎回約4時間程度の透析治療を受けます。患者は透析を受ける病院からそう遠くへ離れることができないなど、健常人では考えられないような制約を受けることになります。 現在、透析治療は腎不全(急性・慢性)の人だけでなく、肝疾患、膠原病、神経・筋疾患など多岐にわたります。最も多い原疾患は慢性糸球体腎炎(36.6%:1997年の新規導入患者中)ですがこれは減少傾向にあり、逆に近年増加している糖尿病性腎症で(33.9%:同上)数年以内には慢性糸球体腎炎を上回るだろうと予測されています。日本における透析患者は年々増加を続けており、1998年末現在で透析治療中の患者数は18万6,251人となっています。
 透析の制約を少しでも解消できる方法として、持続携行式腹膜透析(CAPD)という方法もあります。日本では現在約9千人(1997年現在)の患者がこの方法を使っています。透析患者全体の約5%を占めています。

■ 水道水からの透析用希釈液の精製 血液中の老廃物は特殊な膜を使って透析液の方に洗い出だされます。体内の老廃物を洗い出すために大量の透析液が必要になります。通常1分間に500mlの透析液が使われます。患者1人で1回4時間ですから120リットルの透析液が必要になります。この透析液は水道水を使います。しかし、水道水中には消毒に使われる塩素や塩素化合物、その他の不純物や微量元素が含まれています。透析効率をよくするためにこれらを除いてやらなければなりません。水処理装置で水道水中に含まれる物質を除きます。効率をよくするため不純物をより少なくするとコストが高くなります。今回のテーマであるフッ素は水処理装置の切り札とされる逆浸透装置での除去率が悪いので問題です。
■透析と微量元素  食事から体内に取り入れられた微量元素のコントロールが透析患者には重大な問題になります。微量元素といっても身体に必要な物と(鉄、亜鉛、銅など)、不必要な物(水銀、カドミウム、鉛など)があります。アルミニウムのコントロールがうまくできないために起きた透析痴呆は有名な事故例です。水道水に添加されたフッ素やフッ素入り歯磨きのフッ素が体内に吸収され、これがうまく排泄できないたフッ素過剰症が生じる危険が指摘されています。
■体内フッ素と透析 虫歯予防のため水道水にフッ素を添加したり(1ppm)歯磨きに高濃度(1,000ppm)のフッ素添加している国があります。血液を洗う透析液を作るとき水道水に入っているフッ素はある程度除かれますが完全ではありません。また、透析患者はフッ素いりの水やフッ素入り歯磨きを使うので体内にフッ素を取り込んでいます。しかし、問題は現在のダイアライザー(透析器)が体内からのフッ素除去を効率良くできないのです。ですから、フッ素が血中に高濃度に蓄積し、斑状歯や骨硬化症などの原因となることが指摘されています。虫歯予防に水道水のフッ素化や歯磨きへのフッ素添加を行っている国で問題が起きる可能性があるのはいうまでもありません。日本ではフッ素入り歯磨きが大量に出回っています。学校でのフッ素洗口や歯科でのフッ素塗布が行われています。最近は一部の歯科医が水道水へのフッ素添加を推進する動きを見せています。
■米国立医学図書館の医学関連情報から 米国立医学図書館の医学関連文献検索システムの「メドライン(Medline)」で「フッ素」と「透析」の項目で検索したところ、フッ素と透析の関係については、1970年代から研究論文が多数見つかります。国別に見ても米国、イギリス、フランス、スペイン、スウェーデン、チェコ、サウジアラビア、日本など広い範囲で研究が進められています。重要と考えられる論文のみ簡単に紹介します。
■血液透析患者の体内フッ素濃度とフッ素含有透析液を用いた透析治療の問題点がたくさん報告されています。 「15人の透析患者(平均年齢 60.2歳)を対象に、低濃度フッ素を含む透析液を使用した4時間の透析前と後の血漿中フッ素濃度を、2つのコントロール・グループ、年齢の低い健常人20名(45.9歳)と、より年齢の高い健常人8名(69.1歳)の血漿中のフッ素を測定した。透析患者の透析前のフッ素濃度は24.8マイクログラム(μg)/リットルで、双方のコントロール・グループは6.6μgと8.4μg/g で透析患者のフッ素濃度は3から4倍高かった。透析後の平均フッ素濃度は17.8μg/g に減少したが、それでもコントロール・グループより、2から3倍の高値で推移した。
(「血液透析患者の血漿中フッ素」Chaleil D他; Clin Chim Acta 1986 Apr 15) 「腎不全におけるフッ素の代謝およびフッ素添加された飲料水を透析液の製造に使用することについて、長期の血液透析患者においては、1リットルの透析液に対し1mgの割合で血漿中フッ素濃度が上昇する。このことによる健康状態への影響は現段階では不明なため、フッ素を含まない透析液の使用が望ましい。製造においては、逆浸透装置を使用すべきである。」 (「慢性血液透析におけるフッ素の特性:フッ素添加飲料水との関連」;ドイツInnere Abteilung, Kreiskrankenhauses Heidenau; Schmidt CW他; Z Urol Nephrol 1988 Jul) 「血液透析患者は、持続携行式腹膜透析(CAPD)患者より高濃度の血漿中フッ素が観察された(1.6倍)ことから、透析におけるフッ素代謝の測定評価を行った。血清フッ素がカプロファン膜(cuprophane膜)で限外濾過される(99%)ことを確認し、血液透析が血漿中フッ素濃度に急激な影響を与えること、そして透析開始時における血漿と透析液間のフッ素勾配とこの血漿中フッ素濃度には明確な関連性があることも確認した。我々が使用している血液透析液に含まれるフッ素濃度は、市販の腹膜透析液と比べて有意に高かったが、この透析液はフッ素添加された水道水を逆浸透により浄化して使用している。使用透析液のフッ素濃度の違いが、治療中の透析患者グループ間の血漿中フッ素濃度の違いの原因になっている、と考えられる。血液透析機器の多くが水道水浄化のために逆浸透システムを採用しているため、血液透析患者の多くは不本意にも高濃度のフッ素に曝露されている可能性が高い。」 (「血液透析患者における高濃度フッ素曝露」; 米国ノースカロライナ大学医学大学; Bello VA; Am J Kidney Dis 1990 Apr) 「骨格へのフッ素の蓄積が腎性ジストロフィの原因としてあげられていることから、定期的に血液透析を受けている17名の慢性腎不全患者を対象に、血漿中フッ素濃度への血液透析の影響について研究を行った。  
健常人のフッ素濃度は7.2μg/Lから19μg/Lであった。患者は透析前の平均フッ素濃度は117.3μg/Lで、これが透析開始1時間後には113.3μg/Lに、透析終了時には105.7μg/Lに減少したが、有意な差を示すほどの減少ではなかった。以上の結果から、血漿中フッ素レベルを下げるため、腎不全患者においては、『フッ素濃度の非常に低い』透析液を使用することが適当であると結論する。」 (「血液透析の血漿中フッ素への影響」; トルコ・クムフリエット大学総合外科; Canturk NZ他; Mater Med Pol 1992 Apr-Jun) 「これまでの研究で、ヒト体内血中の合計フッ素濃度は腎臓機能と関連性があることが分かっている。血液透析を行っていない患者に関しては、体内血中の合計フッ素レベルはクレアチニン(Cr)値の上昇と共に直線的に増加した。増加したフッ素は、血清以外の血液部位では非イオン化物であることが分かり、また血清中の非イオン化フッ素濃度はほぼ一定であった。つまり、血液透析治療で血清以外の血液部位における非イオン化フッ素濃度を下げることができたのである。一方で、血液透析治療でイオン化フッ素は排泄できるが、非イオン化フッ素は排泄できない。これらの結果から、イオン化フッ素は血清以外の血液部位で蓄積されるために非イオン化フッ素に変換され、非イオン化フッ素は排泄されるためにイオン化フッ素に変換されている、と考えられる。つまり、血清以外の血液部位における非イオン化フッ素の蓄積は、血清中フッ素濃度が高くなりすぎるのを防ぐ障壁の役割を果たしているのである。」 (「腎臓疾患による透析患者および非透析患者、および腎臓移植患者の血中のイオン化および非イオン化フッ素濃度」; 滋賀医学大学化学部; Kimura T他; Jpn J Med Sci Biol 1993 Jun) 「慢性腎不全患者および末期腎臓疾患(ESRD)患者における高濃度の血清中フッ素は、腎性ジストロフィおよびその他の骨異常の発症と関連する。この研究では、健常人グループ(対照)および血液透析患者(HD)と腹膜透析(PD)中の末期腎臓患者の血清中フッ素を測定した。0.9ppmのフッ素が飲料水に添加されている地域で、健常人17人(男性12人、女性5人)、および透析中の末期腎臓患者39人(男性17人、女性22人)がこの実験研究に協力対象として応募した。コントロール・グループの平均血清中フッ素濃度は20.5μg/Lであった。コントロール・グループの男性は21.8μg/Lで女性の17.5μg/Lに比べて若干高めの血清中フッ素レベルを示した。コントロール・グループにおける平均血清中フッ素濃度と年齢、性別との間に有意な関連性はなかったが、透析中の末期腎臓患者においては関連性が見られた。透析患者における平均血清中フッ素レベル50.7μg/Lは、健常コントロール・グループに比べて有意に高かった。性別ごとにグループ化すると、男性57.9μg/Lにおける平均血清中フッ素濃度は女性45.2μg/Lに比べて有意に高かった。患者を年齢別にグループ化すると、21歳〜70歳(54.3μg/L)は13歳〜20歳(27.0μg/L)の患者よりも血清中フッ素濃度が有意に高かった。つまり、透析患者においては血清中フッ素濃度と年齢、性別には関連性があり、20歳以上の人および男性でより高くなっているのである。血清中フッ素の腹膜を通しての明らかなクリアランス(39-90%)にも関わらず、CAPD(持続携行式腹膜透析)患者でHD患者よりもより高濃度の血清中フッ素(58.9μg)が観察された。透析中の患者39人のうち39%の血清中フッ素濃度が57.0μg/L以上であり、腎性骨ジストロフィの危険性がある。
(「血液透析および持続携行式腹膜透析(CAPD)患者における血清中イオン化フッ素濃度」; サウジアラビア・カリド王立大学病院医学科; al-Wakeel JS他; Nephrol Dial Transplant 1997 Jul) 「血清中・尿中フッ素濃度の通常数値幅の確認および、年齢・性別・腎臓機能との関連性について調査するため、スペイン・カタルーニャ地方在住の健常人250人(15歳〜90歳、男性122人と女性128人)および同地域在住の慢性腎不全で定期的に透析治療中の患者150人(20歳〜81歳、男性84人と女性66人)を対象に、血清中および尿中のフッ素濃度を測定した。血清中フッ素の平均濃度はコントロール・グループで17.5μg/l、腎臓患者グループで58μg/lであった。尿中フッ素濃度は、健常人グループで671μg/24時間 であった。フッ素濃度はコントロール・グループよりも患者グループで有意に高かった。血清中フッ素と年齢との間には有意な関連性が見られたが、性別との関連性は見られなかった。
(「血清中および尿中フッ素濃度:非フッ素添加地域における年齢、性別および腎臓機能との関連」; スペイン・バルセロナ大学病院地域臨床毒性学部; Torra M他; Sci Total Environ 1998 Sep 4) 以上のように、人工透析患者の血中フッ素濃度については、健常人よりも有意に高い値になっていることが示され、またこのことが腎性骨ジストロフィなどの疾患と結びついていることが示されています。また、使用している透析液に含まれるフッ素が、透析治療中の患者の血漿中フッ素濃度に現れてくること、そしてこのため、できるだけフッ素濃度の低い透析液を使用することが望ましいこと、も示されています。
■ 透析による体内フッ素除去 「フッ素中毒症の一患者例では、重度の低カルシウム症、心臓不整脈および呼吸器疾患などの症状が報告され、腹膜透析なども含めた治療法が検討された。検査によって得たこの患者の体内フッ素分布運動の情報から、摂取されたフッ素は急速に骨へ結合しており、その後徐々に放出・排泄されている、と推定された。腹膜透析はフッ素除去になんら効果がなかった。」 (「急性フッ素中毒」;Yolken R他; Pediatrics 1976 Jul) 「29人の血液透析治療中の患者における血清中および透析液中のイオン化フッ素を測定した。この29人の患者を含む同様の治療中の患者92人において、血液透析前後の血清クレアチニン(Cr)、血液尿素窒素(BUN: blood urea nitrogen)、リン(P)も測定した。その結果、血液透析前および後の患者における血清中フッ素濃度は、健常人と比べて有意に高いことが分かった。透析によるフッ素クリアランスは55.6ml/毎分であり、この数値はCr、BUN(95%, p (0.001)およびp(95%, p ( 0.01)に比べ統計的に有意に低かった。この結果から、一定の血液透析行程におけるフッ素の正味クリアランス値にも関わらず、血清中フッ素は正常値には戻らなかった、と結論する。 (「血液透析の血清中フッ素レベルへの影響」; 大阪医科大学公衆衛生学科; Usuda K; Nephron 1997)  血液透析による血中フッ素の除去は、まったく期待できないか、もしくはある程度期待できても十分ではなく、透析患者の血中フッ素濃度は健常人よりも高い状態で推移している、ということが示されています。 ■血中フッ素濃度と腎性骨ジストロフィ等 「サウジアラビアにおける血液透析患者の腎性骨ジストロフィのパターンを明らかにするために、複数施設での209人の患者を対象にした研究を行った。患者の平均年齢は39.4(18-70)歳で、男性128人、女性81人であった。全ての患者が酢酸透析液を使用しており平均透析期間は3.5年であった。主な症状は骨および関節痛(25.8%)であった。平均血清カルシウムは2.1mmol/l、リン酸塩は2.0mmol/l、アルカリフォスファターゼ19.7u/l、副甲状腺ホルモン・レベルは8.9mg/mlであった。平均血清中アルミニウム(AL)濃度は25.4 micrograms/lであり、活性型ビタミン D は8.1 +/- 4.2 ng/、フッ素は92.2μg/lであった。放射線学上の観察結果、主に骨硬化症(70%)が見られた。二重フォトン吸収測量法(Dual-photon absorptiometry)では、骨ミネラル低比重(LBM: low bone mineral density)が65%の患者で確認された。41人の患者がアルミニウム着色法での骨生検を受け、このうち92%に副甲状腺機能亢進症の変化が見られ、そのうち66%が真性副甲状腺機能亢進症だった。60%に様々な程度のアルミニウム中毒症状が見られた。放射線学上の骨格調査では、これらの患者のうち46%に異常が確認され、70%に骨ミネラル比重異常が見られた。以上、透析患者における放射線学上の調査の結果、最も多く観察されたのは骨硬化症であった。一方で、正常な骨格調査結果を持つ患者でも、組織病理学上の骨生検において主に副甲状腺機能亢進症が観察された。」 (「サウジアラビアにおける血液透析患者の腎性ジストロフィのパターン」; サウジアラビア・カリド王立大学病院医学科; Huraib S他; Nephrol Dial Transplant 1993) 「長期血液透析治療における重大な遅発生症状の一つとして、血液透析によって引き起こされる骨異常(osteopenia)があげられる。我々が治療にあたっている血液透析患者におけるOsteopeniaの発生率は5〜10%である。適切な治療を行うためには、骨の正確な組織学的分類(骨生検の組織体型測定学的評価)と副甲状腺ホルモンおよびフッ素レベルの測定が必要である。Osteopeniaの治療は透析液カルシウムとマグネシウムの減少、フッ素化ナトリウムの増加、ビタミンDの適用を含み、治療中はカルシウム、リン酸塩およびフッ素代謝のモニタリング、手骨格の微粒子放射線撮影、骨(腸骨頂)の再生検、iPTHの測定が行われるべきである。」 (「Osteopenia:長期透析における問題」(ドイツ; Schulz W他; Fortschr Med 1982 Feb 11) 「透析治療中の患者における高濃度フッ素添加水の常習的経口摂取による血漿中カリウム濃度への影響について調べるため、代替治療を受けている25人の慢性腎不全患者(このうち「摂取グループ」6人が約4500mg/lの重炭酸塩およびフッ素(9 mg/l)添加のミネラル水Vichy Saint-Yorre waterを摂取)について文献調査を行った。血漿中フッ素とカリウム濃度の間には、透析前にのみ有意な関連性(P ( 1 x 10(-7))が見られたが、透析後には見られなかった。これは、摂取グループ側の透析前のカリウム値が非摂取グループより高い(P ( 0.005)ことに起因している。また、より高いフッ素濃度において、より高いカリウム値が見られる傾向がある。以上の結果から、Vichy St-Yorre waterもしくはその他の高濃度フッ素添加水を飲んでいる透析患者においてはカリウム過剰血の発症に、より注意する必要があり、また同時にフッ素症発症の可能性も忘れてはならない。
(「フッ素添加水を摂取している血液透析患者におけるカリウム過剰血のリスク」; フランス・マルセイユ・聖マルゲリータ病院; Nicolay A; Clin Chim Acta 1999 Mar)

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