O157で復活した腰洗い槽の廃止を      

里見 宏

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腰洗い槽って?

 さて、プールで泳いだことがない人は「腰洗い槽(洗体槽)」といわれてもわからないと思います。プールに入る前に小さな腰までの水槽に入るのです。この水槽には最高プールの250倍も濃い(50から100PPM)塩素(遊離残留塩素)が入っています。50から100PPMという濃度は汚れた手や指を瞬間的に殺菌できる濃さです。ちなみにプールには0.4PPM以上1PPM以下の塩素が義務つけられています。表1でおわかりのように0.4PPMの濃度があれば遅くとも30秒以内に細菌は死滅します。ですから腰洗い槽はいらないはずです。現在のように健康問題に関心が高いのですからプール本体の塩素濃度が問題になっていいはずなのに、その前の腰洗い槽というところで引っ掛かっているのです。

腰洗い槽はどうしてできたのか

 1955年頃のプールは水の入れ替えすらままならないプールもあったのです。私の知っている小学校は夏休み中に1回水の入れ替えをするだけで子どもたちを泳がせていました。ほとんど制限なしに子どもを泳がせていましたから、イモの子を洗うという形容がピッタリでした。気がつきませんがプールで泳いでいる子どもたちは大量の汗をかいています。なかには夢中になって泳いでいるうちにトイレに行くひまがなくなり中で用をたしてしまう子もいました。こうした汚れがプールの塩素を消費してしまいます。すると大腸菌などのバイ菌が増えることになります。また、ウイルスなどの感染場所ともなります。
 1957年(昭32)、岐阜県の大垣市でプール熱(プールで泳いだあとに流行することが多かったのでプール熱と呼ばれたが、本当は咽頭結膜熱といいます)が流行しました。結膜炎が起きるので目が赤く充血し、熱がでて、のどにも炎症が起きます。これはアデノウイルス(3,7型)によって起きます(表 2)。じつは、このアデノウイルスは1953年に発見されたばかりでした。(現在アデノウイルスは41種類に分類され、かかりやすい年令とその病気が知られています(表 3)。ウイルスの発見からたった4年後に大垣で流行したプール熱でこのアデノウイルスが分離されたのです。新しい問題だったので当然興味の対象とされました。岐阜薬科大学のグループが、アデノウイルスを不活化するために50から100PPMの塩素の入った腰洗い槽を考案して大垣市内の小学校で実験的に使ってみたのが学校のプールに腰洗い槽が設置される始まりだとされます。この50から100PPMという濃度がどうして決ったかはわかりませんが、手などが細菌で汚染された場合、緊急消毒で50-100PPMの塩素の入った液を使っていたからではないでしょうか(表 4)。ただ、このとき、50-100PPMという塩素が健康に与える影響については調べられなかったのです。文部省はこの実験結果をもとに腰洗い槽をプールの附属施設として推進し始めたのです。1964年には「50から100PPM」という数値も明文化されました。しかし、栄養状態もよくなりウイルスが侵入してきても発病しない人もたくさんいることがわかってきました。腰洗い槽があってもなくても、流行るときは流行っているという学校現場の経験的な声が聞こえるようになってきたのです。そして、この数年プールに入った夜はアトピーの症状がひどくなり困るなどの苦情が多くでるようになったのです。しかし、文部省は「これまで特に事故の報告はないので腰洗い槽は安全と考えている」「腰洗い槽の被害の実態調査はしていないし、調査する予定もない。調査や保護者に知らせることは各学校の対応に任せている」と言っていたのです。

厚生省の対応

 本来、腰洗い槽も厚生省の仕事と言えるのですが、腰洗い槽に関しては文部省の数字を「追認」していたといえます。ですから腰洗い槽に関しては独自のデータは持っていませんでした。しかし、問題は厚生省のプール基準は0.4から1.0PPM以下なのに文部省主導の腰洗い槽が50-100PPMという桁違いに高い濃度であったことです。そこで '90年厚生省は「プール基準検討会(座長 野崎貞彦日大医学部教授)」を設置し検討を開始したのです。
 1992年4月28日、厚生省は「遊泳用プールの衛生基準」の改正を行い全国に通知しました。このなかで、最近のプールの浄化能力の向上を前提とすると腰洗い槽がなくても浄化の観点からは問題がないと考えられる。よって、腰洗い槽については「原則として不必要である」としました。
 理由はいとも簡単で、プールの塩素濃度が0.4PPM以上に保たれれば細菌の増殖を抑制し、ウイルスを含めてプールで感染する可能性のある病原体にたいして消毒効果があることが確認されている。また、上限値の1.0PPMを超えても殺菌効果はほとんどかわらないが、目などへの刺激が考えられることから1.0PPM以下が望ましいとしたのです。

はしごを外された文部省


 文部省は学校にプールを建設し続けてきた経過があります。表 5のように公立小学校で '67年には27%だったプールが'93年には小学校で82%にもなっています。公立中学も高校もプールの設置が急ピッチだったことがわかります。それにともない腰洗い槽を設置してきています。ここで厚生省から腰洗い槽は不要といわれると、文部省は税金の無駄使いじゃないかと言われてしまいます。それどころかプールそのものが教育上必要不可欠なものかさえ問われかねません。表 6の私立学校のプール設置率を見ても公立の半分以下ですからプールが学校教育にどうしても必要なものだとはいえないからです。それはさておきまして、厚生省も同じ役所である文部省とあまりにも整合性がないと文部省がかわいそうだと思ったのかも知れません。
「最近のプール浄化能力の向上を前提とすると、腰洗い槽がなくとも浄化の観点からは問題がないと考えられる。また、消毒すなわち伝染病防止のための病原体の殺滅の観点でみると、ほとんどの病原体は0.4r/l 程度の残留塩素濃度でも、適当な時間、塩素と接触することにより死滅すると考えられる。したがって、プール本体の残留塩素濃度の維持こそ感染症予防のポイントであるものと考えられ、かつての衛生状態の悪い時代においては一部のウイルス感染症等に対しては腰洗い槽の存在意義はあったものの、今日ではその効用は限定されたものと考えざるを得ない。
 よって、今日の衛生水準等プールの設備水準の向上を考えれば、腰洗い槽の設置は、原則として不要であると考える。」と結びながら「なお、上記の考え方は、入れ替え式プールのように消毒設備が不十分であったり、一時に多数の遊泳者があることなどにより塩素濃度の急激な低下が予想されるプールにおいて、腰洗い槽を設置することを排除するものではない」としたのです。(腰洗い槽の設置及び使用義務を廃した経緯「遊泳用プールの衛生基準のあり方について」厚生省プール基準検討会報告より抜粋)
 原則的にはいらないが、入れ替え式プールのように消毒設備が不十分であったり、一時に多数の遊泳者いて塩素濃度が急激に低下が予想されるプールについては腰洗い槽を排除するものではないと逃げ道を用意しています。現在、学校のプールで入れ替え式のプールが使われているところはほとんどないということです。

腰洗い槽の管理について

 腰洗い槽の効用は今日では限定的にとらえるべきであるが、特に必要があり腰洗い槽が使用される場合において、腰洗い槽が低温となりすぎないよう配慮するとともに、清浄を保つため専用の循環ろ過装置をつけるなど利用者に受け入れやすいものとすることが望ましい。また、腰洗い槽の本来の目的は、身体の洗浄であることから、高濃度の塩素系消毒剤に過敏な利用者については、シャワーなどにより代替するなど柔軟な運用を考慮すべきである。なお、腰洗い槽、足洗い場を用いる場合、その残留塩素濃度が低いとかえって感染の原因となりかねないことや利用者が多いと急激に残留塩素濃度が低下するおそれもあり、50〜100r/l の範囲に維持すべきと考える。
 なお、この場合の消毒に用いる塩素系消毒薬は医薬品の承認を受けたものとすべきである。(「遊泳用プールの衛生基準のあり方について」厚生省プール基準検討会報告より抜粋)

 腰洗い槽がどうしても必要というプールはどんなものか想像が出来ないのですが、よほどひどいプールという以外ないようです。でも、厚生省もこう書いて全国の学校が腰洗い槽を使い続けても困ると思ったのでしょう、腰洗い槽の本来の目的は「消毒」でなく「洗浄」であるとしたのです。洗浄なんだから塩素系消毒剤に過敏な利用者にはシャワーでよい、なぜなら洗浄なんだからということになるのです。それなら最初からはっきり腰洗い槽はいらないと言えばよいのですが、そういかないのです。

シャワー水の水温低下の防止等について

 身体の洗浄に用いる水の温度が低いと利用者が十分に洗浄を行わないことになりかねないため、低温の水をシャワーにそのまま使用することは避け、できるだけ温水を使うべきである。(「遊泳用プールの衛生基準のあり方について」厚生省プール基準検討会報告より抜粋)
 これだけ読むと銭湯に入るときのマナーかと思ってしまいます。シャワーで洗浄だから水より温水がよい。温水ならゆっくり浴びて肛門のあたりまできれいになると考えているのです。しかし、水着を着て立ったままでシャワーを浴びても肛門のあたりまできれいになると思いますか。私も試してみましたがうまくいきませんでした。

               こうした厚生省の動きに文部省は次のような通知をだしています。

腰洗い槽について

 腰洗い槽については、循環ろ過装置及び塩素の自動注入装置があり、それを十分に機能させることができ、適切な水質が確保でき、さらに児童生徒の健康管理が十分に行われている場合には、必ず使用しなければならないものではない。プールの施設・設備の整備が行われ、また塩素剤の品質が向上してきているので、それらの全ての機能が適性に維持されていれば、衛生的な管理を図ることが可能である。その際入泳者には、シャワーを十分に浴びさせることにより、プールへの汚染の負荷をできるかぎり減少させることが必要である。しかし、入れ替え式のプールは、水の浄化が常に行われないため、水質が悪化し、遊離残留塩素の濃度の維持が困難な場合も多いことから、その場合には、腰洗い槽の設備及びその使用は必要である。
 しかし、腰洗い槽の使用は、プールを衛生的に保つために有効なものであることから、その使用、不使用については、それぞれの学校において、関係者の助言を得るなど、十分に検討し、決定するようにする。
 一度に多数の児童生徒が入泳する学校の場合には、十分にシャワーで身体を洗浄することは時間的に困難な場合がある。したがって、比較的短時間で有効な腰洗い槽の使用は、学校プール水の衛生管理上有効な方法である。
 腰洗い槽を使用する場合には、遊離残留塩素は50〜100r/lとする。ただし、高濃度塩素剤に過敏な体質の児童生徒に対しては、腰洗い槽を使用させないで、シャワー等の使用によって十分に身体を洗浄するようにする必要がある。

 このお役所の文書わかりにくいのですが、ポイントは「下線のそれぞれの学校において決定するように」というところです。学校において決定するようにということは学校長に決定権を委ねたわけです。文部省が決めていたことを学校現場にまかしたということは、流れからして「やめなさいよ」ということなのです。こうして、文部省は自分たちが傷つかずに丸く収めていこうというのです。
 ところが、学校長は「こんな難しいことを決めろといわれても困る」といいながらまんざらでもなさそうな人もいるのです。逆に腰洗い槽をやめて「もし、プール熱が流行ったらどう責任をとるんだ」と腰洗い槽をやめようとしない校長もいます。「こういうことは周りの様子を見てからやればいいんだ。教育委員会がなんとかするだろう」という校長も多くいるようです。 これまではプール熱がでたら「もっと腰洗い槽に塩素を入れろ」などと腰洗い槽の責任にしておけたのですが、こんどはそういかないとおもっているのです。でもこれはプール熱など病気の知識があれば、校長が責任を問われる問題でないということに気がつくはずです。本気で責任とる気なら腰洗い槽の不必要性にとっくに気がついていたはずです。
 わかりにくいのでよく似たことがおきたインフルエンザの予防接種で説明しましょう。義務だといってきたインフルエンザ予防接種が効かないとわかったとき、厚生省は接種するかしないかを保護者に選択させる方法をとりました。保護者がしたいと言えばするがそうでなければしない。しかし、まかされた保護者はどっちがいいのか自分で判断できる情報を持っていませんでした。経験的常識でやめた人が多くいて最終的になくなったわけです。このときもやめたら大流行すると威した人達がいます。ニュースレター1号で扱った「インフルエンザ大流行は本当か」をもう一度読んでください。
 国が推進してきたことで不都合なことが起きるとその責任体制がより下部の人達に分散されるのです。そして、ウヤムヤにされていくのです。本当なら「プールの腰洗い槽が必要かどうかの決定をまかされても困る」と校長達が文部省に言うべきなのです。

プールの水を捨てるときの注意は厳重

 プール・腰洗い槽に残っている塩素は環境汚染源となります。腰洗い槽も、プールの水も殺菌液と同じですから環境に流すと河川の微生物にとって大きな問題になる可能性があります。ですから次のような基準で排出することになっています。

「河川へ直接排水する場合」

 プール水は、遊離残留塩素0.4r/l〜1.0r/l、腰洗い槽を使用する場合は、50r/l〜100r /lの塩素系消毒薬で消毒することとなる。通常の塩素消毒の濃度では、人には普通無害であるが河川の生態系に対しては塩素の作用により、影響を及ぼすことが考えられる。そこでプール水・腰洗い槽の水を排水する場合には、必ず次の方法によって脱塩素し、残留塩素測定器で残留塩素が0.1r/l以下であることを確認してから排水する。
 プール本体、プールサイドの清掃等に塩素剤を使用した場合の清掃後の排水も同様に処理してから放流する。
(ア)中和剤(チオ硫酸ナトリウム:ハイポ)により脱塩素させる。
 反応式は次のようになる。
4Cl2+Na2S2O3・5H2O → 2NaCl+2H2SO4+6HCl
 残留塩素の中和に必要なハイポの量は上記の反応式より 4モルの残留塩素(分子量:71×4=284)と1 モルのハイポ(分子量:248) であり、重量比では284/248=1/0.9であるが、確実性のために同重量のハイポを用いるとよい。
 例えば、腰洗い槽水 1m3の残留塩素濃度が10r/l であれば、ハイポの必要量は10gとなり、50r/lでは50g、100r/l では100gとなる。
(イ)排水槽に一時的に貯留させたり、一昼夜以上放置し残留塩素を自然消失させる。

「下水道へ直接排水する場合」

 遊離残留塩素が0.4〜1.0r/lと低濃度にあるプール水本体の排水は、直接に下水道に放流しても周辺環境に影響を及ぼすことはないが、50〜100r/l にある腰洗い槽からの排水及びプール清掃後の排水は、下水道管を通じて周辺住宅の下水管から猛毒な塩素ガスが逆流することも考えられるので、アと同様に処理して排水する必要がある。
(「学校環境衛生の基準」解説(1995版)日本学校薬剤師会)

腰洗い槽を廃止しているところ(これは養護教諭、保健婦など関係者に問い合せたものをまとめたものです。部分的には不正確なものも含まれている可能性があります。全国の状況をお知らせください)

・石川県金沢市は腰洗い槽が昔からない(特別な病気の流行はない)
・大分県玖珠郡(大分県はほとんどの学校で廃止している)
・北海道函館市は市民の申入れで市教委から廃止の連絡があり廃止している兵庫県津名郡(学校の対応でやっている)
・大阪府東大阪市、吹田市、摂津市、柏原市、枚方市(10校ほどやめている)
・茨城県稲敷郡では学校単位で自校では教頭と相談して廃止した
・静岡県富士市38校中7校廃止
・静岡県志太郡全部ではないが廃止している
・静岡県天竜市自分の勤務校は止めている
・広島県三原市、尾道市、福山市、は廃止
・宮城県多賀城市と名取市と石巻市はほとんどしていない
・岡山県真庭郡落合町・神奈川県川崎市は昨年度より廃止している
・横浜市は学校対応
・岩手県花巻市は小中23校中半数が廃止している(使用しているところも濃度を低くしている)
・長崎県生月町、佐世保市は学校長の判断で2校廃止、東彼杵町
・福岡県久留米市・岩手県久慈市は自校プールが2−3校に1つの割合で市営プールを使う
・滋賀県はまちまちだが自校ではやめている
・東京都目黒区、葛飾区小菅小学校など3校
・奈良県曽爾村(そに)・鹿児島県輝北町など

塩素の問題点

A,塩素そのものの毒性は、塩素は眼および呼吸器系の粘膜に極めて強い刺激性をもつ。湿気と接触すると発生基酸素を生じ、また塩酸を形成する。両者の存在で生体組織は強い炎症を起こす。肺ではうっ血、水腫が生じる。3.5ppmで臭気を感じ、15ppmで眼、呼吸器系の刺激作用が有る。眼、鼻、喉の刺激で痛み、咳、窒息感、胸部のしめつけられる痛みをおぼえる。
50ppmでは一時間以内の曝露でも重篤な障害をうける。胸部の疼痛をおぼえ、粘液を吐き、喀血をみる。100ppmでは瞬間的に呼吸困難、脈拍減少、チアノーゼを起こす。1000ppmでは即死する。長期曝露では、鼻、咽頭粘膜の潰瘍や気管支炎その他の呼吸器系疾患がみられる。(産業中毒便覧より)プールで泳いでいれば数分で殺菌される。 手の指などは100ppmで瞬間的(数秒)に殺菌できる。白木綿や白麻を100から200ppmの液につければ20-30分で漂白が終わる。

B,さらし粉、亜塩素酸ナトリウムなど塩素系の化合物の中には遺伝子の本体であるDNAと反応して遺伝的な問題をもつものが有り問題。また発癌性有機塩素化合物を生成させるので問題。(環境ガン職業ガン化学ガン)

C,トリハロメタンの問題

 トリハロメタンは水のなかの汚れとしてある有機物と殺菌用の塩素とが反応を起こし生成される。トリハロメタンの代表的な化学物質がクロロホルムである。クロロホルムは昔全身麻酔に使ったこともあったのだが、アメリカの癌研究所でマウスに毎週5日間78週にわたって毎日80mgを経口投与したところ、その95ー98%が肝臓癌になり8ー14mgでも雄は36%、雌は80%発癌すると報告されている。
 1972年オランダのロッテルダムの水道水からクロロホルムが発見された報告がでてすぐの、1974年アメリカのニューオーリンズ市の水道水の飲用者と癌死亡率の間に高い相関が有るという疫学調査が報告された。その後ニューヨーク州の疫学調査でも同様の報告が出されている。(表 7)

 プールで子供たちが泳げば汗もでる。こうした有機物と塩素が反応してトリハロメタンを生成する可能性は高い。西ドイツのラールは室内プールのトリハロメタン量を測定したところ、38ヵ所の平均値は110ー267μg/lで、一番高いところでは1066μg/lであったと報告している。フランスのChambonらも同じ様な報告をしている。
 我が国では石川らが室外プールの調査結果を1ー56μg/l報告している。30ヵ所の平均で24μg/lであり、過マンガン酸カリウム消費量との相関が認められなかったことより、空中への揮散が激しいためと考えられている。泳ぎながら時には水を飲んだり、呼吸をするときに吸込んでいるにちがいないが、その結果は数十年たってみないと分らない。

D,シアヌル酸および塩素化イソシアヌル酸の問題

 塩素の安定化剤としてプールに使用される。このシアヌル酸および塩素化イソシアヌル酸の使用されていることすら知らない教員も多い。
 この化学物質についての総説をみると次の様に記載されている。
 シアヌル酸をラットおよびマウスに体重1kg当たり150ー300mg、280ー310mgを飼料に入れて与えた。ラットでは、19ヵ月で30匹のうち1匹に肉腫が現れ、つづいて21.5ヶ月、25ヶ月の間に他の四匹にも腫瘍が確認された。内2匹は線維線腫。マウスでは、骨髄性白血病が2例、23ヵ月の間に現れた。
 また、皮膚へ週3回20%のシアヌル酸を塗布したところ2匹の肝臓に線維腫と血管腫ができた。という報告がされている。

註:ウイルスメモ

アデノウイルス:

 アデノウイルス感染症はかなり一般的なウイルス感染症であり、臨床的には呼吸器感染、結膜炎、出血性膀胱炎、関節炎、腸重積、脳炎、胃腸炎などの症状が知られている。このほとんどが非致死的な感染である。
 1953年,Roweらが摘出した扁桃の組織培養中にアデノウイルスを発見した。その後、咽頭結膜熱、流行性角結膜炎、急性出血性膀胱炎、乳児腸重積症などからもウイルスが分離された。
 アデノウイルスは世界中に分布しており、いろいろな症状を示す。ウイルスに感染しても発病しない(不顕性感染)も多い。ウイルスは呼吸器と腸で増える。咽頭から分離されやすい型と糞便から分離されやすい型とがある。呼吸器感染の原因となることが多い 1−7型は咽頭、糞便のどちらからも分離される。9 型以後のウイルスは糞便からのみ分離されており、経口感染が主要経路と考えられている。大部分の呼吸器ウイルス感染とは対照的に、アデノウイルス感染後に残る免疫は、同一種ウイルスにたいしは十分な抵抗を与える。母体よりの移行免疫は 6か月以前の幼児を重篤な感染から守る。

エンテロウイルス70:

 1969年 6月、西アフリカのガーナの首都アクラで新しい結膜炎が突然発生した。「流行性出血性結膜炎」と命名されたが、同じときにアメリカの宇宙船アポロ11号が月に到達していたので「アポロ病」という名前が与えられた。日本には1971年に上陸した。日本では「急性出血性結膜炎」と名づけられた。感染しても発病しない不顕性感染も多い。

ポックスウイルス:

ミズイボの原因となるウイルスで、全ウイルスのなかで最も大きい。人間で感染を承知した人に接種した実験では14-50日の潜伏期の後ミズイボができた。

プールの水質基準

(ア) 水素イオン濃度は、pH5.8 以上8.6 以下であること。水が酸性に傾くと浄化能力が低下し、金属の腐食が進行するといわれ、逆にアルカリ性に傾くと消毒用の塩素剤の効果が低下することから、中性付近を維持する必要がある。
(イ) 濁度、透明度はプール底の白線が明確に見える程度は濁度 3に相当するが、水質を正確に把握するために濁度計を用いて測定すること。
(ウ) 遊離残留塩素は、プール水全ての点で0.4r/l以上であり、1.0r/l以下が望ましい。
 遊離残留塩素はプール水の消毒管理の指標であり、一定濃度の保持は、伝染病予防などプールの衛生管理において重要な意義をもっている。0.4r/l以上維持されていれば細菌類の増殖を抑え、ウイルスを含めてプールで感染する可能性のある病原体に対して消毒効果があることが、実験的にも経験的にも確かめられている。
 上限値については、その濃度が1.0r/lを超えても殺菌効果はほとんど変わらない。また、高濃度になると目への刺激が考えられることなどから1.0r/l以下が望ましい。

学校プールにおける諸基準等についての参考資料

◎厚生省(遊泳用プールの衛生基準)H4.4.28
◎文部省(学校環境衛生基準) H4.6.23
◎衛生局(遊泳用プールの衛生基準)H4.4.28
◎教育庁(学校プールの衛生管理・安全管理等) H5.3.8
◎「学校環境衛生の基準」解説(1995版)日本学校薬剤師会
◎保健衛生部(中野区プール取締条令・同施行規則)H5.4.1
◎学校教育部(プール管理の手引き) 毎年改定 

 

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