前回、前々回で食物の国際的安全基準が作られようとしている背景を書いてきました。ここで一躍脚光を浴びることになったのが国連機関のコーデックス委員会(FAO/WHO合同国際食品規格委員会)です。ここには130ヵ国以上の政府が加盟しています。さて、設立の目的は「消費者の健康を保護し、食品の健全な貿易慣行を確保し、国際貿易を促進するための食品の国際規格を作成すること」となっています。部会と専門家委員会があります。
しかし、各国の代表も国々の実情が違いますから自分の国が損するような意見でまとまってしまうことも起きます。そこでまとめた意見がなんら強制力を持つものでないことを明確にする必要があります。そのために報告書には「この報告書は、専門家グループの見解をまとめたもので、WHOの決定や政策ではない」とわざわざ断わり書きを表紙につけていました。ですから、この委員会の基準は勧告基準であって、各国政府はその基準を採用する義務はありません。でも、日本政府は(アメリカ主導の動きに)先手必勝とばかりに、輸入食品の残留基準を大幅緩和し(農薬残留基準は26農薬53作物であったが、これを98農薬130作物に)、ホルモンや抗生物質の残留を認めようと動いたのです。ここで問題なのは「国連機関でいいといってるならいいんじゃないの」という風潮です。これは食の安全ばかりじゃなく、国家の安全保障も国連で決めたんならいいんじゃないというPKO問題などと共通する問題です。話しが飛びました。日本人がこうした国連信仰を持つのは、学校で「世のため人のため世界のために活動している理想的組織として国連が教えこまれてきたからに違いないと思います。でも、ここに落とし穴があるのです。
コーデックス委員会が作る基準が甘いのです。オーストラリアの残留農薬基準で比較可能な農薬137のうちより緩い基準が81あったと報告されています。日本でもクロルプロファム(CIPC)というジャガイモの芽止め農薬の残留基準を50ppmという値にしました。しかし、これはそれまで日本政府が決めていた基準の1,000倍も緩い基準だったので、日本の消費者も安全基準が甘くなる危険性を感じ取ったのです。でも、どうしてこんなことになるのでしょうか。
20数年前まで、私も国連機関は立派な人たちがまじめに世界のことを考えていると思っていました。ところがたまたまレモンのかび防止剤のことを調べているときに、この委員会のメンバーに疑問を持ったのです。かび防止剤の残留基準として10ppmという値が決りました。このかび防止剤はアメリカのダウ・ケミカルという会社が製造していました。そして、この会社のH・C・スペンサーという人が残留農薬部会の委員会の議長役で世界各国には10ppmまで残留していても大丈夫という結論をだしたのです。それも、審議に使ったデータが2年かけてやらなければならない慢性毒性試験を1年しかやっていないデータでOKをだしていたのです。もっと悪いのはアメリカ国内ではこのかび防止剤がレモンから少しでも検出されれば廃棄処分という農薬だということです。自分の国では使わず外国には使わせるというのです。というように、この国連のコーデックス委員会の問題は委員の顔ぶれです。例えば、日本からも雪印乳業とか味の素の社員が全国輸入食品安全促進協議会や日本食品衛生協会の所属ということで参加しています。ほかの国からも企業の人間が委員として入っきます。こうして国際機関を使って自分たち企業の利益を守っているのです。こうして基準が消費者の立場でなく企業よりになることは間違いありません。ただ、この基準は各国政府が受入れなければそれでよいのです。しかし、実験やデータを集めて基準を作るまで余裕のない発展途上国はこうした基準に合せてしまうことが多くなります。こうした途上国やアメリカなどの食料輸出国は日本のような食料輸入国に厳しい安全基準で輸入を制限していると責めてきます。こうなると工業製品輸出国の日本にとってはまずいという政治判断で、安全基準を緩めるという挙にでるわけです。ここには企業利益、経済優先の考え方がはっきり出されています。でも、国民はたまったものではありません。(完)
WHO/FAO合同国際食品企画委員会に参加していた企業名抜粋
(比較的日本人になじみのあるもの) |
住友化学
北興化学
クミアイ化学
三井東圧化学
日本農薬
日本曹達
Sdsバイオテック
日本冷凍食品検査
日本食品添加物協会
全国トマト工業会
日本食品衛生協会
日本冷凍海産物輸出協会
日本健康食品協会
農薬工業会
日本栄養食品協会
国際酪農連盟
日本動物薬事協会
全国輸入食品安全促進協議会
ネッスル
コカコーラ
ペプシ
モンサント
メルク
バイエル
ロシュ
マコーミック
デュポン
モンサント
チバ・ガイギー
ヘキスト
メレル・ダウなど |
出典:コーデックスを斬る−これが国際食品規格委員会の参加者だ−
著者:ナタリーアヴェリィ、マーチィン ドレイク、ティム ラング
翻訳:伊場みか子他
発行:安全な食と環境を考えるネットワーク
連絡:03−5474−5411 |
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