厚生省は農薬だけでなく抗生物質やホルモン剤の残留基準を食品衛生調査会に諮問しました(表1)。日本では肉や魚に抗生物質や抗菌剤が残ってはいけないことになっていたのですがこれを認めようというのです。
1954年、米国でオス牛の肉を柔らかくするために合成女性ホルモンを与え始めました。当時、ホルモン剤として使われたのがジエチルスチルベストロール(DES)という長い名前の合成女性ホルモンでした。このDESは人間の薬だったのですが家畜にも利用したのです。ところが、このDESが1971年大きな問題になったのです。
A.L.ハーベスト博士は米国東部に住む女の子たちのなかに思春期になると腟がんになる子が多いことに気がついたのです。膣がんなんてめったに若い人がかかる病気ではありません。すぐ原因が調べられました。その結果、膣がんの子どもに共通なのは、この子たちの母親が若いときにこのホルモン剤を飲んでいたことだったのです。その後の調査で子宮がんや膀胱がんも多くなること、それに女の子だけでなく10歳から19歳の男の子にも前立腺癌や睾丸にもがんができることが報告されたのです。
家畜に使われたDESについても肉を食べた人に悪影響をおよぼす可能性がでたためストップになりました。しかし、牛にはDESに代る他の女性ホルモンが使われたのはいうまでもありません。
1981年、イタリアで少年の胸が大きくなり原因は肉に残った女性ホルモンらしいというので使用をやめた事件が報道されたのです。そして1989年1月より、EC(欧州共同体)はホルモン剤の使用とホルモン剤を使った動物の移動とその輸入を禁止したのです。その決定に肉牛輸出国の米国は猛反発したのです。ECは自分たちの肉を売りたいために米国の安い牛肉を輸入できなくする口実にホルモン剤を使ったというのです。
同じような問題が抗生物質にもあるのです。抗生物質は人畜共通で使用するため人間の病気にはね返ってホルモン剤以上に深刻な問題になっています。
外国から肉の輸入がどんどん増えているのに各国の抗性物質の使用実態はほとんどわかっていません。米国の
G.M.クラークの調査によれば1973年に1592頭中46頭(2.9%)の牛に抗性物質が違反残留していたと報告されています。また、M.K.コーデルの1985年の調査でも1.6%と報告されています。子牛の場合はもっと高く1882頭中147頭(7.8%)に抗性物質が違反残留していたと報告されています。また、米国の豚は0.8%から2.7%の間で違反残留が認められています。
こうした抗生物質の使いすぎは耐性菌の出現を急激にすすめています。現在、抗生物質による耐性菌の問題は大きく、院内感染で問題になっているメシチリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の問題や、コンプロマイズドポストと呼ばれ、病気で抵抗力のなくなった患者が本来なら病気を起こさないような菌にやら、そのときに抗生物質が効かないのです。そのために症状は悪化しどんどん重症になってしまうのです。しかし、こうした安全性の問題が食料輸出国に大きな足カセになってきたのです。この安全という当たり前の要求が輸出の制限になることに危機感を持った米国はガットという国際機関を利用し、各国に圧力をかけて、この安全というハードルを一気に低くする挙に出たのです。
表1.厚生省が検討の薬剤 |
抗生物質(オキシテトラサイクリン) |
抗菌剤(カルバドックス) |
合成ホルモン剤(ゼラノール、トレンボロンアセテート) |
寄生虫剤 (イベルメクチン、クロサンテール、フルベンダゾール) |
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